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がん免疫療法、その理解で合ってる?ノーベル賞で注目「免疫」の意味
京大の本庶佑さんがノーベル医学生理学賞を受賞し、にわかに脚光を浴びている「がん免疫療法」。でも「免疫」の意味って、ちゃんとわかっていたっけ……? 免疫療法を取材してきた記者がQA方式で解説します。(朝日新聞科学医療部記者・服部尚)
――ノーベル賞、たいへんな話題になったけど、あっという間に2カ月経ちましたね
授賞式と晩餐(ばんさん)会が10日(日本時間11日未明)に近づいてきました。受賞が決まってから、免疫療法って言葉が改めて関心を浴びました。
――そもそも「免疫」って何ですか?
ウイルスや細菌が体に入るとさまざまな病気を起こします。そうした外敵から体を守るのが免疫システムです。
――体の中の細胞を擬人化して話題になったアニメ「はたらく細胞」というアニメもありますね。T細胞などという免疫細胞のことですよね。それが「がん」とどんな関係があるんですか?
がん細胞は、遺伝子異常が起こって、むやみやたらに増殖するようになった細胞のことです。
がんって、毎日私たちの体の中で生まれているんですよ。ふだんは増えないように免疫の力で抑えられていると考えられています。
――アニメでも、がんに変わってしまった細胞が、免疫たちにやっつけられる回がありました。頑張ってくれてるんだなぁ、自分の免疫細胞たち。
でも、何らかの理由で免疫の攻撃が効かなくなって、がん細胞が異常に増え続ける状態が、病気のがんです。
なので昔から、免疫細胞の働きをさらに活性化させて、がんをやっつけてもらおうという研究が進んでいました。
――免疫細胞たちをパワーアップさせようということ?
「免疫を活性化させる」というのは、自動車で言うならアクセルを踏むような治療です。
たとえば、がん細胞を攻撃するために周辺に集まっていると見られる免疫細胞を取り出して、培養して増やし、ふたたび体に戻す方法などがあります。
「がんワクチン」は、がんを「体の中の邪魔なもの」「排除するべきもの」と認識する細胞を増やそうとする治療です。
――ど、どういうことですか?
がん細胞には、免疫細胞が目印にする特徴的なたんぱく質があるのです。
人工的にこの目印のたんぱく質の一部をつくって、患者に注射し、目印に反応する免疫細胞を増やして攻撃力を高めようという試みです。
――戦ってくれる免疫細胞をたくさん増やそうという治療なんですね。確かに、数が多ければ、がんを目いっぱい攻撃してくれそうです。
残念ながら、いずれも結果は思わしくありませんでした。
今でも研究は続いていますが、今回の受賞分野の「免疫チェックポイント阻害剤」の登場まで、がんの免疫療法はなかなか光が見いだせていませんでした。
――でも、いろんな「がん免疫療法」の広告をネットなどで見かけます。
公的医療保険が適用されない自由診療のがんワクチン療法などが紹介されています。
科学的な裏付け(エビデンス)があれば、薬として承認されたり、公的医療保険の適用になったりしますが、残念ながらそうした成果は得られていません。
何百万、何千万円かけた人もいるそうです。通常の治療と併せて受ける場合もあり、果たしてどちらの効果なのか、あいまいになりがちです。
――多くの人に効果があるというエビデンスがあれば、保険適用になっているってことですね。でも、本庶さんの研究から開発された「オプジーボ」は保険適用されていますよね。
そうです。すでに国内では7種類のがんを対象に適用されています。
今回受賞した分野「免疫チェックポイント阻害剤」は、これまでの免疫療法とは、全く別の仕組みの治療法なんです。
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