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ダイエットの先、カロリーにおびえ…やせているって本当にいいこと?
なんとなく始めたダイエットで、まさかふつうに食べられなくなるとは思わなかった――。東京都内に住む高校2年生の女性は摂食障害で一時24キロまで体重が減った。今も「食べる」ことに怖さがあるが、入院や部活動に打ち込む日常を通じ、「やせているって本当にいいことなの?」と疑問を抱き始めています。(朝日新聞記者・水野梓)
ダイエットを始めたのは中学3年生の頃。150センチで体重は45キロほどだった。6月にある修学旅行でお風呂に入るときに、「やせていた方がいいな」と思った。
以前、健康診断で配られた結果に載っていた「肥満度」はわずか数パーセントだったと記憶している。学童では20%以上~30%未満が「軽度肥満」とされるが、クラスメートが「私は肥満度がマイナスだった」と話すのが、自慢気に聞こえた。
友達2人はやせていてかわいいとも感じていた。「私は太ってるんだな」。食事の量をだんだん減らすようになった。
給食は「1食800キロカロリーもあるんだ」と驚いた。白米、おかずの量を減らした。それでも気が済まない。両親が共働きだったので、夏休みに入るといくらでも食事を減らせた。
7歳下の妹の食事量と比べてしまう。クラスのほかの子が少ししか食べないと、「私ももっと減らさなきゃ」と焦るようになった。
夏ごろには、生理がとまった。母に連れられて産婦人科を受診したが「食べれば戻るから」と言われるだけ。メンタルクリニックでようやく「拒食症(摂食障害)」と診断された。
体重が30キロ台になり、高校1年の6月から自宅療養をしたが、夏休みには体重が24キロまで減った。座布団から立ち上がるにも、階段を上るのにも手助けが必要だった。何かを口にしても消化できない。
ハッキリした記憶がないまま、気がついたら病院のベッドの上だった。幻聴が聞こえ、うわごとを言うようになり、入院していた。すると一時的に、まるでスイッチが入ったように、シュークリームなど手当たり次第に食べ物を口に入れた。
白米やおかずを、少しずつ、口にするようにした。体重が30キロ台に戻って退院した。
9月後半には午前中だけ高校に登校できるようになった。徐々に食べる量が増えて、今年1月には学校に戻り、6月からは管弦楽の部活動にも復帰できた。
部活に打ち込むようになって、「体力が必要だ」と感じるようになった。部のみんなと一緒に、ピザやパスタを口にできるようにもなった。
部活のあとにおなかがすいてコンビニでおにぎりを買うこともある。「体の声に正直になってきたのかな」と思う。
生活の大きな部分を部活が占めるようになって、体重や体形、食事のことを考えるのが「一番大切なこと」ではなくなった。
だいぶ気持ちは持ち直したが、今も唐揚げやコロッケ、揚げ物は食べられない。「自分がふつうに食べているのか」という不安はつきまとう。
週1回の通院では、体重を見ると一喜一憂してしまうから、聞かないようにしている。家の体重計も壊した。
それでも、食にまつわる楽しい経験も増えてきた。9月下旬、友達とディズニーランドに行った時にハンバーガーを食べた。「雰囲気が楽しければ食べられるんだ」。少しホッとした。
休日に母親と買い物に出かけた時は、これまではお総菜やケーキが並ぶデパ地下をぐるぐる回っていたのに、「どんな服が着てみたいか」「これがかわいい」。そんな話をしながら洋服を選んだ。
その帰り、「かき氷、食べたい」と母に声をかけた。母がうれしそうな顔をしていて、専門店のふわふわのかき氷はおいしかった。
食事のカロリーや量にとらわれず、「食べる」に束縛されずに、楽に過ごせる時間がもっと増えたらいいな、と願っている。
24キロだった時は「みんなと私は違う」という優越感を持っていた。
けれど、今、当時のアルバムをめくっても「かわいくない。勘違いしていたな」と思う。
時々、クラスメートに「足が細くてうらやましい」と言われるが、こう返す。「やせすぎててもショートパンツだって似合わないからやめたほうがいいよ」
LINEニュースやインスタグラムにあふれる芸能人の細い太ももの写真や、ダイエット情報、「○キロやせました!」という情報や広告。でも、こう思うようになった。
「やせているって本当にいいことなのかな」
自分にしか分からない「病気のときのつらさ」を生かして、医療関係者として働きたいと、思い描き始めている。
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