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#47 平成家族

子どもへはなぜ「愛情弁当」? 共働き増えても、愛情論が再生産

子どもへの弁当は、なぜ「愛情」に重きが置かれるのか(写真はイメージ=PIXTA)
子どもへの弁当は、なぜ「愛情」に重きが置かれるのか(写真はイメージ=PIXTA)

目次

 昼食に弁当を作る理由は、家計の節約のためだったり、健康を考えたり。人それぞれでいいはずが、子どもに対しては「愛情弁当」という意味づけがされて、そこに苦しい思いをする人たちがいます。なぜなのか、識者と考えます。(朝日新聞記者・長沢美津子、田中聡子、有近隆史)

愛情と弁当を結びつける議論は、これまでもたびたび話題になってきた
愛情と弁当を結びつける議論は、これまでもたびたび話題になってきた

ルーツは中世、戦いや農作業に

 そもそも、弁当とはどういうものだったのでしょうか。

 近代の料理書から食と社会を読み解いている東四柳(ひがしよつやなぎ)祥子・梅花女子大准教授(比較食文化論)によると、日本での弁当のルーツは中世、戦いや農作業の時に干したご飯などを持って行ったものにさかのぼります。

 ここにレジャーとして花見や芝居見物などの際のハレの弁当という流れが加わりました。色とりどり盛り付けにも気を配る幕の内弁当は、プロの料理人の仕事でした。

 仕事や学校に出かける家族のために、毎朝の弁当づくりが都市部の家庭で家事に加わったのは明治の終わりごろのこと。昼の弁当を腰にさげていく勤め人を指した「腰弁」という呼び名には、揶揄するニュアンスもあったようだ、といいます。

 「西洋から家政学が輸入された明治期、家事の指南書では外食は高くつくばかりか、材料や調理する衛生面にも問題があったので、家から弁当を持たせることを勧めている。当時の目的は『経済と衛生』です」

 背景には、富国強兵の考えから、家庭には国に貢献する人材を供給することが求められた状況があったといいます。家の中を差配するのは主婦で、家族の食事管理は特に重要な職務でした。

1949年当時に撮影した東京・新橋演舞場の観客席。幕間に夕食の弁当を一斉に食べる
1949年当時に撮影した東京・新橋演舞場の観客席。幕間に夕食の弁当を一斉に食べる 出典: 朝日新聞

なぜ、子どもは愛情?

 日本女子大などで非常勤講師を務める野田潤さん(社会学)は、「味の素」が既婚女性を対象に実施している食生活の考えや行動についての全国調査(AMC調査)のあるデータに注目します。この調査は1978年から数年おきに15回継続して実施されていて、質問は最近のもので約800問。

 2012年の調査で、「弁当作りを通じて愛情を伝えたいか」との質問に対し、小学生の子に弁当を「ほぼ毎日作る」層では61.1%が「はい」と答えている一方、60歳未満の夫に「ほぼ毎日弁当を作る」層では、23.0%でした。

弁当を通じて愛情を伝えたい女性の割合
弁当を通じて愛情を伝えたい女性の割合

 ほとんどの小学校で給食が提供されているため、「ほぼ毎日」の層はごく限られるものの、夫への弁当との愛情の差は明らかです。さらに、夫の弁当を「ほぼ毎日作る」人の割合は世帯年収が低くなるほど増加しており、経済的な理由から弁当を作っていることがうかがえます。

 なぜ子どもに対しては、「愛情」に重きが置かれるのか。「日本は『お母さんじゃなきゃだめ』『手づくりがいい』という意識が強い」と野田さんは指摘します。

 「合理的ではないように見えるものの、唯一、この考え方が機能したのが高度経済成長期。男性は外で働き経済的な役割を担い、女性は食事づくりなど労働力のメンテナンス役とされたこの時期に、『愛妻弁当』という言葉も生まれたようです。現在子どもの弁当に使われることの多い『愛情弁当』という言葉も、これ以降、広まっていったものと思われます」

愛妻弁当を食べるサラリーマン=1967年
愛妻弁当を食べるサラリーマン=1967年 出典: 朝日新聞

共働き世帯が増えても、弁当愛情論は再生産

 高度成長期に生まれた世代が60代、その子どもたちが30代の子育て世代になっています。栗山直子・追手門学院大学准教授(家族社会学)は、「親の時代に比べて共働き世帯が増えても、弁当愛情論は再生産されている」と話します。

 「日本社会には、何のためにという理由はさておき、集団の中で規律を守って行動することを目的化する傾向が見られます。高度成長期に家事全般をこなすという同じ集団に属した女性たちが、子どものためには手をかけて弁当を作るのが『当たり前』として社会に浸透した。それが続いています」

 栗山さんが話を聞いた独身の40代男性は、健康管理と楽しみを兼ねて自作の弁当を職場に持っていきます。SNSに写真をアップすれば、「いいね!」が次々に付きます。ただし男性上司からは「そんな余裕があればもっと働けるね」と言われ、女性の同僚たちにも「そんなに立派なのを作られると引いてしまう」と歓迎されませんでした。

インスタグラムで「#弁当」と検索すると様々な弁当写真がヒットする
インスタグラムで「#弁当」と検索すると様々な弁当写真がヒットする

 一方で、調査に行ったニュージーランドの3世代家族では、昼の弁当はパン、リンゴ、チーズなどをそのまま持っていきます。たまにソーセージが加わる日も、焼くのは母親だったり父親だったり。だれの役割とは決まっておらず、手の空いている大人が子どもの食事の世話をしているだけでした。

 「それで家族の機能や親子の関係が崩れるといった議論は聞きませんでした」

連載「平成家族」

 

この記事は朝日新聞社とYahoo!ニュースの共同企画による連載記事です。家族のあり方が多様に広がる中、新しい価値観とこれまでの価値観の狭間にある現実を描く「平成家族」。今回は「食」をテーマに、12月1日から公開しています。

みんなの「#平成家族」を見る

【お知らせ】「平成家族」が本になりました

 夫から「所有物」のように扱われる「嫁」、手抜きのない「豊かな食卓」の重圧に苦しむ女性、「イクメン」の一方で仕事仲間に負担をかけていることに悩む男性――。昭和の制度や慣習が色濃く残る中、現実とのギャップにもがく平成の家族の姿を朝日新聞取材班が描きました。

 朝日新聞生活面で2018年に連載した「家族って」と、ヤフーニュースと連携しwithnewsで配信した「平成家族」を、「単身社会」「食」「働き方」「産む」「ポスト平成」の5章に再編。親同士がお見合いする「代理婚活」、専業主婦の不安、「産まない自分」への葛藤などもテーマにしています。

 税抜き1400円。全国の書店などで購入可能です。

『平成家族』~理想と現実の挟間で揺れる人たち~(朝日新聞出版)

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