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2018年11月24日

日系ブラジル人が過疎地の農家になる日 受け入れ30年「共生」の現実


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日系ブラジル人に畑を案内する伊熊営農クラブ代表の後藤京一さん=愛知県豊田市

日系ブラジル人に畑を案内する伊熊営農クラブ代表の後藤京一さん=愛知県豊田市

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 バブル期の労働者不足のため日本が日系3世までに門戸を開き1990年代から、大勢の日系ブラジル人が日本に出稼ぎに来た。自動車産業が盛んな愛知県豊田市では自動車部品などの工場で働く人が多いが、豊田市の過疎地で、ブラジル人たちの働く場を、農業にも広げてみてはという取り組みがある。現場を訪ねた。(朝日新聞社会部記者・平山亜理)

人材会社が農業の手伝い

 11月10日、愛知県の豊田市駅前で、日系3世の村山グスタボさん(28)と待ち合わせた。前日の大雨がうそのように、青空が広がっていた。

 紅葉がきれいな山道を運転してグスタボさんが連れて行ってくれたのは、豊田市駅から1時間ほどの農村部にある築羽農村環境改善センター。ここで開かれる感謝祭に参加するためだった。

 グスタボさんが働く人材会社「マントゥーマン」(本社・名古屋市)は4年前からここで、農業の手伝いをしている。名付けて「元気ファーム」。

 農業の担い手がなく荒れ果てた田んぼや畑を耕し、コメや野菜を育てる手助けだ。里芋や枝豆、白菜やキュウリなどの収穫もする。

感謝祭の後片付けをする日系ブラジル3世の村山グスタボさん

感謝祭の後片付けをする日系ブラジル3世の村山グスタボさん

シュラスコも豚汁、餅も

 参加するのは日系3世や4世の20代のブラジル人や家族、友人たち。幼いころ出稼ぎの親に連れられてきた人や、日本で生まれた人もいる。その中心にいるのが、グスタボさんだ。

 この日は、ブラジル人が参加した初めての収穫感謝祭だ。広場には、地元のお年寄りや、同社で働くベトナム人やモンゴル人たちも含め、100人近くが集まった。

 焼き肉のいい香りが立ちこめる。ブラジル人たちが作る「シュラスコ」だ。前夜から、ブラジル人の社員と家族が、牛肉をビールやニンニクソースの下味をつけてくれたものだ。日本人も豚汁や、ついた餅を振る舞う。

ブラジル人の焼いたシュラスコの肉を楽しむ地元のひとたち

ブラジル人の焼いたシュラスコの肉を楽しむ地元のひとたち

「もめ事」相次いだ90年代

 グスタボさんは6歳の時に日系人の両親に連れられて、来日。ブラジル人の割合が、住民の半分を超える愛知県豊田市の保見団地で育った。

 90年代当初は、団地ではゴミ出しや騒音などでもめ事が相次いだ。

 外国人の子どもの受け入れ体制が整っていない地元の公立小中学校からはじき出された少年たちが、非行に走ることもしばしば。居場所もなく暴走族とけんかを繰り返した。右翼が街宣車でやってきて、「ガイジン、出て行け!」と叫んだ。

 愛知県県営住宅自治会連絡協議会の会長で、「外国人との共生を考える会」の会長でもある川部國弘さん(67)は、「共生という言葉はきれいだが、クリアしなければならないことは多い」と言う。

 ブラジル人の中には手続きをしないまま粗大ゴミを捨てていったり、自治会役員が共益費の集金をしようと家を訪ねたら拒否され、暴力を振るわれたこともあるという。

 川部さんは、県営住宅の実態を「限界団地」と呼ぶ。「外国人は出て行ってほしいのが本音だ」という。労働力、として外国人を使うならば、彼らが社会に溶け込めるように、企業や自治体として、日本のルールを教えるなど責任をもってほしい、と考える。

肉を食べる日系ブラジル人の村山グスタボさん

肉を食べる日系ブラジル人の村山グスタボさん

平成の30年間で進んだ定住

 ともあれ、平成の30年近くを費やし、リーマン・ショックの苦境を乗り越えたブラジル人は定住志向が強まった。

 グスタボさんは、非行少年たちとは交わらなかった。両親とも、工場で働いていたが、いつも、宿題はやったか、体調は大丈夫かと気にかけてくれていた。

 小学校から高校まで日本の公立校に通い、卒業後は専門学校で英語を学んだ。外国人の支援などの仕事をした後、マントゥーマンに入社。

 3つの言葉を使いこなしそれぞれの文化を知り、気遣いも出来る。ブラジル人の採用や広報もする。

愛知県豊田市の農村部でサンバを踊るブラジル人

愛知県豊田市の農村部でサンバを踊るブラジル人

高齢化する日系ブラジル人

 「元気ファーム」もその一環だ。人材会社に登録し、工場で働く日系ブラジル人たちも高齢化している。

 かつて、ブラジルに移民して農業をしていた人たちの子孫たちが、日本に来ているのだから、日本の農業は大きな可能性があるのではないか。ブラジルで農業を営んでいた人もいて、喜んで農作業をしてくれたという。

 食後は、玉入れや障害物競走があった。小麦粉の入った洗面器に顔を入れ、あめ玉を口にくわえてゴールする場面では、顔を真っ白にしたブラジル人と日本人が大笑いをして盛り上がった。輪になって、ブラジルのサンバも踊る。

障害物競走で、洗面器に入ったあめ玉を探す日系ブラジル人のブルーノ・ニシヤマさん

障害物競走で、洗面器に入ったあめ玉を探す日系ブラジル人のブルーノ・ニシヤマさん

「ほかの村からうらやましがられる」

 「あの人たちが来てくれて、村がよみがえった」と、地元で農業を営む伊熊営農クラブ代表の後藤京一さん(68)は、目を細める。

 外国人が来て苗を植え付けたり、おはぎを握ったりして、地域が元気になった。地区には120軒ほどの家があるが、80代以上の人が多く、「農地が草ボウボウでイノシシのすみかになり、先行きが不安だった時に、元気ファームの話があった」と言う。

 「ほかの村からうらやましがられる」と後藤さんは少し得意そうだ。

 陽が傾いてきた。イベントが終わり、障害物競走のなごりで顔に白い粉をつけたままの日系3世のブルーノ・ニシヤマさん(32)が、妻の太田ジェニファーさん(28)と3人の子供たちと引き上げようとしていた。

 ブルーノさんはこの日、肉を焼き続けて手にやけどし、病院に行くところだった。ジェニファーさんが、マントゥーマンで働いているため、元気ファームで農作業をする時には、家族5人で参加する。

料理を振る舞うブルーノ・ニシヤマさん

料理を振る舞うブルーノ・ニシヤマさん

「あんた、ここに来ないかね」

 ブルーノさんはブラジルにいた時、家族で何ヘクタールもの広い農地をもち、野菜づくりをしていた。今は、派遣会社で働くが、本当は日本でも農業をしたいと思って、農地を探していた。

 「あんたかね。すごく稲刈りの上手な人がいたって」と、後藤さんがブルーノさんに声をかけた。「日本で農業をやりたくて、農地を探しているそうですよ」と、記者の私が通訳をすると、後藤さんは、目を大きくし、「ちょっと来てくれないか」と、手招きをして、走り出した。

 畑に連れていき、「畑ならいくらでもある。あんた、ここに来ないかね。家なら、あそこが空き家になっているから」と、口説き始めた。引き抜いた大根を、「もって行って」と、ブルーノさんに渡した。

 ブルーノさんは「僕はブラジルでは野菜作りをして、スーパーマーケットの納期に間に合わせるため、24時間働くこともあった」と語る。トラクターなどを借りられるのかなど、後藤さんに質問していく。

後藤京一さんに説得されるブルーノ・ニシヤマさん(中央)と太田ジェニファーさん

後藤京一さんに説得されるブルーノ・ニシヤマさん(中央)と太田ジェニファーさん

「日本の欠点はないよ」

 ブルーノさんの家族が、本当にここに移り住むか、分からない。だが、何かが生まれそうな予感がした。

 農業だけではない。ドローンを使って映像を撮る日系ブラジル人の若者も、イベントに参加した。社員の友人として訪れた日系4世のブラジル人ロハン・サレス・サイトウ・デアンドラデさん(23)だ。

 「日本の欠点はないよ。日本にいるブラジル人が、日本の悪口を言うと、頭にくる。じゃあ、ブラジルに帰れば?って思う」と語る。

 ロハンさんは、自分のライフスタイルを動画で撮ってネットに投稿し、日本やブラジルに何十万人のフォロワーがいる人気ユーチューバーだ。おしゃれな映像が人気を呼び、今は、イベント会社と契約し、ブラジル人の歌手が来日した際などのビデオ映像をフリーランサーとして作る。

ユーチューバーでブラジル人日系4世のロハン・サレス・サイトウ・デアンドラデさん

ユーチューバーでブラジル人日系4世のロハン・サレス・サイトウ・デアンドラデさん

機会を与えてくれた日本

 リオデジャネイロでは、スラム街のファベーラで暮らしていたロハンさん。

 両親と来日しブラジル人学校に通い、派遣会社でこんぽうなどの仕事をする傍ら、趣味で撮っていた動画をネットに投稿するうち、人気が出た。

 日本は、自分に機会を与えてくれると感じる。「夢?幸せな家族をつくることかな」。

リオデジャネイロ市内のファベーラ=2016年7月8日、諫山卓弥撮影

リオデジャネイロ市内のファベーラ=2016年7月8日、諫山卓弥撮影

「少しずつ、ならしていく」

 色々な外国人が、日本で何かを見つけようとしている。

 「そうはいっても、急に大勢のブラジル人がこの地域にやってきたら、拒絶反応があると思う。少しずつお互いの様子を見ながら、ならしていく」と、グスタボさんは言う。

 今回、招いたブラジル人は日本の暮らしに慣れていて、日本の習慣を尊重できる人たちだ。

 大騒ぎをして、ゴミを散らかしっぱなしにし、帰り道に飲酒運転でもしようものなら、「やっぱり外国人だから」という目で見られてしまう。それを何より恐れて、細心の注意を払う。

 「共生」というのは、そうやってお互いが徐々にならしていくものだから、とグスタボさんは考える。

玉入れを楽しむ参加者

玉入れを楽しむ参加者

「外国人で何が不満なの?」 

 日本に永住したい、と考えるグスタボさんに、自分はなに人と感じるか、尋ねると、「もちろん、外国人。鏡を見れば一目瞭然」と言う。

 外国人の友達の中には、「自分は何者なのか」、とアイデンティティーが揺らぐ人もいるという。

 「ずっと日本に住んでいるのに、外国人扱いされて腹が立つ、という人もいるが、僕はそれが不思議。だって外国人じゃない。それでも不自由なく生きている。何が不満なの?って思っちゃう」

日系3世の村山グスタボさん

日系3世の村山グスタボさん

可能性を広げてほしい

 グスタボさんは、マントゥーマンで、プロジェクト「ソルテ」も担当する。ポルトガル語で、「幸せ」の意味だ。日本で暮らすブラジル人に機会を与えて共に暮らす日本人のためにもなることをしたい、という思いが込められている。

 日本で頑張る日系ブラジル人を応援するポルトガル語専門情報サイト「ジアジーア」も開設した。日々の暮らしといった意味だ。

 日系ブラジル人のためのイベント情報やニュースを紹介し、毎週ラジオ番組で、日本で活躍する日系ブラジル人たちをゲストに招き、どんな仕事をしているのかなどを語ってもらっている。

 モデルや弁護士、美容師やイベント会社を開いた夫婦など十数人に話してもらった。ユーチューバーのロハンさんも出演した。

 工場のラインで働く親の子どもは、同じような仕事に就くことが多い。それを突き破り、もっと可能性を広げてほしいという願いが込められている。

畑を案内する伊熊営農クラブ代表の後藤京一さん

畑を案内する伊熊営農クラブ代表の後藤京一さん

ブラジル国籍のある記者として

 これまで、外国人やブラジル人にこだわって記事を書いてきた私自身、ブラジル国籍がある。

 父の仕事の関係で、生まれたのはブラジルのリオデジャネイロ。1歳で日本に帰ってきたが、ブラジルは出生地主義のため、私はブラジルの国籍も持っている。

 08年に、ブラジルのサンパウロ支局に赴任した時も、ブラジル人が「里帰り」という格好になった経緯がある。

 高校生でブラジルに留学した時に驚いたのは、日系人が非日系人のブラジル人を「あの人たちはガイジンだからね」という言葉だった。

 日本は、また、新たな資格で外国人を呼ぼうとしている。彼らは日本の中でどう暮らしていくのか。「外人」って何だ?と私自身の問いかけが続く。

 

 日本で働き、学ぶ「外国人」は増えています。でも、その暮らしぶりや本音はなかなか見えません。近くにいるのに、よくわからない。そんな思いに応えたくて、この企画は始まりました。あなたの「#となりの外国人」のこと、教えて下さい。

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出典:朝日新聞
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