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ススキノの風俗店「銭湯」に 「捨てるくらいなら」焼き肉無料提供も
北海道を襲った地震で、最大震度6弱を観測した札幌市。揺れの影響により、多くの店舗が一時休業を余儀なくされました。「働けない分、少しでも被災者の力になりたい」。そんな思いから、行動を起こした店主たちがいます。風呂を「ワンコイン(500円)銭湯」として提供する風俗店、無料でメニューを振る舞う焼き肉屋。地元愛から生まれ、広がった「支え合いの輪」について取材しました。(withnews編集部・神戸郁人)
「銭湯営業に、なりました!」。地震が発生した6日の夜、同市の歓楽街・ススキノにある風俗店スタッフが、ツイッター上で公開した投稿です。500円で店内の風呂場を貸し出すことなどが書かれ、1万6千件以上リツイートされました。
この店では地震発生後、停電で室内の設備が機能しない状態に。女性店員の多くも、家族を気遣って帰省し、営業が困難となりました。一方、店には風呂場が八つあり、シャンプーやタオルを完備。水道とガスは通じていたため、被災者向けに開放することにしたのです。
店長の男性(35)によると、7日昼から8日朝にかけ、約70人が来店。県外からの観光客や家族連れ、公衆浴場を利用しづらい性的少数者の姿もあったといいます。いずれも地震によって、自宅や滞在先の風呂が使えなくなった人たちでした。
「ブラックな印象が強い業態だけに、『少しでも良いことがしたい』と考えた末の取り組みでした。燃料代として料金をいただく形にはなりましたが、多くの方々に喜んでもらえ、うれしいです」と男性は話しました。9日以降は通常営業に戻り、風呂の提供はしていません。
同市中央区の焼き肉屋「じゃんごー」も、停電の影響を受けました。電源が切れた冷凍庫には多くの肉が残り、放置すれば腐敗を免れません。「捨てるくらいなら、困っている人に食べてもらおう」。藤本剛店長(50)は、一日限定の炊き出しで、肉を無償提供すると決めました。
6日夕方、店舗前にバーベキューコンロを設置。鶏モモ、牛タン、羊肉……。藤本さんを含む店員4人で、息つく間もなく肉を焼き続けました。その量、30キロ超。夜に終了するまで、炭火の香りに誘われ、訪れる人の波が絶えなかったそうです。
「彼らにも食べさせてもらえませんか」。お客の1人に声をかけられた藤本さん。ほどなく、30人ほどの外国人観光客がいるのに気づきました。周囲の飲食店が営業しておらず、途方に暮れていたといいます。店内に招き、肉とご飯を振る舞うと、大喜びだったそうです。
炊き出しの情報はネット上で拡散され、常連客も手伝いに駆けつけました。「最初は正直、『肉を処分するのはもったいない』という程度の気持ちだったんです。特に良いことをしたつもりもないのですが、結果的には人助けできたのかな」。藤本さんは、そう笑います。
「避難民」の受け入れに力を尽くした店もあります。同市厚別区のカラオケ店「カラオケピロス」です。
店によると、地震が起きた6日、30人ほどが入れる大部屋を開放。停電で自宅の水道用ポンプが動かず、水が飲めなくなるなどした近隣住民が、続々と来店しました。一人暮らしとみられる利用者も多く、後で「孤独な思いをせず済んだ」と感謝されたそうです。
炊き出しも実施しました。停電時はカセットコンロで、業務用に保管していた食材を調理し、雑炊やカレーを提供。当時、周辺の飲食店やコンビニには長蛇の列ができており、おなかをすかせた人々が足を運びました。
電力の回復後は、携帯電話の充電場所としても、店を活用しています。スタッフが自宅から延長コードを持ち寄り、66口の電源を用意。ピーク時は、全て埋まったこともあったそうです。現在は、ツイッターやブログで、営業状況の発信を続けています。
佐藤啓太店長(30)は「私たちは、地元に育てられてきました。地域の方々にとって、少しでも光のある場所でありたい。そんな思いで、毎日店を開けています」と話しました。
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