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感動

耳はちぎれ声帯も……傷だらけの保護犬がくれた「奇跡の出会い」

小動物管理センターにいたころの海。叫ぶように鳴いていたといいます
小動物管理センターにいたころの海。叫ぶように鳴いていたといいます

目次

 2年前、母犬と娘犬を引き取った家庭に、新たに加わったオスの野良犬。「よく似ているけど、もしや……」と思った飼い主がDNA鑑定したところ、親子であることが判明しました。保護犬を巡る不思議な実話。関係者は「動物は飼い主によってぜんぜん違う運命をたどる。最後まで大事に飼ってほしい」と、絵本の出版の準備も進めています。(朝日新聞高知総局記者・森岡みづほ)

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耳はちぎれ、声帯も切られていた

 2016年4月、高知県土佐清水市で1匹のオスの老犬が保護されました。ビーグルのような見かけで、大型犬の大きさの雑種。耳はちぎれ、足指もなく、汚れてがりがりにやせていました。

 犬は保護犬を収容する中村小動物管理センター(四万十市)に引き取られました。高知県の動物保護団体「小さないのちを守る会」の矢野富久味さんがセンターを訪れると、老犬は犬舎の中で悲しげに叫んでいました。声帯が切られてうまく声が出せなかったようです。

「月と星によく似ている」

 矢野さんが引き取り手をフェイスブックで募ると、フロリダ在住の日本人女性タカ・サウダーさんから連絡がありました。

 タカさんは2015年4月にも、土佐清水市の隣の宿毛市で保護された親子の犬を引き取り、母犬を「月」、娘犬を「星」と名付けていました。2016年、フェイスブックで老犬の写真を見たとき、「月と星によく似ている」と思ったといいます。

 老犬は鳴き声が大きすぎて、引き取り手がいませんでした。「2匹と関係があるかもしれない」とタカさんは老犬を引き取ることを決めました。

 2016年10月、フロリダに到着した老犬は「海」と名付けられました。いつもはほかの犬に攻撃的な月も、海にはなつきました。

海、月、星の3匹とタカ・サウダーさんと、夫のボブさん
海、月、星の3匹とタカ・サウダーさんと、夫のボブさん

「まさか親子とは……」

 星と海のDNA鑑定をしたところ、2匹が親子関係だとわかりました。「遠い親戚かと思ったけど、まさか親子とは……」。タカさんは驚いたといいます。

 フロリダに来てからは海は芝生で寝転がったり、イルカと追いかけっこをして遊んだり。海のおびえたような目はどんどんにこやかに、毛並みもつややかになりました。おとなしい性格で、タカさんが買い物やレストランに連れて行くと、周りの客からかわいがられたといいます。

「本当にふびんでならない」

 でも2017年3月、海に肺がんが発覚。左肺を全摘しましたが、その約半年後には残った肺にがんの転移が見つかりました。最後のころには肺に水が溜まり、座ることや寝転ぶことすらできなかったそうです。

 紫色になった舌を出して荒い呼吸をする海と目が合うたび、タカさんは海が「楽にさせて」と言っているように見えた、と振り返ります。

 「もうこれ以上苦しませたくない。苦渋の決断ですが、楽にさせてあげることを決めました」。3月28日、海は一番お気に入りの庭の一角で息を引き取りました。

 「海はたぶん13歳くらいだったから、日本にいた10年くらいは虐待されていたのではないか。本当にふびんでならない」。海の最期を話す時は、タカさんは声を震わせます。

フロリダに来てしばらくたったころの海。笑顔が戻りました
フロリダに来てしばらくたったころの海。笑顔が戻りました

絵本を出版へ

 この話を多くの人に知ってもらいたい」とタカさんと矢野さんは月、星、海を題材にした絵本「月星海のおはなし」をつくることを決めました。絵本は日本語と英語で書かれ、高知県とフロリダの小学校に寄付する予定だといいます。絵本はアマゾンや高知県の書店で販売されます。問い合わせはメール(tsukihoshikai@gmail.com)で受け付けています。

 「月と星と一緒にフロリダの小学校を回って、この絵本を読み聞かせします」とタカさん。絵本は海がフロリダへ来た10月8日、出版を目指しています。

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