IT・科学
漫画村なぜ人気に? 横たわる「出版社の壁」と成人マンガの試み…
著作権侵害をする「漫画村」は、違法なのに人気を集めました。その背景を考えると、無料以外にも、出版社の垣根を越えたマンガサービスを求めるユーザーのニーズが見えてきます。対策として考えられるのが「合法版漫画村」です。ただ、実際は利害が折り合わず、実現していません。そんな中、成人向け漫画雑誌の有料読み放題サービスが昨年、立ち上がりました。なぜ成人漫画では実現できたのか。その背景には「業界の危機感」がありました。
――サービスの内容は?
Komifloは、2017年1月にスタートした成人向け漫画雑誌の定額制読み放題サービスです。
月額980円(税抜き)で、ワニマガジン社とコアマガジンの人気のある計6雑誌の最新号を含めたバックナンバー1年分と、10作品以上の限定コンテンツを配信しています。
――利用者数は?
利用者数は非公開ですが、半年前の約1.5倍に伸びており、現在も上昇傾向にあります。18歳~35歳の利用者が約7割で、男女比は女性が10%未満です。
――すでに成人向け漫画を配信するプラットホームもある中、なぜあえてサービスを作ったのか。
電子書籍の読み放題サービスはこれまでもありましたが、いずれも成人向けに特化したものではありませんでした。
電子書籍が十分に認知された現在であればチャンスがあり、また自主規制やゾーニング、海賊版問題の影響を受けやすい成人向け漫画文化を守る方法の一つとして活用できるのではないかと考え、Komifloのサービスを開始しました。
――海賊版サイトへの危機感はあったのか。
近年漫画の楽しみ方が急速に「収集」から「消費」へと変化しており、なるべく早く手軽に読むことが重視されているように思われます。
発売当日に無料で作品がアップロードされ、各国語に翻訳されるような海賊版サイトに対抗できる、より利便性の高い現実的な代替案が必要だと感じていました。
Komifloに限らず、ユーザー需要の受け皿になりうる正規版のサービスが増えることは好ましい状況だと考えています。
――海賊版サイトのブロッキングについてはどのように考えているか。
海賊版サイトへの対応については慎重に取り扱うべき問題ですが、ブロッキング自体はある程度有効だと考えています。
基本的なルールを整備したうえで、ジャンルを問わず著作権の侵害に対応でき、著作権者がより気軽に依頼できる政府の問い合わせフォームのようなものが用意できると良いのではないでしょうか。
――一般誌での実現が難しい中、なぜ成人向け漫画では横断型サービスを実現できたのか。
現在作品の配信を行っているワニマガジン社、コアマガジンの2社とも先進的な考え方を持っており、海賊版サイトへの危機意識を共有できたことが大きいと思います。
一般誌と比較すればニッチな産業であり市場規模も小さい成人向け漫画業界は、その海賊版の影響を受けやすいということから協力体制を築きやすかったのではないかと思います。
――海賊版の影響度合いはどう違うのか。
規模の小さいサービスの方が影響は受けやすくなります。例として、検索サイトで作家の名前を調べるとわかりやすく違いが出ます。
一般漫画の作家の名前で検索すると公式サイトが検索の上位に出てくると思いますが、成人向け漫画の作家の場合は海賊版サイトが上位に表示され、正規の販売サイトにたどり着きづらい問題があります。
また漫画に限らず成人向けジャンルはネット上で拡散されやすく公的な対応も難しいため、海賊版サイトの数は爆発的に増加しました。対策として削除申請を行うことももちろん重要ですが、すべてのサイトのすべての作品に対して個別に対応できるだけのリソースを確保するのは現状難しいでしょう。
――現在は2社の出版社と提携していますが、今後新たな参入予定はあるか。
現段階では未定ですが、今後徐々にサービスを拡大できればと考えています。
もちろん、作品数を増やしていくということは必要ですが、まずはユーザーにとってサービスをより使いやすいものにしながら、段階的に拡大できればと考えています。
【取材を終えて】
法律的に問題があっても、明らかなリスクがなければ、便利なサービスにユーザーが流れることを止めることは難しい。
まず必要なのは、コンテンツはタダではない、という意識の醸成だ。作家に正当な報酬が支払われなければ、新たな作品が生まれなくなる。複製が簡単にできる時代だからこそ、若いうちから、コンテンツの価値を理解してもらう必要がある。
その上で、なぜ各社横断の正規の読み放題サービスが生まれないのかを考えると、原因として、各社の利害が大きく影響している状況がある。各出版社が個別に定額制の読み放題サービスなどを提供している中、例えば、少年ジャンプと少年マガジンの双方を発売と同時に読める電子版サービスはない。
カドカワの川上量生社長は、朝日新聞の取材に「各出版社が、どのプラットフォームにどういう割合で商品を出し、どうもうけていくのかということは、それぞれの戦略で決める権利がある」と語った。一つのサービス上ですべての漫画が読めたほうが便利なのは間違いないが、一筋縄ではいかないのが現状だ。
一方で、どんなに使いやすい出版社の垣根を越えたサイトを作ったとしても、無料で読める海賊版がある限り、タダでコンテンツを見る習慣が根付いた若い世代に選んでもらうのは簡単ではないだろう。
デジタルコンテンツ配信プラットホームの「note」などでは、作家にユーザーが直接、お金を支払う「投げ銭」の文化が生まれつつある。そこでは、コンテンツだけない、作家を応援する、作家とつながれるコミュニティー自体に価値が見いだされている。
音楽業界は、CDのパッケージを売るビジネスモデルから、配信だけでなく、ライブなど体験を売るモデルにも力を入れる。漫画についても、作品を読むだけでない付加価値をサービスに加えるなどの工夫が求められるのではないだろうか。
1/4枚