お金と仕事
アホとの戦い方説き40万部、著者が喜べない理由「何でこんな日本に」
出版不況と言われる中、40万部を超えるヒット本を書いた著者がいます。でも、表情はさえません。「何でこんな日本になってしまったんでしょうか……」。書いた本人も予想外だった売れ行き。素直に喜べない理由を聞きました。
著者は、山一証券を経て参院議員になり、現在はシンガポールの大学で教える田村耕太郎さんです。
本のタイトルは『頭に来てもアホとは戦うな!』(朝日新聞出版)。この本、実は4年前に書かれたものです。きっかけは大ヒットしたドラマ『半沢直樹』でした。
理不尽な上司や取引先と正面からぶつかる主人公が「倍返し」のセリフとともに評判になりました。
田村さんは執筆の動機について「ドラマの『半沢直樹』を見て、これは、まずいと思ったんです」と振り返ります。
「私自身、半沢直樹のような衝突を繰り返して失敗を経験していました」
ビジネスの世界から政界に飛び込み、先輩議員にも正論でぶつかっていたという田村さん。
「怒って、相手をやりこめると、一瞬、すかっとする。でも、長い目で見たらとってもよくないことが起こる。相手は、どんなに論理的に筋が通っていても、感情的には納得しないからです」
本では、世の中は不条理が前提で動いていることを様々な人間関係のシーンを通じて説明しています。
「青春ドラマのように、ぶつかって雨降って地固まる、なんて絶対ない。私自身、それは、かなり検証してきたので……」
本が伝えるメッセージは「戦いに勝つより目的を達成することの大切さ」です。
田村さんは「正義感はあった方がいい。正しい考え方も大事。でも、人の数だけ正義があるから、大体、不条理だと思っていたら期待値が下がる。そうすれば頭にも来ない」と説明します。
「一番大事なのは、自分の人生でやりたいことを見つけ、そのためにエネルギーと時間を使うこと。それを邪魔する人がいたら、できるかぎり戦わずに仲間にし、共通利益を見つけて補完関係に変える。やりたいことが見つかれば、自分の人生の目的と違うことに疲弊することはなくなりますから」
4年前に書かれた本が、じわじわと人気を集め、気づけば40万部を超えるヒットに。
そんな状況に対して「きつねにつままれた感じ」と話す田村さんですが、喜んでいるかというと、そうではなさそうです。
「4年たって、このタイトル(『頭に来てもアホとは戦うな!』)の本が売れるということは……こういうことで悩んでいる人の数が増えているでしょうね。社会が残念なことになっていなければいいんですが」
田村さんは自民党の国会議員として政策立案にも関わっていました。
今、住んでいるシンガポールから見える日本は「高齢化が進んで人口が減り、チャンスが少なくなって、経済的、時間的にもフラストレーションがたまっている」。そんな母国の姿です。
「アジアに『アホ』はいますか、と聞かれますが、本で書いたような人は少ない。シンガポールには世界中の宗教がほとんどあり、同調圧力をかけにくい。均質ではないので、他人に干渉しない」
その一方で、日本は「均質的で同調圧力か強く、自分と向き合いにくい社会」と感じているそうです。
「そんな日本の状況に若い人は気づいている。だけど、社会が追いつくにはもっと時間がかかる。だから不条理でコントロールできないことに耐えることがフラストレーションになっている」
田村さんは「本を読んで戦いを踏みとどまってくれる人がいたら、書いたかいがあった」と言います。
「この間、大阪の心斎橋のドラッグストアに行ったんです。そうしたら、日本語を話すは自分しかいない」
田村さんは、そんな状況に「希望」を感じたそうです。
「この勢いで日本が観光大国になって。シンガポールのような多様性を大事にしてほしい。そうすれば、女性へのセクハラをはじめ。見た目や宗教などにも配慮し、違いをリスペクトするような社会になっていけるんじゃないでしょうか」
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