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世論調査「80年の歴史」 200万人の回答で外した教訓 携帯対応の今

フランクリン・ルーズベルト元大統領の記念式典で演説するクリントン大統領(当時)=2001年1月、ロイター
フランクリン・ルーズベルト元大統領の記念式典で演説するクリントン大統領(当時)=2001年1月、ロイター

目次

 毎回、注目を集める世論調査ですが、その起源は約80年前のアメリカでした。大統領選とともに調査の手法は進化し続けています。固定電話から携帯電話への変化にも対応してきました。日本がお手本としてきたアメリカの世論調査の歩みと、最新事情をお伝えします。(朝日新聞世論調査部・齋藤恭之)

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1000万枚の用紙配って失敗

 まずアメリカの科学的な世論調査の始まりはどのようなものだったのでしょうか。

 時は1936年、米国大統領選の時にさかのぼります。このときは、現職である民主党のフランクリン・ルーズベルト候補と共和党のアルフレッド・ランドン候補との争いでした。

 それまで、総合週刊誌の「リテラリー・ダイジェスト」誌は多数のアンケートの予測で大統領選の当選者を当てており、このときも全米の電話や自動車の保有者などに約1000万枚の用紙を配布。200万人以上から回答を得て、ランドン勝利を予測しましたが、回答者の多くは比較的裕福な層という「偏り」がありました。

 一方、米世論調査会社ギャラップ社の創設者であるジョージ・ギャラップ氏は、有権者の縮図に近づくよう科学的に工夫し抽出した3千人から5万人に対し面接方式や郵送方式で調査を行い、ルーズベルトの勝利を予測しました。

 結果はルーズベルトの勝利でした。このようにして、数は少なくても統計的に対象者を抽出する調査方式の精度の高さが証明され、アメリカでの科学的な世論調査の幕が開けたのです。

フランクリン・ルーズベルト元大統領=ロイター
フランクリン・ルーズベルト元大統領=ロイター

今の主流「RDD」とは?

 今の世論調査は、コンピューターで無作為に電話番号を作り出し、コールセンターの調査員が電話をかけて調査をお願いする方法が主流となっています。RDD(Random Digit Dialing)と呼ばれています。

 このRDDと呼ばれる手法は、どのようにして始まったのでしょうか。

 アメリカでのRDD調査の歴史は1960年代に始まります。それまでは、調査は郵送方式や面接方式で行われていました。当時、アメリカでは固定電話の普及が進み、電話のない家庭は2割程度まで減ってきていました。

 また、面接調査のコストが高くなってきていたため、電話帳を使って電話調査を行おうという試みがありました。しかし、電話帳の掲載率が低いことなどから世論調査の一般的な方法にはなかなかなりませんでした。

コンピューターで無作為に電話番号を作り出すRDD(Random Digit Dialing) ※画像はイメージです
コンピューターで無作為に電話番号を作り出すRDD(Random Digit Dialing) ※画像はイメージです 出典:https://pixta.jp/

電話帳にない人も可

 そんな中、1964年に電話番号をランダムに発生させ、電話をかけるというRDD方式の論文が出版されました。

 この方法は統計的に無作為で対象者を選び、かつ、電話帳に掲載されていない人にも電話できるため、より国民全体の縮図に近づけられるという利点がありました。

 しかし、当時は実際に人の住んでいる世帯にかかるのは2割しかなく、実用的ではありませんでした。その後、改善が進んで実用的になると、多くの調査が固定電話のRDDで行われるようになりました。

 朝日新聞が2001年に全国世論調査でRDD方式を開発した時には、世論調査や社会調査の先進国であるアメリカのRDDを参考にしました。

東京都千代田区の逓信総合博物館にある電話帳=2005年10月19日
東京都千代田区の逓信総合博物館にある電話帳=2005年10月19日 出典: 朝日新聞

携帯時代への対応

 アメリカでは、近年の携帯電話の普及にどう対応しているのでしょうか。

 携帯電話を持っていても自宅に固定電話を持たない「携帯のみ」の人たちが増えています。この「携帯のみ」の人については、固定電話の調査対象からこぼれ落ちてしまいます。

 米疾病予防対策センターの調査では、全米で携帯電話は持っているが自宅に固定電話がない「携帯電話のみ」の層は2003年時点で3%だったのが、2017年には53%にまで増えています。このような「携帯のみ」の人たちにも調査をするため、携帯電話へのRDDの実験が行われてきました。

 米ワシントン・ポスト紙の世論調査では2007年から固定電話に加え、携帯電話も合わせて調査対象に加えました。

 世論調査を担当しているスコット・クレメント記者は「2007年の時点で、携帯のみ層が全米の約15%になり、特に若年層や黒人、ヒスパニック層の意見が取りにくくなってきたと考えました。国民の意見の縮図に近づけるため、今までの固定電話を対象としたRDDに、携帯を加えるようになりました」と話しています。

 現在、アメリカのテレビや新聞などの大手メディアのRDD世論調査は固定電話と携帯電話のミックスで行われています。

 朝日新聞でも、2016年から全国世論調査では、固定電話に加えて携帯電話も対象にしています。 

トランプ大統領の演説をスマートフォンで撮影する人=ロイター
トランプ大統領の演説をスマートフォンで撮影する人=ロイター

アメリカ「110の言語」の用意も

 日本のRDDはアメリカのRDDの手法をもとに設計されていますが、どのような違いがあるのでしょうか。主にアメリカの政府機関の調査をRDDで行っている世論・社会調査組織のシカゴ大学NORCで、運用責任者のケイト・ホブソン氏にRDDの運用方法について聞きました。


――どのように調査しているのですか?

 「今まではRDDは固定と携帯のミックスでしたが、現在は、ほぼすべての人が携帯を所有しているとみなせるようになったという研究もあり、2018年から固定電話への調査はやめて、携帯電話だけを対象とするRDD方式に変更しました」

ケイト・ホブソン氏
ケイト・ホブソン氏

――日本では携帯電話の番号に固定電話のような地域を示す市外局番や市内局番がないため、選挙の情勢調査のような地域を特定した調査が難しいという課題があります。

 「日本とは違い、アメリカの携帯電話番号は固定電話番号と同様の体系となっています。つまりアメリカの携帯電話の番号には、購入した地域の局番がつくので、州や市などの地域の調査が行えます。しかし、携帯電話の番号はそのままで引っ越ししたりすると、かけた電話番号が住居の地域とは違ったりすることもあるので、調査をお願いする人に郵便番号などを聞いて、実際に住んでいる地域を確認する必要があります」


――調査にあたって注意していることはありますか?

 「アメリカは車社会のため、携帯電話調査を行う場合は、まず、車を運転中かを確認しており、運転していればすぐに電話を切ります。また、調査時間は現地時間の朝9時から夜9時ですが、アメリカは広大な国で、グアムなども含めると現地の時刻に対応できるよう、朝5時から朝4時まで23時間運用しています。通じる言葉の種類も多種多様のため、調査によっては110の言語の通訳を用意しています」

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