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セクハラの解決、第三者機関が必要な理由 「身内では限界がある」
財務省の前事務次官や、自治体の首長などによるセクハラが問題になっています。加害者側が否定し、調査が長期化するケースも。セクハラの紛争解決について研究してきた柏﨑洋美・京都学園大准教授(労働法)は、今の仕組みでは被害者側が泣き寝入りせざるを得ず、調査のための第三者機関を設けることが必要だと指摘。企業側にも、「セクハラをなくすための取り組みは、全ての人が働きやすい職場を作ることにつながるという視点を持ってほしい」と訴えます。詳しく話を聞きました。
最近、社会的地位のある人物からのセクハラ被害の告発が相次いでいます。それに対する加害者側の弁明などを聞いていると、言葉のセクハラはすでに判例でも認定されているにもかかわらず、そうした認識がまだ薄いようです。
セクハラは、大半が2人きりの状況でおき、事実認定が難しい。財務省のケースは記者だったこともあって音声データを残していましたが、普通の人はなかなかそこまでできません。
「何月何日にこんなことをされた」といった形で、書面で記録を残せば一定の証拠能力はありますが、加害者側が否定すると、それ以上追及することが難しくなります。
今の日本では、セクハラがあったかどうかについて調査するのは事業主。今回のように取引先との間で発生した場合、相手側との関係悪化を恐れ、強く抗議できない企業もあります。
こうした場合、被害者は裁判に訴えるしかなくなりますが、被害者の心身の負担が非常に大きく、そこまで耐えられる人は多くはない。また、組織のトップやワンマン社長がセクハラをしていた場合、組織内では誰も何も言えない状況になってしまい、身内の調査では限界がある。結局、多くの被害者が泣き寝入りしてします。
カナダでは、公的な第三者機関が調査をする仕組みがあり、協力しない場合は罰金を科されます。建物内に立ち入る権限もある。紛争を解決するためには、こうした機関を作り、裁判までしなくても解決できるような仕組みが必要です。
もう一つ大切なのは、被害者が同じ職場で働き続けられるような解決の仕方を模索することです。
現在は、事実が認められて損害賠償が支払われたとしても、被害者が結局仕事を辞めることになってしまうことが多いですが、転職は負担が大きいです。
被害者の多くが望んでいるのは、金銭的解決よりも謝罪で、セクハラのない職場で心地よく働けること。このためには、表沙汰にせずに双方の言い分を聞き、双方の関係調整をするような「修復的正義」という仕組みも必要です。
セクハラが起きる職場は、過剰なノルマや長時間労働でギスギスしていたり、コミュニケーションが希薄だったりすることが多いです。セクハラはその氷山の一角で、派遣社員やパートなど弱い立場の人がはけ口になってしまう。セクハラをなくすための取り組みは、全ての人が働きやすい職場を作ることにつながるという視点を、経営者も持ってほしいと思います。
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