連載
#28 AV出演強要問題
AV強要「適正プロダクション」までも…いまだ「改善」期待できず
アダルトビデオ(AV)業界で関係者の摘発が止まりません。警視庁は13日、AV出演の仕事を紹介したとして、AVプロダクション社長(37)を逮捕したことを明らかにしました。2月には、仲間のスカウトの男ら4人が逮捕されています。今回逮捕された社長が率いる会社は昨年4月に発足し、「適正AVプロダクション」をうたうAVプロダクションの業界団体に加盟していました。(朝日新聞記者・荒ちひろ、稲垣千駿、高野真吾)
AVプロダクション社長の逮捕容疑は、別のAVプロダクション社員だった2016年2月、わいせつな行為をさせると知りながら、当時19歳だった女性を東京・渋谷区内のAV制作会社に紹介した職業安定法違反(有害業務の紹介)です。
警視庁によると、女性は出演を拒みましたが、社長らは「仕事と割り切ってやれ」「断ったら撮影代など莫大(ばくだい)な金を払ってもらうことになるけど大丈夫かな」などと言って仕事を受けさせたと言います。
もともと先に逮捕されたスカウトらが、ファッションモデルのオーディション会場で、女性に「いいプロダクションを知っている」などと声を掛けました。
スカウトらは、実際はAVプロダクションなのにもかかわらず「普通のモデル事務所だ」と、偽って女性に接近。
その後、AV出演を持ちかけ「あなたは顔もスタイルも良くないし、年も遅いからモデルは無理」「(モデルとして)売り込む先はいくつかあるが、6千万円くらいかかる。用意できるのか」「金を用意できないなら、AVに出て有名になるしかない」「AVも立派な女優だ」などと迫ったと言います。
テレビドラマや映画で活躍する有名俳優の名前を挙げ、「彼女もAVを経験して有名になった。AV出演せずにモデルになる方法はない」などのウソも述べたと言います。
逮捕された社長が率いるAVプロダクションは昨年4月に発足した「日本プロダクション協会」(JPG)に加盟しています。
JPGはAV出演強要問題を受けてつくられました。AVメーカーが加盟する知的財産振興協会(IPPA)などと共に、大学教授や弁護士らで構成する第三者委員会の指導をうけ、自主規制を進める要の組織の一つです。
逮捕された社長が率いるAVプロダクションは、ルール作りを話し合った発足段階からのメンバーの1社とされています。JPGが今年2月、都内でメディアとファンを集め開いた発足イベントには、所属女優が参加しています。
このイベントでは、一般の来場者が参加する前、メディア向けの時間がありました。JPG事務局広報を務める中山美里さんがあいさつに立ちました。
JPGができた経緯を述べ、プロダクションと女優の契約書を「女優の人権と自己決定権に配慮した」統一契約書にした、などと説明しました。女優が撮影キャンセルをしても、女優に賠償を請求しないという項目を設けた旨も話していました。
また「適正プロダクションマーク」を制定し、「適正なプロダクション運営」を行っているとしたJPGの会員プロダクションがこのマークを使用することも紹介しました。
発足イベントでしたが、事務局の中山さん以外に代表や副代表の理事があいさつに出てくることはありませんでした。
JPG事務局広報の中山さんは、2月1日に警視庁が開いた「アダルトビデオ出演強要問題事件説明会」にも出席しています。IPPAの島崎啓之・理事長とともに「関係法令の遵守(じゅんしゅ)についての要請書」を受け取りました。
朝日新聞は13日、中山さんにJPGのコメントを求めました。
メールで送られたコメントでは、逮捕された社長が率いる会社が、JPGの「会員」だと認めた上で「この事件自体が2016年と当協会が発足する前のもの」で、逮捕された社長が「以前雇用されていた別会社で起きたものだとご理解ください」としています。
続けて、JPGの設立理由を説明した上で、今回の逮捕を「厳粛に受け止めまして、今後の検察による処分を待機いたしたいと考えております」としました。
さらに「第三者機関であるAV人権倫理機構が発表した提言およびプロダクションが守るべき新ルールを厳守したプロダクション運営を行うよう、今一度会員に周知する予定です」と続けました。
最後に「今回の件にて、世間をお騒がせいたしましたことをお詫びしますと同時に、処分を待ち再発防止に努めていく所存です」とまとめました。
逮捕された社長が率いるAVプロダクションのHPをチェックしました。
トップページ下段には「AVのお仕事は危ないと思っている女の子へ」向けた「メッセージ」があります。
このプロダクションは「隠さない、誤魔化さない、強要しない、もっとクリアな プロダクションを目指して」いるそうです。
「女の子の『意思』を尊重し、本人の意に反した撮影等を行わないことを誓います」「曖昧(あいまい)な説明や透明性のない対応は、お互いにとってもよくありません」と続きます。
HP内の「よくある質問」には、気になる記述がありました。
それは「AVモデル・女優のお仕事をしてもバレないって本当ですか?」の質問です。
回答は「残念ながら『絶対にバレません!』とは言いきれません」としつつも、「作品を見られてバレるといったケースはかなりレアです。しかし、モデルさんのプライバシーを守るのが弊社の仕事ですので、バレないノウハウや対策は万全を整えております」としています。
さらに「でもバレないか不安です」の追加質問には、次のように答えています。
「実際にバレてしまった女の子の多くは『いきなり羽振りがよくなったことを追及されて、うまくごまかせなかった』『予定を書き込んだ手帳を見られた』『ついついお仕事の話をしてしまった』といった、個人の管理の甘さがほとんどです」
見られてバレるケースは「かなりレア」と言っていますが、実際はどうなのでしょうか。
被害者支援団体によると、AV強要被害にあった女性はかなりの割合で周囲に身バレし、学校や職場を去らざるを得ない事態になっています。記者が取材をした複数の被害者も、出演作品を見られ周囲にバレたと証言しています。
支援団体の一つの「ポルノ被害と性暴力を考える会」(PAPS)の相談員・金尻カズナさんは次のように話します。
「『バレないノウハウ』といっても、プロダクションで教えられるのは、疑われても否定すればいいというぐらいです。AVの動画ではモザイク以外の画像の加工はほぼされず、声も変えません。そんなことで、ごまかせるはずがありません」
「プロダクションはプロのメイクがつき、プロのカメラマンが動画や写真を撮ってくれるからバレないと言います。しかし、見た目の変化には限界があります」
「DVDのパッケージ写真が、実年齢より2~3歳若く写ることがありますが、逆にそのことで大学生なら高校時代の友人、社会人なら大学時代の友人にバレてしまいます」
さらにネットでの画像検索技術の向上が状況をより厳しくしているといいます。
「AV女優としての画像と、本名や匿名による過去のSNSの投稿画像を関連づけられるリスクが高まっています。AV女優として作品に出ることによる身バレの可能性が高くなっていることをプロダクションはきちんと女性に説明すべきです」
金尻さんは、AV強要被害の最前線に立つ相談員として、次のように話します。
「日本プロダクション協会は昨年4月に発足したようですが、それ以降も協会に加盟しているプロダクションからのAV被害相談は複数寄せられています」
「中には作品の販売停止を求め、裁判手続きを進めざるを得なかったケースもあります。この協会ができても、私たちには目に見えた改善効果はありません。加盟プロダクションから逮捕者が出たとしても、特に驚くことはありません」
「『適正AVプロダクション』をうたう日本プロダクション協会の加盟プロダクションでも、基本的なことができていないと思わざるを得ません」
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