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職業モデルは絶滅する? 副業としての「週末モデル」の破壊力とは
「週末モデル」について取材しました。
英オックスフォード大学のカール・フレイ氏とマイケル・オズボーン氏の論文「雇用の未来」は、衝撃をもって迎えられた。
フレイ氏らは、コンピューター技術の発展にともなって今後10~20年のうちに消えてしまいそうな職業を、ランキングにしてまとめている。主な結果は表の通り。
例えば「データ入力」の仕事は、消える可能性が99%だという。「銀行の融資担当者」「スポーツ審判」「簿記の事務」なども、98%の確率で消えるそうだ。
まあ、そうかもしれない。お金の貸し出しを的確に審査するには、義理や人情が混じりこむ人間がやるよりも、クールな人工知能にまかせるほうが厳正だろう。野球やサッカーの審判、相撲の行司なども結局のところ、素早くて高性能な動画解析には勝てそうにない。
ところで、この「消えるランキング」の上位には、やや意外な顔ぶれがある。その一つが「モデル」だ。えっ? 人間のモデルもいらなくなるの!
フレイ氏らの論文は、コンピューターに代替させることが難しい特性として「説得力」「交渉力」「指の器用さ」など九つを抽出し、高度な数学的手法を駆使して700超の仕事を分析している。
それぞれの仕事の違いについて個別に論じているわけではないから、モデルの仕事が消えるとする具体的な理由までは探りにくいが、要するにこれら9特性が仕事に占める比重が低いということだ。
そう考えていくと、次第にさもありなんと思えてくる。
すでに人間そっくりのロボット開発は進んでいるし、VR(仮想現実)やCG(コンピューターグラフィックス)の発展は著しい。
実在する生身のモデルさんに仕事をお願いするより、こうした最先端の技術を駆使して生み出される「アンドロイドのモデルさん」や「仮想空間のモデルさん」のほうが、きっといろいろ便利だろう。
暑いとか寒いとか、食事がまずいとか疲れたとか、あれこれ文句も言わないはずだ。いや言われてみたい気もするけど。
職業としてのモデルは、本当に消失するのか。それはいつなのか。とても予想などできないが、その序曲を奏でるのではと予感させるサービスがこのほど登場した。
広告企画やウェブ制作に取り組むベンチャー、MONOKROM(東京都渋谷区、筒井真人社長)が運営する「週末モデル」だ。
モデルを探している企業と、仕事を探しているモデルを、ネットを介してマッチングする。スマホ版アプリもある。一番の特徴は、サービス名のとおり。登録しているモデルが平日などは本業として他の仕事をもち、休日に副業でモデル活動をしている点だ。登録できるのは今のところ女性のみ。
担当の下田奈奈さんは言う。「偶像化されたアイドルではなく、等身大の身近な存在が人気を集める時代になった。専業でないと難しかったモデル業が、副業としても受け入れられる」
上条百里奈さん(29)の本業は高齢者施設の介護士だ。平日はお年寄りの生活を助け、週末にモデルの仕事をする。介護への理解者を増やしていくのが夢だ。「モデル活動をすることで、介護について講演を依頼される機会も増えた」と言う。
竹内彩香さん(26)は、デザイナーやイラストレーターとして働きながら、モデルをしている。デザインした犬用の服がペット用品店で「TINOTITO」のブランド名で販売されているほか、スマホケースやTシャツなどのイラストも手がける。「ダブルワークを通じて様々な分野を知り、新しい見方ができるようになった」
痛手を受けるのは、本業としているプロの職業モデルたちだろう。
この新サービスは、仕事を依頼する企業などにとっては、価格破壊の要素もある。プロダクションに所属している専業モデルと比べて、かなり安価に済むという。
また、モデル側にも安心感がありそうだ。運営するMONOKROM側が担うのは基本的にマッチング機能の部分で、仕事を選ぶのはあくまでモデル自身だ。登録するとウェブ画面から仕事を検索できる。報酬や仕事内容があらかじめ提示され、自分の判断で選択できる。
では、仕事を依頼する企業側の不安はないのか。あくまでモデルを副業として登録している「素人さん」たちが、本業の忙しさなどから依頼をドタキャンする心配なんかもあるのでは?
「はい、そんなときは私たちMONOKROMの女性社員たちが出動します」と下田さん。差し出された会社案内には、運営スタッフの女性たちの横顔がずらり。いずれも正社員で、依頼したモデルに不都合が生じた場合などは可能な限りでピンチヒッターに立つという。
ちなみに下田さん自身も元ミス明治大学の経歴をもち、本業のかたわらモデル活動をしているそうだ。
英オックスフォード大のフレイ氏らの研究は、コンピューターの発展によって20年以内に47%の雇用が失われる、と警告している。職業としてのモデルはその「失われる仕事」の筆頭格に位置しているが、コンピューター自身によって代替される前に、ネットの普及を追い風にするこうした新サービスの破壊力のほうが、ずっと驚異かも知れない。
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