連載
#27 AV出演強要問題
AVスカウトが無くならない理由 最もグレーな存在が回す「業界の闇」
アダルトビデオ(AV)業界で関係者の摘発が続いています。AV出演の仕事を紹介したとして、警視庁はスカウトの男ら4人を逮捕し、3月1日に発表しました。繁華街でのAV勧誘の実態は、どんなものなのか……。数年前まで毎日のように街頭に立ち、今も女性の紹介をしている路上スカウト経験者の男性(29)が、重い口を開きました。男性はダミーの芸能事務所を設け、「AVとはひと言も言わず」に勧誘する手口を明かしました。(朝日新聞記者・高野真吾、荒ちひろ)
警視庁が3月1日に発表したのは、スカウト3人とAVプロダクション社員1人の逮捕です。わいせつな行為をさせることを知りながら、当時19歳の女性をAV制作会社に紹介したとする、職業安定法違反(有害業務の紹介)容疑でした。
取材に応じた男性は、今回の警視庁の逮捕に「逮捕されたスカウトたちは、自分たちがやっていることが『違法』だと分かっていたはず」だと語った後、次のように加えました。
「同情はしますが、罰せられるべき仕事をした結果です」
男性は18歳から数年前まで、ほぼ毎日、街頭でスカウト行為をしていたと言います。
デリバリーヘルスなどの風俗で働く女性をメインにキャバクラなどの水商売、そして「ボーナス狙い」でAVに出演する女性も探しました。
きっかけは、知人の紹介でした。
「楽な仕事だし、女の子を連れて行けばいいだけだから」
実際、初日に声をかけた女性を数日後に風俗店に紹介することができました。「うまみを知ってしまった」ことから、スカウト業に励みました。
スカウト会社に所属し、固定給なしの完全歩合制で収入を得ました。
紹介した女性が風俗店やキャバクラで働くと、その10~15%がもらえるなどという仕組みでした。
月の収入は平均で50~60万円、月100万円を超えたことも4、5回ありました。最高で月120万円にのぼりました。
男性は「当時、女性に声をかけること自体は、遊び感覚でできていた」と振り返ります。スカウトの仕事は「10代後半から20代前半でお金を持ちたいと考えるなら、稼ぐ手段の一つだ」とも言います。
スカウトをする場所は、東京の新宿、池袋、渋谷、六本木でした。新宿駅東口から歌舞伎町に向かう通りの一つで、仲間内で「スカウト通り」と呼んだところに足を運びました。
最も多くの時間を過ごしたのは池袋駅西口にあるファッションビルの前でした。
風俗店のはやり廃りの情報を踏まえ、しっかりお店で稼ぎ、自分にもお金を運んでくる女性を探しました。男性は勧誘する女性を「ターゲット」と呼びます。
「稼げるお店にあわせ、ターゲットを狙い、足を運ぶエリアを変えました。スカウト会社から指示はなかったので、全部、自分でどうするか考え、判断しました」
これ以外に週1回ほど、新宿駅東口の決まったエリアでAVに出演させる女性を探しました。所属したスカウト集団の中で、多くの実績がある場所でした。
そこで「AVで売れる要素」の「素人っぽさがある女性」を探しました。目指したのは「単体」と呼ばれる女優でした。
AV女優は、業界で三つに分類されています。
特定のメーカーと専属契約を交わし、一人で作品に出演することを基本とする「単体女優」。女優の力だけで売り上げが期待でき、プロダクションに入るギャラも高く、スカウトにも高額が回ってきます。
もう一つは、女優の力だけでは売り上げが見込めない「企画女優」。「企画女優」は、作品に名前が出ることはほとんどありません。
そして「単体女優」と「企画女優」の中間に位置づけられる「企画単体女優」(キカタン)がいます。
スカウトは自分が声をかけた女性がAVプロダクションに所属、契約し、実際にAVに出演すると成功報酬をもらえる契約としていることが多いそうです。スカウトの取り分は、企画だと2万円が中心、企画単体が5~12万円、単体だと数十万円にのぼったといいます。
「企画は紹介する手間が面倒なのに、僕らの取り分は安いから触れません。単体以外は金にならないので、『単体狙い』に徹しました」
しかし、その「単体」になりうる女性には、一般の芸能人と遜色ない見た目が求められます。かなりハードルが高い仕事になります。
そのため男性たちが所属した会社は「ある手」を打っていました。
「芸能プロダクションのスカウト」として、声を掛けられるように「ダミーの芸能事務所」を設けていたのです。
グラビアやアイドル活動をする女性をアリバイ程度に置いておきましたが、「あくまでAVに出す女性の発掘用事務所」でした。
この芸能プロダクションの名刺で女性を信用させ、有名になれる、テレビに出られる、俳優になれると「夢を見させるだけ見させた」のです。
男性は新宿の路上で声を掛け名刺を渡した後、女性からの連絡を待ちました。風俗店へのスカウトでは、連絡先を知った翌日にメールを送り、毎月末に必ず追加のメールを送ってフォローしていたにもかかわらずです。
なぜ、あえて女性からの連絡を待ったのでしょう? 男性は次のように理由を語ります。
「私は可愛いから雑誌に出たい程度では、AVまではたどり着きません。テレビに出たい、歌手や女優になりたい。強く夢を持っている子だと、プロダクションも芸能活動を少しやらせ、ダメだからAVという流れをつくれます」
男性が所属していたスカウト会社の場合、スカウトが女性をプロダクションに連れて行った1、2年後に女性がAVデビューをしたケースがあったそうです。
男性は、女性をだましていることへの「罪悪感」などの「感情があるとできない仕事だった」と振り返りつつも、次のように語ります。
「単体クラスの女性にAVやりませんかと声を掛けても乗ってくる訳がないのです。芸能で全部通すしかない」
所属先のスカウト全員が同じ手口だったほか、プロダクション側にも「AVと言わず、芸能事務所だと言って連れてきてくれ」と指示されていたといいます。
男性は路上を離れた今でも、当時のスカウト仲間やAVプロダクションの営業らと連絡を取り合っています。
毎月のように何らかの相談が寄せられ、知人からの紹介で、仲の良い風俗店に女性の紹介をしています。「スカウトの今の事情も分かっている」立場です。
ここ数年、スカウトを取り巻く環境が「年々厳しくなっている」と感じています。新宿を歩いても制服を着た警官が立っている頻度が高くなったそうです。また、昨年起きた神奈川県座間市のアパートから9人の遺体が見つかった事件で、容疑者の男性がスカウト業をしていたことも響いているといいます。
それでも男性はある確信を持っています。
「自ら応募してくる女性は、ほとんど単体(女優)になれない。単体はスカウトがあげるしかない。スカウトがいないとAV業界は回らない」
AV出演を強要された被害者などを支援するNPO法人「ライトハウス」(東京)などには2012年以降、300件を超える被害相談が寄せられています。法人スタッフの瀬川愛葵さんによると、スカウトによる勧誘をきっかけに被害に遭ったケースが目立ちます。
スカウトの代表的な手口は、芸能界とのつながりをアピールするやり方だと言います。「有名なモデルを育てた」「芸能人と親しい」などとうそを織り交ぜ、芸能界に興味のある若者に近づいていきます。
出演を拒否した場合、撮影の準備費用や違約金を盾に強く迫ってくることもあります。また「自分の顔を立ててもらわないと困る」「サポートするから一緒に頑張ろう」などとしつこく説得してくる場合もあります。
こうした瀬川さんの話は、取材に応じたスカウト経験者の証言と、相通じています。
そもそも、路上でAVに勧誘するスカウト行為は迷惑防止条例などで禁止されています。
スカウトの「取引先」であるプロダクションの大半は「スカウトがどんな勧誘をしているのかは知らない」としています。しかし、瀬川さんは今回の事件や男性の証言のように、組織的に女性をだましているケースもあるとしています。
出演強要問題の表面化を受け、AV業界では昨年4月に大学教授や弁護士で構成する第三者委員会が発足。委員会主導で自主規制を進めている、としています。
しかし、その中でもスカウトは、存在自体に違法性があることから「(自主規制の枠組みに)包摂するわけにはいかない」(委員の弁護士)とされるなど、手つかずの状態です。
同委員会の調査でも、多くのプロダクションがスカウトを使っていることがわかっていますが、「たぶらかされ、だまされ、AVと知らないで来たとしても、出演までに排除されればいい」(同)としています。
自主規制の枠組みにさえ入らないスカウトは、業界内で最もグレーな存在と言えます。
ライトハウスの瀬川さんは「スカウトはウソがうまく、非常に巧みに芸能界に通じているように演じてくる。アイドルや俳優、歌手に夢を持つ若い女性につけ込むのがうまい」と指摘。「スカウトの問題を解決しないと、AV出演強要はなくならない」と強調します。
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