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オーディオブック、読み手は様々 ABC斎藤真美アナ「妄想力が大事」
音声化された本を耳で聴く「オーディオブック」。スマホの普及などで、市場が新たに広がっていますが、その読み手は、声優、俳優などさまざまです。オーディオブックの大手配信サイト「FeBe」から昨年配信された浅田次郎さんの小説『椿山課長の七日間』では、大阪・朝日放送(テレビ朝日系)のアナウンサーも出演。朝の情報番組「おはようコールABC」などで人気の斎藤真美アナウンサーに、オーディオブック制作時の苦労や舞台裏について聞いてみました。(朝日新聞社総合プロデュース室・坂井浩和)
――働き盛りの46歳で突然死した主人公が、美女の体を借りて七日間だけ現世に戻り、家族の秘密や親子の絆などを知るというこの作品。斎藤さんは冥土の案内役と女性係員の2役で出演されました。
セリフ自体は2役あわせて10カ所くらいでした。一言で終わるようなところもあったんですけど、かえって一言のほうが難しい。短いセンテンスのなかに感情を入れ込まないといけないので、棒読みになりがちだったんです。特に難しかったのが女性係員の役。ちょっと皮肉っぽい言い回しをするんですけど、名前を呼びかけるところは何度も何度もやり直しました。
収録はビルの中にある小さなブースで、そこに1人で入ってマイクを前に立ち、ひたすらしゃべりつづけるという形でした。普段の仕事のナレーションでもそういうブースを使います。ただ、ナレーションの場合は流れる映像に合わせて話しますが、今回の収録は画面も何もなくマイクだけ。でも小説の世界で演じるように話さなきゃならなくて、気持ちを入れるのが難しかったです。
――聴いている限りではまったく違和感なく、スムーズに録られたのかなと思っていました。
いえいえいえ! 最初にお話を頂いた時、朝の番組で「声優に挑戦」という企画が過去に何度かあったので、「ちょっとはできるかな?」と調子にのっていたんです。でも全然うまくできなくて。自分の思い描いているイメージで話しても、監督さんのイメージとは違って、まったく正解がみつからない状態で(笑い)。
係員として人に呼びかけをするシーンでも、ふだん人の名前を呼ぶようにしゃべったんですけど、「全然伝わってこない」と言われて。なので本気で妄想して、目の前に人がいるように手を使って、「○○さん!」みたいな感じで行ったら監督から「今のいい」って。妄想力が大事だってすごく感じました。
――監督の指導がそんなに入るのですね。
「全然伝わってこない」ってすごく言われました……。いまのは棒読みだな、演技臭いな、って。ちょうとよく伝わってわざとらしくない、というのができなくて。
たとえば野球の実況をしているときに、カキーンと打球音が鳴ってボールが飛ぶと、それを見ている私たちも興奮があります。でもそういった興奮とか感動がないので、オーディオブックを読んでいらっしゃる声優の方ってものすごい妄想力があるんだなって今回ひしひしと感じました。
――できあがった作品を聴いてみて、いかがでしたか?
収録の最中は、自分で聞き直しても「あちゃー」って感じでした。ぺらぺらのセリフだなって。でも完成した作品を聴かせてもらうと「あ、会話になってる!つながってる!」って感動しましたね。もうほんと、監督と他のみなさんのおかげです(笑い)。
――ふだん、本はよく読みますか? どんなオーディオブックがあると読んでみたいですか?
恥ずかしい話、あまり小説って読むことがないんです。でもオーディオブックで聴くと、ストーリーが頭の中にどんどん入っていくので、すごいツールだなと感じましたね。
声の出演者の方が目の前にいるわけじゃないのに、見えてくるというか。私のようにふだん本を読まない人にもぜひ聴いていただきたいですね。マンガの実写化と同じように、思っていたのと違うと感じるかもしれないけれど、プロがつくった世界を味わうのも面白いと思います。
それとオーディオブックなら、なかなか手を出しにくい本に挑戦できますね。私だったら古い本かな……、たとえば源氏物語なんて聴いてみたい。あと聖書とかもいいですね。
――今後、オーディオブックの主役級のオファーがあるかもしれません。
私の今回の声を聞いた上でオファーしていただけるのであれば、ぜひまた挑戦したいです。ただ……、たぶん制作時間が大変なことになってしまうかと思います(笑い)。
まずは『椿山課長の七日間』で、私の苦悩の声をぜひ聴いていただきたいです。何十回も録って苦しんだ声です!
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さいとう・まみ 1988年、大阪府生まれ。2012年に朝日放送入社。担当番組は「おはようコールABC」「なるみ・岡村の過ぎるTV」など。神戸大学海事科学部マリンエンジニアリング学科卒の理系女子としても知られる。
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