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税金、高くなる人は誰だ! スーツ代が「勝手に」引かれる仕組み
自分のスーツ代、知らない間に税金で計算されていた? サラリーマンだと意識しにくい税金の話。実は、接待代、携帯代まで、経費として認められているかもしれないのです。そんな、税金について、政府・与党は毎年末に見直しを行っています。昨年末に決まったのが、所得税の「控除」の額の見直し。誰が安くなって、誰が高くなるのか。税金の見直しについて超解説します。(朝日新聞政治部デスク・松村愛)
控除とは「差し引く」という意味。つまり国から課税されない金額を指します。昨年末、政府は個人が稼いだお金にかかる所得税の控除額を見直しました。主に、たくさん稼いだ人(高所得者)を「増税」とする方針が固まりました。
見直されたのは「給与所得控除」「基礎控除」「公的年金等控除」の三つです。
まず、会社員や公務員について、これまで必要経費とみなしていた分をあらかじめ非課税とする「給与所得控除」が縮小されます。
「給与所得控除」というのは、スーツ代などを会社勤めの必要経費とみなして税金の元となる額(課税所得)から差し引くことで減税する仕組みです。スーツを買うたびに領収書を提出する必要はなく、収入に応じて自動的に決まります。
現在の控除額は収入に応じて増え、最低でも「年65万円」、上限の年収1千万円以上なら「年220万円」です。
見直されるのは給与収入が850万円を超える人たちです。約230万人、給与所得者全体の約4%います。
この850万円を超える人たちの控除額を一律10万円引き下げ、195万円にします。所得のうち課税されない金額が減るので、税負担が増す「増税」となります。
当初、増税とする年収水準を1千万円とする案が検討されましたが、対象者が少なすぎて増税の効果が薄い、という声があがり、年収水準が850万円に引き下げられました。22歳以下の子どもがいたり介護が必要な家族がいたりする世帯は増税とならないようにします。
同じように、年金収入がある高齢者に適用されるのが「公的年金等控除」。年金収入や、年金以外の株や不動産などの所得が年1千万円を超える人の控除額が年10~20万円引き下げられ、約3千人が「増税」となります。
控除額に195.5万円の上限も設けられ、これ以上は、どんなに収入が多くても控除額は増えません。増税対象は年金受給者全体の約0・5%になる見込みです。
逆に、働く人すべてが受けられる減税措置「基礎控除」は、一律10万円上乗せされます。働き方の多様化で、会社に所属せずフリーランスで働く人が増えており、そうした人たちの大半の税負担を軽くする「減税」措置です。
高所得のサラリーマンや、年金やそれ以外の所得で裕福に暮らす高齢者の税負担を増やし、働き方の違いによって控除されるかされないかが決まらないよう不公平感を減らす狙いがあります。財務省は合計で年約900億円の税収アップにつながると見込んでいます。
所得に対する控除にはこのほか、専業主婦・主夫がいる世帯に適用される「配偶者控除」、配偶者と死別したり離婚したりした一人親向けの「寡婦控除」などがあります。
これらの減税措置には、格差是正をうたった割に、高所得層という「取りやすいところから取った」だけという指摘もあります。
政府・与党は、アベノミクスで企業業績が上向き、税収増が見込まれるなか、企業への優遇策など抜本的な見直しには手をつけませんでした。
別の問題もあります。収入が多い世帯は、児童手当(旧子ども手当)が減額されるなど、さまざまな行政サービスを受ける際に「所得制限」に引っかかって恩恵にあずかれない場合が多くなります。
出費を抑える傾向が強まれば、高価な商品は売れなくなり、格安のものばかりが世の中に増えてしまいます。消費税率10%の引き上げに備え、財布のひもがますますかたくなると、政府がめざす「デフレ脱却」を遠のかせる要因になりかねません。
なかなか一筋縄ではいかな税金ですが、様々な職種・立場の人たちの理解を得るためには、納税者への丁寧な説明が欠かせません。
ただ、税金を取る側(税徴収部門)のトップである佐川宣寿・国税庁長官は、昨年まで財務省理財局長を務め、学校法人森友学園への国有地売却をめぐり不当な値引きがあったという疑惑を国会で追及されています。
「確定申告前のけじめを」(立憲民主党の枝野幸男代表)という声が政界から上がっており、今年の国会でも引き続き追及が続いています。