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AV強要、非公開だった警察説明会の中身 出席者「これでは生殺し」
政府などが対策を進めるAV出演強要問題で、警視庁が2月1日、AVメーカーやAVプロダクションの社員ら約180人を集め、「事件説明会」を開きました。業界関係者向けのこうした説明会は極めて異例です。真面目に受け止める出席者がいた一方、「生殺しの感じだ」との戸惑いや「パフォーマンスにすぎない」との反発の声も。メディア退出後の非公開で行われた説明会で何があったのか。業界関係者が感じた「違和感」について聞きました。(朝日新聞記者・荒ちひろ、長野剛、高野真吾)
会場となったのは都心の警視庁施設。午後3時半の開始45分前から、続々と出席者が集まってきました。スーツ姿よりもカジュアルな服装が多く、大半は男性でした。
出席者はAVメーカーが130社で131人、AVプロダクションが35社で36人、作品の審査団体などが6団体から12人です。
AVメーカーなどでつくる知的財産振興協会(IPPA)事務局からは、事前に「会員1社1名まで」で「皆様におかれましては、大変重要な説明会となります。是非とも、各社ご出席いただけますようお願い申し上げます」との案内が会員のメーカーに出されていました。
出席者は、会場となった7階の講堂入り口で、名刺を出し受付をしました。
IPPAが1月16日に「実写AVメーカー関連会員 各位」あてに出したメールでは、「公的身分証明書(免許証など)をお持ち下さい」となっていました。
しかし、19日に同じく「関連会員 各位」に出したメールでは、「警視庁に再度確認し、当日は、公的身分証明書ではなく、『申込会社の名刺』をお持ちいただくに変更となりました」。
この変更を受けた、名刺での受付でした。
メディアには冒頭15分ほどが公開されました。
事件の捜査にあたってきた警視庁生活安全部の田代芳広部長が「AVへの出演強要は深刻な人権侵害であり、我々も被害防止のため、積極的に事件化をすすめていく」。
山本佳彦保安課長はプロダクションに対し、年齢や出演時の意思確認の徹底を求めました。メーカーには海外向けであっても無修整動画は違法となる恐れがあるため根絶することを伝え、審査団体に対しては作品の審査徹底をして欲しいと述べました。
そして「違法性があれば、あらゆる法令を適用していく。いっそう各種法令やルールを守っていただき、今後、AV出演強要といた事案の根絶を図っていただきたい」とあいさつしました。
厳しい言葉を発した両氏に向けた出席者からの拍手は、まばらでした。
続いてIPPA、作品の審査団体、大手AVプロダクション14社でつくる「日本プロダクション協会」から代表者5人が壇上にあがりました。田代部長が「「アダルトビデオ出演強要問題に係る関係法令の遵守についての要請書」を手渡しました。
一人目となったIPPAの島崎啓之・理事長の時、田代部長が「近年、欺罔(ぎもう)や脅迫等の言動により強制的にアダルトビデオに出演させられたり、AV出演を拒否したことにより多額の違約金を請求され、出演を余儀なくされたりする事案が社会的な問題となっております」から続く、要請書を読み上げました。
そろってスーツ姿の5人は、各自、神妙な面持ちで要請書を受け取り、一礼しました。
メディアが退出後、説明会はさらに20分ほど続きました。
朝日新聞の独自取材によると、説明にあたったのは、自らの仕事を「売春に関する各種犯罪の取り締まりを担当する」と自己紹介した管理官でした。
パワーポイント4枚の資料を示しながら、過去の逮捕事案を詳しく説明しました。各種報道に出ているよりも詳細な情報が提供されました。
総括の「問題点」として、「出演する上で女性に対する確認の不徹底がなされていた」「撮影について真実を説明することなく勧誘している」「出演をキャンセルした場合の違約金を示した上で出演を迫っている」ことを上げました。
話の最後で、管理官は「お願い」の言葉を述べました。
「売春防止法、職業安定法、労働者派遣法など各種法令を守って事業活動を実施して頂きたい」「法人の代表者、幹部による社内統治の徹底をさらに進めてもらいたい」など4点を列挙しました。
終了後、小雨が降る中、路上で出席者から感想を聞きました。
壇上に上がり要請書を受け取った「日本プロダクション協会」事務局の中山美里さんが応じました。
「ますます自分たちの襟を正すと共に、お互いの襟を正し合う感じで、業界の健全化を社会に見せられるような形でやっていければいいのかなと思う」
AV監督歴の長い日比野正明さんは「警察のご指導は厳粛に受け止めてやっていきたい。業界内の悪い人にはなるべく出ていってもらえるように努力していく。何とか健全にし、僕たちも普通に街を歩けるような立場になりたい」。
一方、戸惑いや反発の声も上がりました。
プロダクションの男性は「具体的に何をしたらダメなのか、を言われなかった。余計にどうしたらいいか分からなくなった」。
男性は「被害者を出すつもりは全くない」としながらも、「50キロ(制限の道路)を60キロで走っているのと同じレベルの話。違法と言い出せばきりがないことはいっぱいある」と打ち明けます。それだけに「MAXで(厳しくされると)本番(の性交渉)禁止と言われるかと思っていた。それなら、それでいいんです。生殺しじゃないけど、そんな感じ」と受け止めました。
メーカーの男性は「質疑時間すらなく、話が一方通行だった。現場で何を注意していいか分からない。出演強要に取り組む姿勢を見せたい、単なる警察のパフォーマンスにすぎない」と冷ややかでした。
気になったのは、審査団体が「警察の圧力」を感じ、自主規制を厳しくしていくこと。
関係者は、昨年来、作品中のモザイクを濃くするような自主規制の強化があったといいます。メーカーの男性は「出演強要とモザイクは関係ない」とし、「じわじわと表現規制につながらないといいのだが」と話していました。
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