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初優勝・栃ノ心、ファッションは「色の魔術師」 考え抜かれた「粋」

初優勝から一夜明け、会見する栃ノ心関=東京都墨田区の春日野部屋、柴田悠貴撮影
初優勝から一夜明け、会見する栃ノ心関=東京都墨田区の春日野部屋、柴田悠貴撮影 出典: 朝日新聞社

目次

 大相撲初場所が、西前頭3枚目の栃ノ心関の平幕優勝で終わりました。ジョージア出身の30歳。「甲冑のような体」(元小結・舞の海さんが千秋楽で語った一言)が特徴で、4年半前、靱帯を2本切る大けがで幕内から幕下に落ちながらも、不死鳥のように戻った栃ノ心関。その実力はもちろん、実はファンからファッションでも注目されています。すてきな着物の色使いから、私は「色の魔術師」と勝手に呼んでいるのですが、そこには日本の美を意識する心がありました。(朝日新聞記者・江戸川夏樹)

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2012年夏場所の栃ノ心関=両国国技館
2012年夏場所の栃ノ心関=両国国技館

「オビワンみたい!」

 栃ノ心関は春日野部屋所属の力士。初場所は横綱鶴竜関以外の力士に勝利する14勝1敗。優勝だけでなく、あらゆる力士があこがれる横綱や大関を倒した力士に与えられる殊勲賞、技が光った技能賞にも輝きました。

 その栃ノ心関のファッションに「おっ」と思ったのは、さかのぼること3年前。2015年の九州場所でした。

2015年九州場所の栃ノ心関
2015年九州場所の栃ノ心関 出典: 朝日新聞社

 写真が横向きしかなくて申し訳ありません。力士の入待ち、出待ちはファンにとっては興奮の一瞬。ファンの声に頭を下げる力士、恥ずかしそうに苦笑いを見せる力士、そのようなしぐさがたまりません。

 両国国技館は横綱、大関は地下の駐車場から入るので、絶対に姿を見ることができないのですが、大阪(3月)、名古屋(7月)、九州(11月)は、すべての力士がいわゆる入口から入ります。ファンにとってはすべての力士に声援を送ることが出来る楽しい場所です。横綱をはじめとする力士を入待ちするファンの中でため息をつかせた。それが栃ノ心関でした。

 安易に言えば、すべて着物、袴、羽織り、すべて茶色。その明暗3種類を巧みに組み合わせたいでたちは目を引き、ツイッターでも話題になりました。観客の誰かがささやいた「(スターウォーズの)オビワンみたい」の一言、確かに!

2016年初場所での栃ノ心関。同系色の色をうまく合わせた出で立ちです
2016年初場所での栃ノ心関。同系色の色をうまく合わせた出で立ちです

おしゃれな力士たち 入待ちはファッションショー

 当時、力士のファッションについて、取材を進めていました。無地から、より明るい花柄やタータンチェックへ。力士の着物は年々、変化しています。地味な色でも、配色にこだわり、見せることを楽しむ力士も少なくありません。

鮮やかなピンクが美しい今場所で引退した北太樹改め小野川親方=2016年初場所
鮮やかなピンクが美しい今場所で引退した北太樹改め小野川親方=2016年初場所
女性もののブランドバッグを持っていることもあるおしゃれ番長の隠岐の海関はコートの下からチェック柄の着物がのぞいていました=2016年初場所
女性もののブランドバッグを持っていることもあるおしゃれ番長の隠岐の海関はコートの下からチェック柄の着物がのぞいていました=2016年初場所

 力士の着物を手がけてきた呉服店に話を聞いたところ、女性もので、全体に細かい模様が入っている「小紋」を使う力士や、着物の下からちらりとのぞくじゅばんに赤やピンクを選ぶ力士も多いそう。眼鏡を10本以上持っていますと話してくれた力士もいました。自国の国旗の模様を帯に入れることもあります。

栃ノ心と同じジョージア出身の臥牙丸はジョージアの国旗を帯に描いていました=2016年初場所
栃ノ心と同じジョージア出身の臥牙丸はジョージアの国旗を帯に描いていました=2016年初場所

考え抜かれた 粋な色使い

 3年前の2015年、栃ノ心関に真意を伺ったところ、「自分、おしゃれなんです。実は赤とかピンク、黄色とか派手な色が好き。でも、春日野親方から、茶色、青、シルバーといった色が粋じゃないかと言われて。ねず色の締め込み(現在のもの)も、親方からもらいました。それから、粋とは何かを考えています。帯の締め方、着こなし、きちんとしないと人間性がでてしまうんです。相撲人生は決して長くない。だからちゃんとしたい。今まで育ってきた歩みが表れてしまうからね」

 栃ノ心関のファッションは渋い。そこが素敵。昨年も栃ノ心関の着こなしは「粋」でした。7月に開かれる名古屋場所。新しい着物や浴衣のお披露目としても知られています。昨年で言うと、石浦関は生首の幽霊柄、宇良関のハリネズミ柄など華やかな色柄が目立ちました(千代大龍関の「秘密結社鷹の爪」、豪栄道関の「竜虎」など多彩な着物を記事下のフォトギャラリーで紹介)。

背中一面に幽霊が描かれたおどろおどろしい石浦関の着物
背中一面に幽霊が描かれたおどろおどろしい石浦関の着物
なぜハリネズミなのか。不思議に思いつつもかわいいと感じた宇良関の着物
なぜハリネズミなのか。不思議に思いつつもかわいいと感じた宇良関の着物

 その中、栃ノ心関は黒にオレンジの帯。さかのぼった2012年5月場所でも、鈍色に水色の帯を締めていました。字面だけでは地味と思えるかもしれませんが、派手な三文字が。

栃ノ心
2017年7月、名古屋場所
2017年7月、名古屋場所
2017年7月、名古屋場所
2017年7月、名古屋場所
2012年5月、春場所=両国国技館
2012年5月、春場所=両国国技館

 いずれも自らのしこ名を大きく描いた柄が描かれています。栃ノ心関は取材にこう話してくれました。

「しこ名こそ、力士としての自分です」

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