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初優勝・栃ノ心、ファッションは「色の魔術師」 考え抜かれた「粋」
大相撲初場所が、西前頭3枚目の栃ノ心関の平幕優勝で終わりました。ジョージア出身の30歳。「甲冑のような体」(元小結・舞の海さんが千秋楽で語った一言)が特徴で、4年半前、靱帯を2本切る大けがで幕内から幕下に落ちながらも、不死鳥のように戻った栃ノ心関。その実力はもちろん、実はファンからファッションでも注目されています。すてきな着物の色使いから、私は「色の魔術師」と勝手に呼んでいるのですが、そこには日本の美を意識する心がありました。(朝日新聞記者・江戸川夏樹)
栃ノ心関は春日野部屋所属の力士。初場所は横綱鶴竜関以外の力士に勝利する14勝1敗。優勝だけでなく、あらゆる力士があこがれる横綱や大関を倒した力士に与えられる殊勲賞、技が光った技能賞にも輝きました。
その栃ノ心関のファッションに「おっ」と思ったのは、さかのぼること3年前。2015年の九州場所でした。
写真が横向きしかなくて申し訳ありません。力士の入待ち、出待ちはファンにとっては興奮の一瞬。ファンの声に頭を下げる力士、恥ずかしそうに苦笑いを見せる力士、そのようなしぐさがたまりません。
両国国技館は横綱、大関は地下の駐車場から入るので、絶対に姿を見ることができないのですが、大阪(3月)、名古屋(7月)、九州(11月)は、すべての力士がいわゆる入口から入ります。ファンにとってはすべての力士に声援を送ることが出来る楽しい場所です。横綱をはじめとする力士を入待ちするファンの中でため息をつかせた。それが栃ノ心関でした。
安易に言えば、すべて着物、袴、羽織り、すべて茶色。その明暗3種類を巧みに組み合わせたいでたちは目を引き、ツイッターでも話題になりました。観客の誰かがささやいた「(スターウォーズの)オビワンみたい」の一言、確かに!
当時、力士のファッションについて、取材を進めていました。無地から、より明るい花柄やタータンチェックへ。力士の着物は年々、変化しています。地味な色でも、配色にこだわり、見せることを楽しむ力士も少なくありません。
力士の着物を手がけてきた呉服店に話を聞いたところ、女性もので、全体に細かい模様が入っている「小紋」を使う力士や、着物の下からちらりとのぞくじゅばんに赤やピンクを選ぶ力士も多いそう。眼鏡を10本以上持っていますと話してくれた力士もいました。自国の国旗の模様を帯に入れることもあります。
3年前の2015年、栃ノ心関に真意を伺ったところ、「自分、おしゃれなんです。実は赤とかピンク、黄色とか派手な色が好き。でも、春日野親方から、茶色、青、シルバーといった色が粋じゃないかと言われて。ねず色の締め込み(現在のもの)も、親方からもらいました。それから、粋とは何かを考えています。帯の締め方、着こなし、きちんとしないと人間性がでてしまうんです。相撲人生は決して長くない。だからちゃんとしたい。今まで育ってきた歩みが表れてしまうからね」
栃ノ心関のファッションは渋い。そこが素敵。昨年も栃ノ心関の着こなしは「粋」でした。7月に開かれる名古屋場所。新しい着物や浴衣のお披露目としても知られています。昨年で言うと、石浦関は生首の幽霊柄、宇良関のハリネズミ柄など華やかな色柄が目立ちました(千代大龍関の「秘密結社鷹の爪」、豪栄道関の「竜虎」など多彩な着物を記事下のフォトギャラリーで紹介)。
その中、栃ノ心関は黒にオレンジの帯。さかのぼった2012年5月場所でも、鈍色に水色の帯を締めていました。字面だけでは地味と思えるかもしれませんが、派手な三文字が。
いずれも自らのしこ名を大きく描いた柄が描かれています。栃ノ心関は取材にこう話してくれました。
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