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フランスの年越し名物「車両1000台放火」不名誉な伝統、誰が?なぜ?
新年を迎える年越しの夜はどの国でもおめでたいものですが、フランスではそうとばかりも限りません。実は毎年、他人の車に火を放つ無法者が後を絶たず、計1000台近くのクルマが燃やされています。なぜそんなことに?(朝日新聞国際報道部・神田大介)
フランスメディアによると、2017年12月31日の夜から2018年1月1日の未明にかけて、フランスでは全土で計1031台の車両が放火され、510人が逮捕されました。
治安部隊14万人が警戒していましたが、パリ郊外では警察官2人が集団に襲われる事件もありました。
フランスのマクロン大統領は「警察官に対する卑怯で犯罪的なリンチは罰を受ける」とツイートで警告しました。
今に始まったことではありません。大晦日の夜に大量の車両が放火されるのは、少なくともここ20年ほど続く、フランスの不名誉な「伝統」になってしまっています。
昨年、2016年から2017年にかけては935台の車両が放火され、456人が逮捕されました。2006年以降、毎年のように1000台前後の車両が被害にあっています。
フランスの政治や社会に詳しい北海道大学の吉田徹教授によると、この「年越し放火」をしているのは、郊外に住む雇用難にあえぐ若者。
フランスの失業率はここ30年ほど、おおむね8~10%という高い数字が続き、特に若者は4人に1人が失業者だといいます。パリをはじめ大都市の郊外には低所得者層が多く住み、先の見えない暮らしに不満を抱えています。この地域の若者たちが憂さ晴らしとして火をつけているのです。
「年越し放火」は1997年末、フランス北東部のストラスブールで53台の車両が火焰瓶などで放火された事件が発端になったと言われています。
それにしても、なぜ車両がターゲットになってしまうのでしょうか。
「職のない若者たちはクルマを持てず、格差や不平等の象徴になっています」と吉田教授。
大晦日に被害が集中するのは、年越しのお祭り気分に乗じてのことだと言われています。他にもフランスでは最大の祝日、革命記念日(7月14日)にも同じような車両への放火があります。
あえて日本でたとえれば「初日の出暴走」といったところでしょうか。
なお、2010年末と2011年末は、放火台数のデータがありません。「数字を発表することで各都市が放火を競うようにあおり立てる恐れがある」と政府が判断したからでした。おしゃれで華やかなイメージの強いフランスですが、こんな一面もあります。
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