グルメ
日本人にも使える? ベテランガイドが教える、外国人おすすめグルメ
ビザの緩和などで日本に訪れる外国人旅行客が急増し、2017年は11月現在で2617万人となり、過去最高になりました。通訳案内士に「インバウンドに喜ばれる食事」を尋ねたところ、「オフィス街のランチ後」「味は濃いめ」「はずれがないめん類」「意外と多いベジタリアン」「写真映え」といった5カ条が浮かび上がりました。敏腕ガイドに、日本人も気づかない身近な「日本食」の魅力を聞きました。
「高級なお店より、普段オフィスで働いている人がランチで行くようなお店が好まれるんですよね」
こう話すのは、「民間外交官」と呼ばれる通訳案内士として年間100日余り外国人のアテンドをし、通訳案内士初心者向けの講習会を年間140日開く古屋絢子さん(40)です。
活動の中心は東京ですが、日光や富士山、箱根といった関東近県や新幹線で行ける金沢などに遠征することもあります。古屋さんは英語の通訳なので利用者のうち、アメリカ人とオーストラリア人が各3割を占め、残りはシンガポールやフィリピン、インド、香港、イギリスといった英語を日常会話で使う国々の旅行者です。だいたい午前9時や10時から約8時間の「おもてなし」です。多くは、ランチが中心になります。
「高級ホテルに泊まっていても、ランチに提案するお店は1人1000~1500円が相場です」
「食事のために移動するのを嫌がります。その日会った時の日常会話の中からくみ取って、その日の観光ルート上で探すのがポイント」
ホテルの朝食も比較的ゆっくりとる人がいるため、案内するランチは午後1時ごろからでも十分可能だと言います。
ただ、どこでもいいわけではないようです。「自分たちでは見つけられないお店」「自分たちだけでは入りにくいお店」「値段が手頃でおいしいお店」といった気持ちはどんな旅行客にも共通しているようです。
「懐石料理が日本料理でのおもてなしだと思っていたら、それは間違いです」
日本人的な感覚だと見た目が繊細で喜ばれると思いきや、ランチにはNGだといいます。
「白いご飯にしょうゆをかけて食べる人もいるように、濃い味を好む人が多いと思います。かつおだしも苦手な人がいるので要注意です」
古屋さんによると、懐石風の日本料理が好まれないのは、そもそも旅館やホテルで和風の朝食や夕食を楽しめる場合が多いこともあるようです。また、元々暮らしていた母国での食事では、はっきりした味付けが多いという食習慣の違いもあるようです。
「白いご飯より混ぜごはんの方が食べやすいです。その延長線上にチャーハンがあります」
日本に来たからと言っても、毎日、和食はつらいそうだ。外国人旅行客は、行く先々で通訳案内士を雇うため、旅全体のイメージを聞いたうえで、ランチをチョイスすることが重要だそうです。
人気があるメニューは、すしや肉(鉄板焼き、焼き肉)だそうです。その次に来るのが、めん類(ラーメン、そば、うどん)です。他にもお好み焼きややきとり、ぎょうざなど庶民的なメニューが好まれているようです。
これらの共通点は、「自分たちでは入りにくい店」「メニューが日本語で読めない店」といった共通点があるようです。
ここでも要注意なのが、行列ができるような有名店が好まれるかというと、そうではないようです。旅行のため、「待っても30分」といったタイムリミットがあるそうです。
めん類でも、比較的若い世代はラーメン派で、50歳以上はうどん・そば派が多いと言います。
「味と雰囲気が合えば、満足してくれます」
ただ、なぜ、このようなメニューが好まれるのでしょうか。
古屋さんによると、海外で増えるラーメンやすし屋といった日本食レストランを通じて日本の食に触れる機会が増えてきたことがあるそうです。
とはいえ、海外では日本食レストランだからといって日本人がオーナーで日本人の料理人が調理をしているとは限りません。日本人が想像する巻きずしは、のりでしゃりなどを包んだものです。しかし、外国人をそのようなすし屋に連れて行くと、「ちょっと違います?」と言われることがあるそうです。すしは、欧米でアレンジが進み、海外で巻きずしと言えばカリフォルニアロールが一般的と言われているためです。
すしは好きでも生はだめという人もいるため、握りなら炙りすしにして出してくれるようなアレンジが可能なお店が好まれると言います。
古屋さんによると、特に欧米からの旅行者は、豆腐や煮物より天ぷらやとんかつ、繊細な味付けよりはっきりした味付けの方を好む傾向があるそうです。
「Vegetarian」(菜食主義者)、「Lacto-vegetarian」(乳製品は食べる菜食主義者)、「Ovo-veretarian」(卵は食べる菜食主義者)、「Vegan」(動物性食品を一切食べない菜食主義者)。
ベジタリアンは菜食主義者で肉や魚を食べない人ですが、ヴィーガンと呼ばれる人は、肉や魚のほか、卵・牛乳・チーズなどの動物性食品も食べない人たちです。
「ベジタリアンの旅行者は意外と多くて、私がガイドしたお客さんの3割はベジタリアンでした」
こんな時は、例えば天ぷらの場合、野菜の素揚げ、昆布だしの天つゆか塩で食べられるランチを探すといいます。
無宗教が多い日本人には理解が難しいかもしれませんが、旅行客の中には、ユダヤ教、ヒンドゥー教、イスラム教といった信仰する宗教によって食事の制約が出てきます。ただし、このような情報は、当日朝、合流してみないと分からないことが多いと言います。訪日客のガイドを仕事にしていくためには、「アレンジしてくれるお店をガイドがどれぐらい持っているか」が重要になってきます。
最近は、ラーメン店でも、つゆのベースを鳥にし、チャーシューも豚肉と鶏肉を選べるようにしているところが出てきたほか、ヴィーガンの人向けにラーメンのつゆも、昆布やしいたけを使うところが出てきたそうです。日本人からすると、「えっ?」と思うかもしれませんが、インバウンド向けのアレンジの一つとも言えます。
インスタグラムだけではなく、SNSにアップしたり、旅行サイトの口コミ情報に感想を書き込んだりするために重要になるのが、食事の写真。
「お食事の時は、ほぼみなさん写真を撮っています」
古屋さんがこう話すように、「インスタ映え」する食事を求め、食べる前に写真撮影しているのは日本人だけではなさそうです。つまり、おいしさやリーズナブル、庶民的といったこと意外に、ロケーションも含めた「絵になるランチ」も、お客さんに満足してもらうための重要ポイントだそうです。
古屋さんは「旅慣れた旅行客の場合、滞在する都市の最初の1日だけ、私たちのような通訳を付けるケースが多いと思います。最近は、旅の途中に日本旅館に泊まる人も増えてきています。毎日、毎食、和食だと飽きてきます」と話します。
そして最後に重要なのが日本の常識が世界の常識でないこと。
「日本人が良かれと思ってしたことでも、満足してもらえなかったことがあります。例えば、肉料理のお店で『チューイー』(chewy)と言われることがありました。かみ切れないのです。日本人は刺しの入ったお肉がぜいたくだと思いますが、外国人は赤身の肉が好きです。だから、刺しが入っていないA4に肉のランクを落としても、味がよく、値段が手頃でお店の雰囲気が良ければ満足してもらえます」
そんな古屋さんに最近の流行を聞いてみました。
築地場外市場一角にある「そらつき」の「築地大福」だそうです。日本でもイチゴ大福やトマト大福などあんこ以外のものを包む大福がありますが、ここではもっとバラエティーがあるそうです。古屋さんがアテンドする旅行客には、「いちごヨーグルト」「完熟マンゴー」「チョコあん」「濃厚カスタード」といった大福が人気のようです。
◇
朝日新聞の投稿欄「声」では、「インバウンド」に関する投稿を募集しています。多様な声を新聞とデジタル版の記事でご紹介します。投稿はメール(tokyo-koe@asahi.com)で550字以内。原則実名です。住所、氏名、年齢、性別、職業、電話番号を明記してください。
1/7枚