お金と仕事
キットカット、訪日客をガッチリ 躍進のチョコ市場、ガムは苦戦
食品大手ネスレ日本が、国内では26年ぶりにチョコレート工場を新設しました。ネスレの本国イギリスでも話題になったこのニュースは、チョコ菓子「キットカット」が訪日外国人に大人気なのが理由だということです。キットカットのほかにも、高カカオ製品が好調で、少子化の中でも拡大を続けるチョコレート市場。その一方、同じ国民的菓子のガムは苦戦しています。(朝日新聞東京社会部記者・田玉恵美)
「りんご味なんて初めて見ました」。東京都内の大型ディスカウント店「MEGAドン・キホーテ渋谷本店」で、フランス人観光客のバネッサ・メイエンさんが、陳列棚の前で目を丸くしました。「フランスにもキットカットはあるけれど、普通のチョコ味だけ。こんなにたくさんあるなんて」
日本へ旅行した人がネットで紹介しているのを見て買いに来たそう。友人のスヴィヤ・パラヤンさんは「お土産にしては安いし、職場へ買っていくのにちょうどいい」。2人は12個入りで800円のもみじまんじゅう味やほうじ茶味などを購入しました。
店内には他にもワサビや紅いもなど日本らしい素材を生かした18種類が並び、連日外国人で大にぎわいしています。菓子担当の荒木雄太さんは「スマートフォンの画面に目当てのキットカットの写真を出して、『売り場はどこか』と聞く人も多いです」。ダントツの一番人気は抹茶味だということです。
キットカットは国内でこれまでに、300種類以上が発売されました。新しいものが好きな日本人向けの戦略でしたが、「知っているブランドなのに、日本では知らない味が買えるのが外国人にも受けた」とネスレ日本はみています。
今夏も日本酒味がデビューしたばかり。茨城県の霞ヶ浦工場で製造してきましたが需要に追いつかなくなったため、8月に26年ぶりとなる新工場を兵庫県姫路市に作りました。
ネスレ日本によると、外国人需要に押されてキットカットの売り上げはこの6年で1.5倍になりました。1935年に英国で誕生し、73年に日本に上陸。今では世界100カ国以上で売られていますが「3年前に販売額で英国を抜き、日本が世界一の売り上げ国になった」(高岡浩三社長)。
このニュースは本国でも話題に。英紙ガーディアンや公共放送BBCが「英国では売れ行きが落ちているのに、日本では伸びている」「『きっと勝つ』に似た語呂に願をかけて日本では受験生たちもむしゃむしゃ食べている」などと伝えました。
チョコレート愛好者でつくる「ショコラクラブジャポン」の畑博之会長は、国内でもキットカットが人気の理由について、ウエハースをチョコレートでコーティングした構造に着目します。「軽快でサクサクと食べられるキットカットは、食感を重視する日本の消費者の好みに合っている。チョコレート菓子の中では優等生的な存在だ」。
さらには「著名パティシエの高木康政氏の監修による高級ラインも売り出すなど、幅広い年齢層や様々な生活シーンに対応しているところが強みでは」といいます。ネスレは「2020年の東京五輪に向けて、さらに市場は拡大する」と意気込んでいます。
キットカットのほか、高カカオ製品の売れ行きも好調で、チョコレート市場は少子化の中で拡大を続けています。日本チョコレート・ココア協会のまとめによると、国内消費量は、30年で9万トン増えて15年は25万トンに。1人当たりの年間消費量も700グラム増えて2キロを超えました。
躍進するチョコレートの陰で憂き目に遭っているのがガムです。全日本菓子協会のまとめによると、ガムの売り上げは2004年の1881億円が、16年は1058億円。12年で4割も縮みました。
菓子専門店「おかしのまちおか」を展開する「みのや」販売企画部の田上智さんは「ガムはゴミが出るのが忌避され、ミント菓子にお株を奪われた。特に若い人から支持されなくなっている」。その半面チョコは「大人からも子どもからも選ばれる菓子になったのが勝因ではないか」と分析しました。
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