IT・科学
禅にはまった結果…「VRソフト」まで作ってしまった女子大生
禅にはまり、3Dスキャンを使って禅用のクッションを作ったり、仮想現実(VR)で禅を体験できるソフトまで開発した女子大生がいます。「禅の世界を、どうやったら知ってもらえるか。現代に対応させていきたい」。そんな「ZENガール」に話を聞きました。(withnews編集部記者・相原彩良)
話を聞いたのは、慶応大学湘南藤沢キャンパス(慶応SFC)の1年生、河野礼さん(19)です。
――禅用のクッションを作ったそうですね
「デジタルデザインの授業で瞑想(めいそう)用の『ZEN chair』を作りました。普通のクッションでもいいけれど、家具として禅専用の特化しているものが作れたらいいなって思ったんです」
「ライノセラスという精密製品から航空機などの幅広い3次元モデルデータを作るためのソフトを使って、設計をするところから自分でやりました。背骨が自然に伸びるように、粘土の上に座ってお尻の骨の型を取り、3Dスキャンして椅子の設計をしました。クッション作りを通して、あらゆる技術を学びました」
――クッション作りで大変だった点は?
「まず椅子をどんな形にするかで迷ってたくさん試行錯誤をしました。座禅の時には腰から背筋を伸ばすことが大切だから、3Dスキャナーでとったデータを参考に、クッションの代わりに椅子の傾斜を利用して、正しい姿勢かつ座り心地が良いものを作るよう工夫した!」
――VRも手がけられたとか?
「春学期に、ユビキタスコンピューティングの実現に向けた研究に取り組む、徳田研究会にも所属して『どこでもZEN』というソフトを作りました。UnityというVR開発ツールを使って、お寺に行かなくても、禅ができるというものです」
――VRソフトの中身は?
「広島県にある『神勝寺禅と庭のミュージアム』の洸庭という作品を再現しました。真っ暗で水が存在しているインスタレーションの空間をつくってVRで映し出して体験できます。VRゴーグルをしているから、頭が重くて集中できないという点はありますが、どこでもアプリを起動してできるという身近さは生み出せたかな、と思います」
――VR作りで大変だった点は?
「禅的空間をVRで作ってはみましたが、仮想空間にいるような違和感がやはりあって、現実に近い没入感を作り出すことがとても難しかったです。VRゴーグルをかけて静止状態を一定時間感知したらシステムが開始されるといった、インタラクティブ性を取り入れ、水音もつけてより没入感を生み出す工夫もしました」
――禅の魅力をあらためて教えてください
「『ただ座って、内なる世界と向き合う』と聞くと、難しくて怖いイメージをもたれがちですが、実際、そういう時間を持つことによって自分の心が整理できるんです。お寺は堅苦しいわけではなくて、若い世代に禅の魅力を知ってほしくて、現代に対応させていきたいと思っています」
――私自身、あまり身近なイメージはないかもしれません……。京都のお寺で体験した時も、その場でおしゃべりができないというのが、落ち着かなかったなあという思い出があります。
「最初は落ち着かないのは当たり前だと思います。だけど、一度でやめずに、生活習慣として取り入れていくと、歯磨きと同じくらいしなくてはならないものとして定着してきます。修学旅行だけの体験じゃなくて、違う形で取り入れてほしいです」
――どんな取り入れ方をすればいいのでしょう?
「朝起きたら、まず家でクッションに座って、お尻を高くする。窓を開けて、外の空気も入れながら、5~10分座禅をしています。これなら、ベッドの上でもできますよ」
――そもそも、禅との出会いを教えてください
「高2の冬に修学旅行で京都に行って、自由時間に友達と大徳寺大仙院を訪れました。せっかくだから、座禅体験でもしてみようかなと思って。そこで出会った住職さんがお寺案内をしてくださった時の、その言葉が心にしみたんです」
――どんな言葉だったんですか?
「その時、ちょっと精神的に落ちこんでいたんだけれど『空気とか親とか当たり前にいるものに感謝して生きていこう』という言葉をかけられて。その言葉から、自分の悩みはちっぽけなことだっと思えるようになりました。そこから、禅についてはまっていきました」
――禅にはまる若い女性は少ないかもしれなけれど、高校の時、まわりはどんな反応でした?
「インスタに『禅が若い人に広まればなあ』みたいな投稿をしていているので、まわりの人もぼちぼち知っているみたいで『面白いね』って思われてるみたいです。座禅に興味を持ってくれる高校生の後輩が増えてきていて、来年の春には、禅のことを話す授業も母校の高校で開いてもらいます。高校生のための授業を通して、若い私にしかできないやり方を教えてあげたいです」
――大学では?
「SFCはツイッターを通して私を知ってくれている人がいて、2~3人の先輩は実際に取り入れてくれています。朝、授業前にキャンパス内にある鴨池の周りで禅を組むのを習慣にするのも結構いいと思っています」
「中高生や大学生って、誰でも、何かしら悩みを抱えているもの。座禅会に行くと、おじいちゃんおばあちゃんばかりだけれど、『むしろ若い子こそ必要でしょ』って思います」
――若い人が禅をする意味は?
「禅は、改めて考えると当たり前のことをハッと気づかせてくれます。親とけんかしたりむちゃくしゃしたりしても、親が支えてくれていることに気づかせてくれます。心を少し広く持てるようになるのが魅力です」
「禅をすることで劇的に何かを得られたり変わるわけではないけれど、それがあるとないとでは違う。ありのままでいるため」
――オススメの場所は?
「建築家の谷口吉生さんが設計された、金沢市にある鈴木大拙館! お寺以外で気軽に提供してくれる禅的空間です」
――禅と出会って、変わったことはなんですか?
「ありのままの自分でいることが怖くなったかなあ。個性が強い仲間に囲まれていたので、アイデンティティに悩み、着飾っていたり真似ばかりしていて外から影響を受けるばかりだったから」
「禅と出会って、今のままの自分から何が生み出せるか、ポジティブに考えられるようになったと同時に、人の目が気にならなくなった。もちろん悩むことはあるけれど、俯瞰的に見れる。冷静に見つめ直して、違う視点で向き合って、思い悩むことが少なくなってきました」
――禅をはじめてみようと思った時、まず、どうすればいい?
「最初は、座禅会に行ったり、禅寺にいって学んでみるのがおすすめです。青山とか、都心にも座禅会をやっているところはあるし、仕事帰りのサラリーマンが来ています」
「ちなみに、私は都内世田谷区にある野沢龍雲寺さんに通っています。若くても気軽にいけて、お話も楽しいし入りやすい。自分に合うところに行くべきで、もったいない思いをしないためにも、色んなところに出向いて続けていくことが必要だと思います」
――VRソフトなど、若い世代ならではの発想ですね。
「鎌倉の建長寺で開かれた『Zen 2.0』という日本の禅の心を発信するカンファレンスでは、禅をテーマにした絵本を作る人がいたり、ヨガイベントが行われたりしていて。日本だけではなくて海外からも注目されている禅について、これからも色んな視点から学んでいきたいです」
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