「コンクリートでつくったカヌーで全長600mのレースをします」…目を疑うようなプレスリリースを受け取ったのは、9月下旬にさしかかった頃、関東学院大学(横浜市)が主催する「エコ・コンクリートカヌーコンペ」のお知らせでした。コンクリート製のカヌーって本当に浮かぶの…? そして誰が何のために…? 実際に見に行ってみました。
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秋晴れの9月29日のお昼時、関東学院大学の横浜・金沢八景キャンパスを訪ねました。海が近いため、ほんのり潮風の香りがします。正門に着くといきなりカヌーが待ち構えていました。
確かにコンクリートです。特にカヌーのへりは内側の金網もむき出しで、触ると痛そう。人が乗る中央部分のへりには発泡スチロールの緩衝材がかぶせられています。想像以上の重厚感…どうしてこのイベントを始めたのでしょうか。
カヌーのへり。「ラス網」という金属の網が型枠に使われている
「エコ・コンクリートカヌーコンペ」の推進責任者である、建築・環境学部の渡部洋准教授によると、学生にものづくりに興味を持ってもらおうと、海外のイベントを参考に1976年に始まったそうです。今年で41回目。3人以上乗れるカヌーをつくることが参加条件で、建築にかかわる学生を中心に今年は11組がエントリーしました。
カヌーの制作期間は、夏休みを使って2カ月ほどだそうです。「エコ」というのは、カヌーの型枠に廃材の段ボールを使っていることに由来します。「ラス網」と呼ばれる金属の網で補強し、繰り返しコンクリートを塗りつけて製作します。
レースの舞台となるのはキャンパスの前を流れる侍従川。すでにいくつかのカヌーが川の脇に停泊しています。広報課の鈴木敦さんに聞くと、午前中の準備段階でうまく浮かばなかったカヌーもあったといいます…本当にレースができるのでしょうか…。
よく見るとカヌーの両端には、輪のように巻かれた鉄線がついています。鈴木さんによると、
「沈んだときにロープを結んで引き揚げられるためと、その際に場所を特定するための浮きをつけるためです」。
既に「沈む」ことが前提になっていませんか…? だんだん不安になってきました。
レースの時間が迫り、乗船する学生たちが集まってきます。見下ろすと、既に浸水しているカヌーもちらほら。乗る前にボウルで水をかき出しています。
慣れないカヌーで乗船にも一苦労。バランスをとるのが難しいのか、なかなか漕ぎだせません。スタートラインに到達する前に転覆してしまうチームも現れました。
転覆すると実行委員会が集まってきて、速やかに引き揚げ作業が始まります。救助用にゴムボートも巡回しており、アフターケアがとにかく手厚いです。
転覆したカヌーの引き揚げ作業。学生が力を合わせて引き揚げます
カヌーを進行方向に向けて、スタートラインに並ぶだけでも10分近くかかりました。「そっちじゃない!」「もうちょっと下がって!」「揺れる揺れる!」と声を掛け合う光景は、競馬でなかなかゲートに入らない馬を見ているようです。ムズムズ感がたまりません。
いざスタートしてみると、あれ!? カヌー同士でぶつかりそうになったり、思った方向に進めなかったりするのですが、意外と浮いています!
中にはカヌー内に入ってきた水をかき出しながら進むチームもあったのですが、広報の鈴木さんも「今年はすごいです」とびっくり。年によっては、転覆してしまうチームが続出することもあるそうです。
とはいえ川沿いに土手を徒歩で追えるほど、スピードはめちゃくちゃ遅いです。記録がタイムアウトになる30分を超えてしまうチームもありましたが、ゴールまでたどり着くと、見守っていた人たちから拍手が上がりました。
学生の応援の声に、通りがかった地域の方も足を止めて観戦。取材する前は本当に浮かぶのかが気になっていた記者でしたが、気付いたときには夢中になって「頑張ってください!」と声をかけていました。
11チームの頂点に立ったのは、建築・環境学部2年生の友人同士で集まったチーム。予選では他チームが進行方向を向いてオールを漕ぐ中、後ろ向きでやたら細いカヌーを乗りこなす猛者たちでした。
8人ほどで製作をして、乗船したのは同大学の塚田秀朗さん(19)、高桑健さん(20)、小林公宗さん(20)の3人。実は昨年も優勝したチームで、「優勝するために準備してきました」という気合の入りようです。
関東学院大学の優勝チーム。左から塚田さん、高桑さん、小林さん
優勝インタビューが悲しい空気に包まれましたが、広報の鈴木さんによると賞金は職員のカンパでまかなっているそうで「後で集めてきます」とのこと。学生たちに幸あらんことを…。
推進責任者の渡部准教授はイベントについて「授業で聞くだけではなく、実際にコンクリートに触って性質を知って欲しいです。コンクリートを塗りつけた後もこまめに散水するなど、手をかけた分だけコンクリートは硬く頑丈になります。自分たちが乗るカヌーをつくることで、素材の性質や強度の重要さを自分事として感じてもらえれば」と話しています。