では、スピーチをはじめます。
今日は自分を元気にするための「言葉の盛り方」です。
若かった頃、関西の広告業界では名の知れた名物宣伝部長のいる得意先を担当しました。
きっと怖い人にちがいない。
緊張して臨んだのですが、出てきたのは思いっきり関西のおっちゃん。
名刺を交換した瞬間に、「うちの娘の夫にならんか? わし似やけどな」とかまされました。
広告のコピーを持っていっても、いつもニコニコ。
一度では決めてくれないのですが、必ず前作に比べて、
「うん、ええなぁ。どんどんよくなるなぁ」「なるほど、だんだんようなってきた」と言ってくれる。
それが嬉しくて、その夜もまた書き、思いついたらまた書き、枕元のメモ帳を置いてさらに書き。
見てもらって、褒めてもらいたくてしょうがない。
ある時、そんな私を見て、先輩が「お前も術中にハマったなぁ」と言ったのでした。
気がつけば、結局は「ええなぁ」と言われるばかり。
一つも決めてくれてない。先輩の話では、「だんだん良くなる」と言われる時は、さして気に入ってない。
「どんどん良くなる」は、いいところまでいってる時のサインとか。
そう言われてみれば、「だんだん」と「どんどん」を巧みに使い分けているようでした。
「もう騙されるか!」と思っても、「だんだん」が「どんどん」に昇格すると嬉しくなる。
「うん、これでいこか」と決めてくれた時は、神仏に手を合わせる心境になりました。
「やり直し」でも「再プレゼン」でもなく、「だんだん」「どんどん」と言葉を盛ることで、こちらのやる気を引き出す。
いつのまにか、1000に近いコピーを書いている。なのに楽しい。
これが名宣伝部長の正体でした。
この時の快感が忘れられず、私は自分の才能の無さに呆れ、天を仰いで号泣したい時でも「だんだん良くなっている」「どんどんいい方向に向かっている」と自分に甘いムチを振るっています。
「だんだん、どんどん言葉を盛る」
今日、ちょい知恵をお試しあれ。
ご清聴、ありがとうございました。