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「観光業はモロいから…」グアムの局長、北朝鮮ミサイルへの「本音」

米領グアムのタモン湾を訪れた観光客=2017年8月11日、ロイター
米領グアムのタモン湾を訪れた観光客=2017年8月11日、ロイター

目次

 北朝鮮から周辺の海への弾道ミサイル発射を予告されたアメリカ領のグアム。日本人にもなじみ深い観光地はいきなり、安全保障の舞台となった。世界のメディアが現地に押し寄せるなか、トランプ米大統領は「金をかけずに観光客が10倍になる」とグアム側に伝えたという。グアム観光局のトップが東京で会見を開くというので、本当に「10倍になるか」のファクトチェック(真偽検証)に向かった。(朝日新聞国際報道部・野上英文)

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グアム観光局長が東京に飛んできた理由

 盆休み明けの2017年8月21日。グアム観光局長の会見が午前11時半から、東京都千代田区の日本記者クラブであった。

 20分前に会場入りすると、テレビカメラがずらっと並んでいた。国内のテレビや新聞を中心に24社が集まっている。関心の高さがうかがえた。

グアム観光局長の会見には多くの日本の報道陣が詰めかけた=2017年8月21日、東京都千代田区、いずれも野上英文撮影
グアム観光局長の会見には多くの日本の報道陣が詰めかけた=2017年8月21日、東京都千代田区、いずれも野上英文撮影

 観光局長は、記者と向き合うかたちで会見席に座った。

 グアム生まれのジョン・ネイサン・デナイトさん。40歳。2年半前に局長に就任した。水色のネクタイが涼しい。

グアムのデナイト観光局長は来日して会見を開いた=2017年8月21日、東京都千代田区
グアムのデナイト観光局長は来日して会見を開いた=2017年8月21日、東京都千代田区

 デナイト局長はまず、用意した声明を英語で読み上げた。

 「日本の皆さまには、グアムは安全であることをお伝えしたい。警戒レベルは引き上げられていませんし、普段通りの生活が営まれています」

 東京に来て伝えたかったメッセージは、これに尽きるだろう。

 グアムの主要産業は観光だ。ビジネス収入の6割を占め、働き手の30%以上が観光に関わる。

 日本からの直行便が就航した1967年、グアムへの全渡航者4500人のうち、日本からはわずか922人だった。それから50年。グアムには昨年、過去最高の約153万人が訪れ、うち半数が日本からで最多だった。

年間153万人が訪れるグアム。会見場には青い海の魅力を伝える大きなポスターが掲示されていた=2017年8月21日、東京都千代田区
年間153万人が訪れるグアム。会見場には青い海の魅力を伝える大きなポスターが掲示されていた=2017年8月21日、東京都千代田区

 「3.5時間で、楽ちんリゾート Guam」

 会見席の両サイドにあったポスターには、そんなキャッチフレーズがあった。

 アクセスの良さもあり、日本からは投資も多い。

 「グアムにとって日本は一番大事な相手。だから私は、こうして今日きました」と、デナイト局長は説明した。

日本がナンバーワンの顧客と会見で語るグアムのデナイト観光局長(右)=2017年8月21日、東京都千代田区
日本がナンバーワンの顧客と会見で語るグアムのデナイト観光局長(右)=2017年8月21日、東京都千代田区

ミサイル着弾の確率は「0.000001%」

 グアム観光への影響はどの程度か? 

 ミサイル発射計画に揺れた8月1日~15日、グアムへの訪問者数は、前年の同じ時期に比べて3%増えた。つまり、夏旅行のキャンセルは、ほとんどなかった。

 「短期的な影響は出ていない」。デナイト局長は、こう胸を張った。

「短期的な影響は出ていない」と話すグアムのデナイト観光局長=2017年8月21日、東京都千代田区
「短期的な影響は出ていない」と話すグアムのデナイト観光局長=2017年8月21日、東京都千代田区

 さらに、アメリカ軍による守りは万全だとも強調。ミサイル着弾の可能性を「0.000001%」と伝えられている、とも打ち明けた。

 0.000001%ーー。

 会見後に私を含む数人の記者が「えーっと、コンマの後のゼロの数が、いくつでしたっけ?」と念押ししないといけないほど、聞いたことがないレベルの低い確率を持ち出した。ちなみに「小数点以下のゼロは5つ」が正解だ。

グアムへのミサイル着弾の確率は「0.000001%」と説明。記者たちは会見後にゼロの数を確認した=2017年8月21日、東京都千代田区
グアムへのミサイル着弾の確率は「0.000001%」と説明。記者たちは会見後にゼロの数を確認した=2017年8月21日、東京都千代田区

 目の前の不安を打ち消す一方で、「長期的な影響を心配している。観光業は、モロいから」とも打ち明けた。

 この夏、ミサイルを気にしつつも、グアム旅行を決行した人も多いはずだ。そんな人たちが今後、旅先としてグアムを避けないか、と心配していた。

「観光はフラジャイル(もろい)」。グアムのデナイト観光局長は長期的な影響を心配した=2017年8月21日、東京都千代田区
「観光はフラジャイル(もろい)」。グアムのデナイト観光局長は長期的な影響を心配した=2017年8月21日、東京都千代田区

トランプ米大統領の「観光10倍」は本当?

 記者との質疑に移ったので手を挙げた。

 「トランプ大統領が『世界中でグアムが話題になっている。金をかけずに観光客が10倍になる。おめでとう』と伝えてきたと、グアムの知事が明かしている。このブラックジョークをどう受け止めているか?」

 アメリカのトランプ大統領は、ミサイル発射予告から間もない2017年8月11日、グアムのカルボ知事との電話会談で、こう伝えたとされる。弾道ミサイル発射の挑発を受けているなか、不謹慎との批判も出た。

グアム島の政府庁舎で記者会見を開いたエディ・カルボ知事=2017年8月14日
グアム島の政府庁舎で記者会見を開いたエディ・カルボ知事=2017年8月14日 出典: ロイター

 デナイト局長は、このトランプ発言があったことを認めたうえで、こう話した。

 「グアムにはいま、欧米や中東、世界中から何百ものメディアが押し寄せている。ミサイル問題だけでなく、グアムがとても美しいという魅力も発信してくれている。アメリカ自身でさえ、グアムの美しさがあまり知られていなかった。今回、大々的に報道されたことで、世界中にグアムが知られるようになる。そんなポジティブな結果もある」

 そして「大統領は素晴らしいコメントをしてくれた」と、トランプ氏の発言をかばった。

トランプ大統領の発言について答えるグアムのデナイト観光局長=2017年8月21日、東京都千代田区
トランプ大統領の発言について答えるグアムのデナイト観光局長=2017年8月21日、東京都千代田区

 ただ、「訪問者数はここ数年で記録を塗り替えている。だから、『10倍』はちょっと難しいかな。ホテルの部屋数も限られているし」と、苦笑いをしてみせた。

 グアム・ホテル&レストラン協会加盟のホテル数は26館で、客室数は全部合わせても8237室。キャパ不足でトランプ発言の実現可能性は、打ち消された。ちなみに「トランプホテル」は、ハワイにはあるが、グアムにはない。

グアムのレストランで、北朝鮮のミサイル発射計画を伝えるテレビニュースを見る地元の住民ら=2017年8月14日、ロイター
グアムのレストランで、北朝鮮のミサイル発射計画を伝えるテレビニュースを見る地元の住民ら=2017年8月14日、ロイター 出典: ロイター

 北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長が「アメリカの様子をもう少し見守る」と発言したことで、アメリカとの対立は、ひとまず避けられている。ただ、21日からはアメリカと韓国の軍が演習を始めたため、再び緊張が高まるかもしれない。

 韓国からのグアム観光客は増えており、間もなく日本と肩を並べる。ただ、デナイト局長は、韓国で同じような会見を開く予定はない。その理由を「韓国はミサイルの驚異に慣れているが、日本とグアムは実質、初めてのことだから」と説明した。

 この日の会見で「10倍は難しいかな」と言ったときを除いて、デナイト局長はずっと硬い表情だった。グアム観光の長い歴史のなかで初めての大ピンチ。ミサイルは実際に飛んでこなくても、大きなダメージを負わされていると、私は感じた。

記者会見の後、テレビ局の個別取材を受けるグアムのデナイト観光局長(左)=2017年8月21日、東京都千代田区
記者会見の後、テレビ局の個別取材を受けるグアムのデナイト観光局長(左)=2017年8月21日、東京都千代田区

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