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没入感ハンパない!廃病院で体感、新感覚のイマーシブシアターが登場
客席と舞台が区別されている劇場ではなく、自分の足で歩き回って作品を体感――。「イマーシブ(没入型)シアター」と呼ばれる手法を用いたダンス公演が25日から、東京で開かれています。廃病院が舞台の作品は、ツイッター上ですでに「斬新で刺激的」「かなりヤバイ」といった感想が出ています。日本ではまだ上演が少ない新感覚の公演を、記者が「体感」。魅力や課題を報告します。(朝日新聞文化くらし報道部記者・安部美香子)
会場が廃病院とかだったらイヤだなあ、と思っていたらその通りだった。ダンスカンパニー「DAZZLE(ダズル)」が、都内の建物を借り切って上演中の新作「Touch the Dark(タッチ・ザ・ダーク)」。25日にあったマスコミ向け公開体験会に参加した。
病院で起きる出来事をめぐる物語で、観客は1公演につき55人に限定され、会場を自分の足で歩き回りながら展開を見守り、謎解きをする。2000年代にロンドンで始まった、「イマーシブ(没入型)シアター」と呼ばれる形式で、日本ではあまり上演された例がないという。
病院の受付を通り、廊下に座って開演を待っていると、白い服を着た「患者」が「看護師」に連れてこられ、無言のまま体を押さえつけて腰掛けさせられた。閉鎖病棟のような、抑圧的な雰囲気。休憩なしの90分間、耐えられるだろうか。
手渡された注意書きに従って観客たちは黒いマスクをつける。間もなくパフォーマンスが始まった。「院長」が廊下の端に現れ、「看護師」たちと共に切れのあるダンスを踊る。ダンサーたちにセリフはなく、館内放送のナレーションがセリフ代わりになる。
続いて観客は「看護師」の案内について数人ずつ移動し、あちこちで展開されるダンスを見る。次第にのみ込めてきたのは、この病院では不可解な出来事が続発し、それは院長の秘密に関係があるらしいことだ。
薄暗さ、気配、そして匂い。病院の古びた部屋や器具から立ち上る臨場感は圧倒的だ。ベッド、カーテン、手術台といった「装置」も効果的に使って、ダンサーたちは、幻想的な群舞から、激しい対決や苦闘、コミカルな場面までを演じ分けていく。
対する観客自身は、自分の身に何が起きるのかというドキドキが消えない。案内役の「看護師」は、無言で手招きするだけ。不意に手をつかまれて誘導されることもあり、驚きつつも身を任せるしかない感じは、冒頭で見た「患者」と同じだ。主導権は出演者側に握られている。
終盤で、観客が院内を自由に歩き回れる時間が設けられている。恐る恐る知らない部屋に入ったり、気になる出演者の後をついて歩いたり。自分の動き方次第で違う景色が見えてくるのは、新鮮な体験だった。
客席と舞台が明確に区別されている劇場と異なり、見る者・見られる者の関係が揺れ動くのが、「イマーシブシアター」のだいご味だろう。観客は不安定な立場を楽しみ、ダンサーたちも、間近で見る観客の反応を面白がっているように見えた。
一方で、古い病院という場の醸し出す雰囲気の強烈さが、ダンスの印象を上回ってしまった部分もあった。
ストリートダンスとコンテンポラリーダンスの融合を特色とする「DAZZLE」は、シャープな群舞に見どころが多かった。会場の空間が狭いために、持ち味を発揮し尽くせなかったのだろうか。
むしろこうした閉鎖的な空間では、速くてスタイリッシュな群舞よりも、緩慢でぞくっとさせる少人数の踊りの方が効果的なのかもしれない。
「タッチ・ザ・ダーク」制作の経緯について、「DAZZLE」クリエーティブディレクターで出演者でもある飯塚浩一郎さんに聞いた。
「イマーシブシアター」は「没入」という名前の通り、作品世界に入り込むことができる形式。日本で本格的に上演されるのは初めてではないでしょうか。
昨年「DAZZLE」は20周年を迎え、何か新しいことをやりたいと思っていた。ニューヨークやロンドンへ行き、ニューヨークで有名な「イマーシブシアター」の作品「Sleep no more」を見た時、「勝てる」と思ったんです。
勝てると思ったのは踊りと演出です。「Sleep no more」は「マクベス」をベースとした、アートな雰囲気の作品でした。ホテルで演じられ、空間の美しさを味わうような面もありました。
「DAZZLE」はこれまでにも物語性の高い、サスペンス的な作品やファンタジックな作品も取り組んできました。純粋に作品としての、パフォーマンスによる感動を味わってほしいと思います。
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