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作家が4人で同居? 渋谷で生まれた共同体の正体
渋谷に、クリエイターの集う「Cift」(シフト)という共同生活組織が生まれました。作家が4人で生活。投資家が入居者と起業家を結びつけるために飛び込む。渋谷のど真ん中で、新しい生き方を模索する人たちの話を聞きました。
4月、都営住宅「宮下町アパート」の跡地に東京急行電鉄などの事業体が作った地上16階、地下2階建ての複合施設「渋谷キャスト」。レストランや東急ストアなどの商業施設やシェアオフィスが入る中、13階の19部屋に住む約40人でシフトは構成されます。
入居者は1人で部屋を借りる者もいれば、4人程度でルームシェアする者たちも。職業も多彩で、アーティストやコンサルタントに加え、ベンチャーキャピタリストや木こり、ヒッピーも。
複数の仕事を持つ人も多く、40人の職業を合わせると100業種になるとか。世界中を飛び回って仕事をしている、いわゆる「多拠点居住」をする人たちの東京の拠点という使われ方をしています。
入居者は一般公募せず、全員、シフトのコンセプト作りから携わっている藤代健介さん(29)のお眼鏡にかなった人たち。藤代さんは元々、コンサル業務をしていて、東急電鉄と一緒に仕事をしていました。彼自身、シフトに加え、家族の住む逗子にも自宅があります。
「今までの共同体って、お金の問題とか、血縁、地縁の関係で、生まれてから死ぬまで土地に縛られて、そこの中でしか生きていけなかった」と藤代さん。
クリエイターとして活躍して1人でも生きていける人たちが、感性や価値観で結びついて、主体的にあえて共同体になる、という場を目指しているそうです。そのため、「シフト」という名前には、「時代をシフト(変化)させる」という意味が込められています。
シフトでの人間関係を、自身の仕事に結びつけたい、と考える入居者もいます。ベンチャーキャピタリストの杉浦元さん(46)は、シフトに住むクリエイターたちの多様性に着目。
社会に対してこれまでにないプロダクトを生み出すため、自身の仕事で接点のある企業経営者や社会起業家をシフトの入居者たちと結びつけ、「オープンイノベーションにつなげたい」と考えます。
作家の寺井暁子さん(34)は、小さい子どものいる女性、子どもの教材を作っている女性ら計4人で1部屋に住む考えです。
1カ月のうち1週間から10日程度、仕事の打ち合わせの場に使うことを想定。シフトで日常起きる事柄を何らかの媒体で発信していく仕事もやりたい、と考えています。
吉祥寺のシェアハウスと2拠点居住になりますが、夫は島根県で会社を経営していて実家に暮らしているため、世帯全体で家賃は吉祥寺の7万円程度と、渋谷のルームシェアの自己負担額5万円程度を足したくらい。
渋谷はその家賃で仕事場としても使えるため、都内で家族3人が同じくらいのスペースの場所を借りる金額と比べればプラスの部分が大きい、と考えています。
寺井さんが、さらなるメリットとして考えるのは、子育ての点。
「子どもを育てるには一つの『ムラ』が必要で、100人いたら100通りの人生の考え方がある、ということを自分で体感できる環境を整えてあげたい。子どもには血縁じゃない親戚を作ってあげたくて、たくさんの大人の背中を見せてあげたかった」
藤代さんも「シフトには赤ちゃんが必要」と大歓迎します。
人工知能をはじめとする最先端テクノロジーが次々と生まれる現代社会では、「もっともっと速く」と仕事をするのではなく、その分生活にゆとりを持ち、自分の子どもだけではなく、他人やその他人の子どものケアもできるようになることこそ「進化」だと考える藤代さん。シフトを、その具現化した空間にしたい考えです。
藤代さんは「本当はこんな場所で働きたくないけれど、辞めたら給料をもらえなくなるから抜けられない」という「仮面社員」と似た構図として、「仮面夫婦」の存在を挙げます。
「もう愛情はないけれど、子どもが独り立ちするまでは離婚できない」。そんな「仮面夫婦」がいるとするなら、シフトの共同体みんなで子育てをするようになれば「本当の意味で、夫婦というものに対して向き合うことができる」と話します。
もはや愛情がないのに、金銭面や子どもを理由に離婚できない。そんな状況を回避できることにつながる、というのが藤代さんの考えです。
ただ、新しい生き方に対しては、反論もありそうです。
藤代さんは「ある種のイデオロギーを持って主体的に集まるということに対して、そもそも、そういう生き方を考えたことがなかったから、理解できない、というのもあるだろうし、ねたみや自己矛盾も起きて、(批判的に)反応してしまうことはあるかもしれません」と分析します。
「ただ、価値観でつながっている共同体、という暮らし方をすることで、哲学的に問題を共有し合って信用し合える環境を持つ、ということが世界平和につながるよね、というくらいの高い志を持った上で、称賛にも批判にも強く耐えうるような人たちがシフトには集まっています」
シェアリングエコノミーや多拠点居住といった新しい生活の仕方がじわじわと話題になる現在。藤代さんは、同じような発想のシェアハウスを考えている事業体や行政と一緒に、シフトのコンセプトを広げていきたい、と考えているそうです。
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