連載
#18 AV出演強要問題
AV強要、元スカウトが認めた危うい手口 「ゆるやかな強要になる…」
AV業界では、その気がないのに出演に仕向ける作業がある。女性の意識が閉じていく様子の例えから「クロージング」と呼ばれる。その実態を生々しく語った元プロダクション経営者は「取られ方次第では、ゆるやかな強要になるのだろう」と自らの手口の危うさを一部認めた。(朝日新聞記者・高野真吾)
40代の男性は、スカウトとして多数の女性をAV業界につなげたほか、男優やマネジャー役、メーカーを立ち上げてのDVD販売や動画配信をした経験もある。数年前に業界を離れ、利害関係のない「客観的に話せる」立場にいる。
――女性に「考えさせない」手口は、出演強要につながる恐れがあるのではないでしょうか。
「確かにAV女優に当初は興味がなかった子にもやらせてきました。強要にならないように仕向けてきたつもりですが、結果からすると、やりたくないのにやらされたと女性が後悔していることはあるかもしれません。取られ方次第では、ゆるやかな強要になるのだろう」
――業界にいた時には、自分は後ろめたい行為をしているという認識はなかったのでしょうか。
「自分にとってAVは、社会の必要悪です。必要なんだけど認められない商売と考えています。後ろめたさは、(AV業界の)みんなもっていますよ。仕事だから、口説くんです」
――悩んだことは?
「20歳、21歳の時かな。罪の意識にさいなまれ、涙が止まらず、危ない時があった。プロダクション社長に、自分に負けないハートを持ちなさいと言われました。申し訳ないけど、AV業界にいるなら、非情にならないといけない」
――どうやって仕事を続けたんですか?
「その時は、ラブソングは聴かず、コメディーも見たくなければ、感動エピソードに耳をふさいでいた。(NHKのドキュメンタリー)『プロジェクトX』や(映画)『007』、イチローの番組を見て、プロに徹するようにしていた。恋愛はせず、土日も事務所で仕事をし、自分を追い込んでいました」
――AV女優は応募が大半だと言います。AV女優が全員応募になれば、望んでいないのにAVに出る、入り口のところでの出演強要はなくなるのではないでしょうか。
「応募してくる子の中で、まともに使えるのは2、3割です。僕が求人の面倒を見ていた時は、1カ月20~30人の応募がありました。そのうち、実際に面接にくるのは10人ぐらい。所属契約に至るのは6人ぐらい。(女優の魅力で1人で作品に出演でき、プロダクションにも多額の利益をもたらす)『単体女優』は年間1、2人出たらいいぐらい。だから、あまり求人はあてになりません」
――そうするとスカウトを完全に排除するのは難しいのでしょうか。
「できなくはないでしょうが、女の子の確保は難しくなりますね。また、出演に至る過程ではスカウトも求人も、そう変わらないというのが実情です。求人でも、しっかりとAV女優になることをうたわずに口説いているところが多いからです。手タレ、足タレと勘違いしてくる子を口説くのです」
――女性も面接に来る前に、プロダクションのHPをチェックすれば、AV女優のプロダクションだと分かるのではないでしょうか。
「分かっても問題はあります。私がいた大手プロダクションのサイトだと、『単体女優』だと100万円、『企画単体女優』(キカタン)だと50万円、『企画女優』だと10万円という説明になっていますが、実際はそんなにもらえません。女の子次第でギャラが変わるという業界ですが、来る女性は皆さん、その金額がもらえると思っている。誇大広告ですね」
――妊娠する可能性がある撮影のため、低用量のピル(経口避妊薬)を飲まされる事例もあります。
「今のAVはそういう(妊娠する可能性がある性行為をさせる)世界です。『単体女優』では別ですが、『キカタン』ではよくある。女性がピルを飲んでいるとありがたいという感じです。飲んでないなら、後ピル(性交後避妊薬)をさせます。AVはいくところまでいってしまっている」
――AV出演強要問題について訴えてきた、国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」(HRN)は、撮影での「本番の性交渉をしない」ことを要請しています。
「AV業界が立ち上がったころは、本番はなかった。ところが、みんな演技ができず、女の子が出演を続けられなかった。本番を始めてからある程度、女の子が定着しました」
――本番行為が禁止されるとどうなる?
「本番が禁止になったら、難しい演技をする必要が出て、ますます、やりたい女の子だけの世界になる。でも、それでいいと思いますよ。今のAVだと過激すぎて、ユーザーが引いちゃっている作品も多いです。業界がブランディングを考える機会になる」
――女優のギャラも下がりますか?
「マーケットは縮小しますね。ギャラは今でも、AVをやっている意味があるのかという低いレベルですが、もっと下がるでしょう」
――業界サイドからは規制を強めることによる弊害として、地下に潜る、無修正などの違法なビデオが増えるとの指摘を聞きます。
「そうなるでしょうね。AVにいる人間というのは、もうAVしかできない。プロダクションに男性の新人マネジャー候補が来る時も、他に選択肢があるならそこに行きなさいと言います。自分もある意味、ドロップアウトしています。この世界に潜るというのが、AV業界っぽい表現かな」
――AV業界はどうすれば、強要被害を根絶できると考えますか。
「コンプライアンス重視や(AVメーカーなどでつくる)IPPA(知的財産振興協会)の指導の徹底などの声を聞きますが、そこだとは思えません。ネット上で、無料でアップされているAVを根絶する。そうすれば、AVが売れ、お金が入ってきます。もともとお金しかない世界だから、お金で色々と解決できます」
――無料動画以外の対策は?
「DVDの値段も安過ぎます。そして、AVへの規制の厳しさが、無修正動画を撮る連中の無法地帯を呼び込んでいます。そっちこそ警察は捕まえてほしい。業界にブランディングの考え方がないのも問題です」
――AVメーカーの改善点は?
「AVメーカーのモデル面接が雑過ぎます。せめて女の子に交通費をあげて欲しい。芸能だったら交通費なしでも分かります。夢ある仕事だから。AVは裸になるのだから、違うはずです。撮影現場でも、たったこんだけという低いギャラで、女の子に夜遅くまで出演させています。女の子が使い捨てられている感覚になり、次の現場まで持たなくて、やめていっています」
――支援者団体にはお金で解決できるという認識はありません。出演強要の被害者は出演料を返しても、DVDの流通、動画配信を止めて欲しいと言っていると聞きます。
「先ほども言ったように、僕はAVを必要悪だと考えています。人を不幸せにしちゃうのを、なるべくしないように努力するというのが、答えなんじゃないかな」
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