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SKY-HI「観客5人」から武道館 日高光啓が乗り越えた「挫折の日々」
5月に武道館公演を成功させたラッパー、SKY-HI。当初は「渋谷で観客5人」というスタートでした。最新曲では「国民総クレーマー化」を歌うなど、社会派な歌詞が目立ちます。ダンスパフォーマンスグループAAA(トリプルエー)のメンバーでありながら、ソロ活動のSKY-HIとしても実績を積み上げてきた日高光啓さん。その軌跡は「挫折の繰り返しだった」と明かします。(音楽コンシェルジュ・ふくりゅう)
――SKY-HIとして初武道館公演(2017年5月2日、3日)をやり終えていかがでしたか?
去年、のどの手術をしたこともあり、必要以上のプレッシャーを背負っていました。でも、ステージに立ったら自分の器と武道館が見合っているなと感じることができて。そこからは、どれだけ自分をさらけ出せるかを大事にしました。感慨深さはなくて、最終的にはナチュラルなテンションで武道館が自分の家のように楽しめました。
――楽しさの方が伝わってきましたね。
ただの記念ライブになったらおしまいですから、そんな意味で、自分の器が試される日になると思っていました。自分と、一緒にステージに上がっているバンド、スーパーフライヤーズ。築き上げてきた関係に自信があったから、堂々とやりきることができました。2日間やったのも良かったなと思います。2日続けてなのに、2日目の方が疲れてなかったから。
――武道館でも披露されてましたが、新曲「Silly Game」は〝国民総クレーマー化〝問題など、社会とリンクする歌詞に驚かされました。
社会派ソングの原体験はMr.Childrenでした。小4の時に「everybody goes ~秩序のない現代にドロップキック~」を好きになって。小学生の時にすごい響いたんですよ。いわゆるラブソングみたいなのは一切響かなかったから。ガキだったから当たり前かもしれないんだけど(笑)。
――比喩が絶妙な歌詞の魅力にもひかれました。
歌詞のテーマは、今の時代って誰もがツッコミ待ちみたいなご時世じゃないですか? 〝国民総クレーマー化〝的な問題というか。それを書かずにはいられなかったんです。いまニュースを騒がせている諸問題からの影響がテーマとなりました。ワイドショーとかでたたかれている人にフィールすることが多すぎて。
――サウンド自体はキャッチーですが、読み解いていくと攻めている歌詞ですよね。
こういった歌詞って、義務感や使命感から書くと説教くさくなるんですけど、今回、十分すぎるくらい能動的に出てきた言葉たちなんです。早く届けたい、リリースしたいっていう気持ちが強いですね。
――エンターテインメントの世界においては、ネットやスマホの浸透もあり個人の趣味嗜好(しこう)が細分化している時代だと思います。誰もが知るヒット曲も生まれづらい時代となりました。アーティストがよりどころにする指標ってどんなポイントだと思いますか?
それは簡単で、ライブで感じる最後の気持ちかな。最後に何をお客さんに渡して、どういう感情を持って帰ってもらうかがゴール。そこにたどりつくためだったら、なんでも許されるって感じかな。
――シンプルでわかりやすいですね。
逆に思うこともあって。昔の方が1曲当たったら、いくつも同じ曲調を求められる風潮があった気がするんですね。なので、単曲のビッグヒットは無くなってきたけど、リリースのペースさえ落とさなければ、いろんな楽曲に挑戦できる時代だなと思っていて。
海外のヒップホップ・シーンに顕著ですけど、楽曲をセレクトしたプレイリストや、ミックステープ時代に入ったことで変わりつつありますよね。でも、そんな中でも俺は、コンセプトを大事にアルバム作品自体の構成力でまとめていきたいなと思っています。
アルバムでストーリーとして伝えたいレトリック(※修辞法、自分の主張をわかりやすく伝える技術)って、以前なら解説する場がなかったと思うんですけど。今はネットインタビューも多いから伝えやすいかなって。
自分に興味ある人がキャッチしてくれる情報をいっぱい出せるから、やりようがあるんですよ。アルバムを通じて、渡すメッセージと渡すべき感情が伝わったら、それもまた正解かな。
――そもそも伝えたい言いたいメッセージや感情があるから、ラップという手段を選んだのですか?
卵が先か鶏が先かって話だよね。俺に限らず音楽やっている人って、音楽を趣味にすることを選ぶ選択の瞬間って必ずあると思うんですよ。俺にもそんな時がありました。音楽を作ることは趣味にして、仕事は仕事で別でやるって選択肢もあったわけで。もちろん、そういう人は多いですし。実際、そういう人の音楽の方が振り切れていて良かったりもするんですよ。
――はたから見ているとAAAとして東京ドームでのライブを成功し、ソロとしても武道館公演を成功させているスター性あるSKY-HIなのですが、これまで挫折、諦めた経験ってあるんですか?
ありますよ。小学生の頃から、サッカーを本気でやってたんです。けっこう頑張っていたんだけど、だんだんと気づくんですよ。限界に。と、同時に目もだんだん悪くなって。目はね、先日ようやくレーシックをして。なので武道館では客席がよーく見えてましたけどね。
――サッカーを諦めた瞬間は挫折を感じましたか?
いや、でもね。挫折の繰り返しの人生なんですよ。諦めた当日や翌日は泣いていたかもしれないけど、でも、挫折で終わらせるのはもったいないじゃないですか? それが嫌だったから、その後は、違うものに好奇心を広げようって気持ちになって、その矛先が音楽だったんです。
――ネガティブをポジティブに変えるパワーって、SKY-HIが作品で伝えようとしているテーマにもつながりますね。
それこそ〝もったいないじゃん〝って思う気持ち。そんな思いが積み重なっているうちに、自分の人生観念が育っていったんでしょうね。
――それら壁を乗り越えていくモチベーションとは?
傷つけられると、嫌な気持ちになりますよね? 本当に嫌な気持ちを知っているからこそ、人を傷つけたくないんですよ。でも、この10年の経験上どんな状況でも、音楽を作り続けることができることはわかっているから。
俺が音楽をやめることで喜ぶ人しかいないんだったらやめるけど、待ってくれている人がいっぱいいるからね。モチベーションってものがあるとしたら、それかな。関わる人を傷つかせたく無いんです。
――ライブで武道館公演は通過点とおっしゃられていましたが、SKY-HIとして次なる目標は?
たくさんありますね。でもとりあえず、海外に行かなきゃいけないと思っていて。海外ツアーをやります。俺が武道館に受け入れてもらえたのって、経験の積み重ねだったから。最初は、渋谷で5人しかお客さんがいなかったのが、2年くらいやると20人くらいになるんですけど(苦笑)。そんなでも、やり続ければ新宿BRAZEで500人とか、ZEPP TOKYOで1000人、武道館で1万人とか増えていくわけで。
――コミュニケーションできるフィールドを広げていくわけですね。
世界的に売れるエンターテイナーになるには、日本で有名になってからじゃ遅すぎるかなって。今行かないと、ラスト・タイミングだと思っていて。行かないとはじまらないからね。
日本はガラパゴス化しているから。逆にいうと不思議ですよね。BABYMETALくらい海外で有名になっても、日本だと紅白歌合戦に呼ばれないんですよ。そんなギャップ。でも一歩一歩進まないとね。なんか情勢的にも今がギリギリのタイミングなのはおぼしめしだと思うんですよ。
――新たなコミュニケーションが生まれそうですね。
音楽ってすごい力を持っているんですよ。ボブ・マーリーが戦争を止めたりしているわけですから。あんまり、絵空事だと思わないんですよ。言葉がデカすぎて難しく感じるかもしれないけど。
でも、対立する国のトップが2人とも好きなミュージシャンが同じだったら、戦争なんて起こらないかもしれないじゃない? 夢見がちと言われてもいいんです。意外とね、大それたことじゃ無いと思うんですよ。
――最後の質問です。お客さんを背負えることができると思ったのはいつ頃からですか?
最初のSKY-HIのツアーの時に、はじめて自分の音楽を聴いてくれる人の顔をたくさんみることになったんです。ツアーで各地を回ったことで、その人の人生の後ろ側を感じたんですよ。時間とお金をかけて会場に来てくれた。
当然だけど、俺の知らないところで、会社に行ったり学校へ行ったりバイトしたりお小遣い貯めたりお給料貯めたり。いろんな努力して、お金と時間を使ってライブに来てくれて、そして日常に帰っていくんだなと思うと、俺は責任を持って向き合わなきゃって思ったんです。
だから自信を持ってそうしているというか、責任持ってやっています。これもまたコミュニケーションなんだと思っていますね。