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お金と仕事

化粧品の空き瓶…すり替わる前に「再生」中国での偽物対策が新事業に

回収した空き瓶を材料に開発されたコスメティックボックス
回収した空き瓶を材料に開発されたコスメティックボックス 出典: 「クロスボーダーエイジ」提供

目次

 中国では、高級ブランドの化粧品の空き瓶が売買され、偽物ビジネスに悪用されるケースが少なくありません。空き瓶は1個数十円から、時に千円以上で取引されることも。日本の化粧品メーカーも困っています。空き瓶をうまくリサイクルすることで、偽物化粧品をなくしてしまおう。そんなビジネスに動き出している起業家がいます。

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「クロスボーダーエイジ」の春山社長
「クロスボーダーエイジ」の春山社長 出典: 本人提供

「悪用ビジネス」をチャンスに変える

 硬質プラスチックでできた化粧品の瓶。この瓶のリサイクル事業にチャンスを見いだしているのは、「クロスボーダーエイジ」社長の春山祥一さん(50)です。

 中国のネット通販サイトには、中国に正規輸入されていない日本ブランドの化粧品が数多く販売されています。日本への旅行者が「爆買い」したり、個人が輸入したりしたものです。さらに、その化粧品の空き瓶がたくさん売りに出されているのです。

 空き瓶は、1個数元(1元は16~17円)のものから、高級ブランドになると数十元。これらは、中身を詰め替えた偽物として流通していると言われています。今年2月には浙江省で空き瓶を悪用した業者が摘発され、8億元(約130億円)におよぶ偽ブランド化粧品が押収され話題になりました。

中国の通販サイトで、数元(数十円)から数十元(数百円)で販売されている化粧品の空き瓶。日本の化粧品ブランド「雪肌粋」の空き瓶の値札は40元(約700円)。
中国の通販サイトで、数元(数十円)から数十元(数百円)で販売されている化粧品の空き瓶。日本の化粧品ブランド「雪肌粋」の空き瓶の値札は40元(約700円)。
出典:タオバオ閑魚サイト

 空き瓶がネットに出回らないように、春山さんは、中国の消費者から直接回収しようとしています。効率よく回収するために空き瓶を持ってきてくれた人に、抽選で日本旅行が当たるという特典を考えつきました。

 さらに、何回も持ち込んでくれる人には、何かプレゼントをあげられない か……。この思いが、集めたプラスチック瓶の有効活用と結びつきます。

  中華圏やアジアの女性の多くは、家庭に鏡台などの化粧品を収納するスペー スを持っていません。そのため、化粧品を置く場所がなく、散らかってしまう のが悩みでした。

 春山さんは、そこに目をつけました。京都工芸繊維大学を卒業したばかりの 若者が起業したデザイン専門のベンチャー企業と共同で、回収した空き瓶のリサイクル品として、新しいコスメティックボックスを開発しました。

鮮やかな赤の化粧台に変身するコスメティックボックス
鮮やかな赤の化粧台に変身するコスメティックボックス 出典: 「クロスボーダーエイジ」提供

 回収の方は、台湾の大学と組んで、年内にも実験を始める予定です。空き瓶を悪用した偽物対策だけでなく、廃棄プラスチックのリサイクルは日本の化粧品メーカーにとって悩みのタネ。春山さんは 「メーカーから、現地での瓶の回収・リサイクルを受託すれば中華圏(中国大陸・台湾・香港)で年数億円規模のビジネスとして継続できます。さらに商品を実際に使った数十・数百万人の消費者とのネットワークができます。これが大きな価値を生み出すはずです」と見込んでいます。

  いずれは、このシステムを、ほかのアジア諸国にも広げたい。そして、瓶を持ってきてくれた人、実際に日本商品を使ってくれる人とのつながりを、販売促進に生かせないか。そんな構想を描いています。

折りたたむと、縦型のコスメティックボックスに
折りたたむと、縦型のコスメティックボックスに 出典: 「クロスボーダーエイジ」提供

日本語を学ぶ中国の若者たち

 経済的な結びつきが強くなった日中両国。消費者主導で人と物の交流が活発になった両国の間に生まれたクロスボーダー消費市場という「隙間」にビジネスチャンスをさぐる春山さん。

 今、並行して力を入れているのが翻訳業務です。中国でのビジネスに役立つ現地ニュースを大量に翻訳し、日本企業に提供しています。

  翻訳しているのは、日本語学科の中国人学生です。

 実は中国には、日本語専攻コースがある大学・専門学校400校以上あり、毎年、数千人の学生が日本語検定1級に合格しています。しかし、せっかく日本語を身につけても、地域や出身校により留学のチャンスに恵まれず、また卒業後に日本とは関係ないところに就職する人が多く、語学力をいかす機会がありませんでした。

 翻訳ビジネスでは、全土から登録している100人超の学生たちが記事を翻訳します。それを中国に滞在中の日本人留学生約20人が点検します。

  日本企業は、手頃な値段で現地の生の情報を手に入れることができます。学生たちは翻訳の技術を磨き、アルバイト代ももらえます。

春山さんの新会社に入社予定の学生3人。生まれて初めての日本ですが、堪能な日本を話す。
春山さんの新会社に入社予定の学生3人。生まれて初めての日本ですが、堪能な日本を話す。 出典: 春山社長提供

「クロスボーダー…」社名に込めた思い

 大分生まれ宮崎育ちの春山さんは一橋大学を卒業後、1990年に日本興業銀行に入りました。 金融商品の販売や融資の営業などを担当し2002年に転職、ITベンチャーなどで事業開発を手がけてきました。2017年4月に、社内ベンチャー制度を利用して独立にこぎつけました。

 新しい会社は「クロスボーダーエイジ」。社名について春山さんは 「クロスボーダー(越境)消費市場では、消費者主導でメーカーが関与しづらいため、日本と同様な消費者との信頼構築がしづらい部分が多かった」。また、「せっかく日本から買って持ち帰った商品は使うシーンも美しく、最後まで使い切ってもらえるといいですね。だから日本が得意な収納美というコンセプトを大事にし、化粧品のつぎは市販医薬品の薬箱、そしてベビー用品や介護用品の箱などもリサイクル品として開発していきたい」と話します。

 政府間の日中関係は緊張をはらみがちですが、民間レベルの結びつきは切っても切れない関係になっています。

 そんな両国の間でビジネスを展開する春山さん。「命と暮らしに関わる日本の商品が高く評価され愛用されている。日本語を一生懸命に勉強する学生たちも大勢いる。すてきなことです。この良い感じを大事にしたい」。そう話していました。

春山さんの新会社では、日中双方の企業から消費文化のモニタリングなどを受託し、日本語高度人材の就労と育成の場をつくろうとしている。この3月には、秋から入社の学生も来日し、全員で大都市だけでなく、南三陸町も訪れ、環境施策・地域観光などを学んだ。
春山さんの新会社では、日中双方の企業から消費文化のモニタリングなどを受託し、日本語高度人材の就労と育成の場をつくろうとしている。この3月には、秋から入社の学生も来日し、全員で大都市だけでなく、南三陸町も訪れ、環境施策・地域観光などを学んだ。 出典: 春山社長提供

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