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連載

#2 現場から考える安保

政府がひた隠しする「米艦防護」 実施しても「説明は不要」のワケ

米補給艦を守りながら航行した海上自衛隊の護衛艦「いずも」=1日、神奈川県横須賀市沖
米補給艦を守りながら航行した海上自衛隊の護衛艦「いずも」=1日、神奈川県横須賀市沖 出典: 朝日新聞

目次

 この大型連休中、太平洋で自衛隊の艦船が米軍の艦船を守る任務「米艦防護」が行われました。昨年施行された安全保障関連法に基づく、初めての実施です。「専守防衛」の自衛隊にとって歴史的な出来事ですが、政府はいちいち公表すべきでないと説明を拒みます。どうしてでしょうか。

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現場から考える安保
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稲田防衛相の命令で2隻派遣

米艦防護の発令を受け、房総半島沖を航行する海上自衛隊の護衛艦「いずも」。後方は米海軍の補給艦=1日午後、朝日新聞社ヘリから
米艦防護の発令を受け、房総半島沖を航行する海上自衛隊の護衛艦「いずも」。後方は米海軍の補給艦=1日午後、朝日新聞社ヘリから 出典: 朝日新聞

 5月1~3日、房総半島沖から太平洋側を西に進み、南西諸島の東まで航行する米海軍補給艦「リチャード・E・バード」。この艦船を守るということで、海上自衛隊の護衛艦「いずも」「さざなみ」の2隻がともに航行しました。安保関連法の新任務である米艦防護で、稲田朋美防衛相が発令しました。

 もしこの米補給艦が襲われたら、近くにいる海自護衛艦2隻が武器を使って守る――。今回は実際にそういうことは起こりませんでしたが、今後様々な場面で米艦防護が常態化する可能性があります。

 ところが、9日に参院予算委員会で野党議員から質問が出ると、稲田防衛相は「実施の逐一についてはお答えすることは差し控えさせていただきます」。任務を発令したことすら認めませんでした。

稲田朋美防衛相。今回、安全保障関連法に基づく「米艦防護」の命令を初めて出した
稲田朋美防衛相。今回、安全保障関連法に基づく「米艦防護」の命令を初めて出した 出典: 朝日新聞

自衛隊にとってニーズは高い

 実は、米海軍と緊密に連携してきた海自にとって、米艦防護に備えるニーズは高いものです。

 日本の危機に米海軍が来援できるよう太平洋の海路を守るシーレーン防衛は、ソ連が敵国だった冷戦期から海自の役割です。中国の海洋進出や北朝鮮の軍備増強もあり、海自は米海軍と共同訓練を積み重ねてきました。「navy to navy」で同盟を支えてきたという自負は強いのです。

米海軍、インド海軍と共同訓練する海上自衛隊=2014年、長崎県佐世保市
米海軍、インド海軍と共同訓練する海上自衛隊=2014年、長崎県佐世保市 出典: 朝日新聞

 一方で海自には悩みがありました。ともに活動する米艦が急に襲われた時に対応する法的根拠があいまいだったことです。ある幹部は「何もしなければ米国の信頼を失う。後で処分を受けても守る覚悟だった」と話しています。

 2001年の米同時多発テロを受けて米空母が横須賀を出港する際、海自護衛艦は防衛庁設置法の「所掌事務の遂行に必要な調査及び研究」を根拠に事実上の護衛をし、強引だと批判されました。海自にすれば、法律がやっと現実に追いついたと言えます。

米同時多発テロを受けて横須賀基地を出港した米空母キティホーク(手前)。海上自衛隊の護衛艦「あまぎり」(後方奥)が事実上の護衛をした=2001年9月21日、浦賀水道で、海自ヘリから
米同時多発テロを受けて横須賀基地を出港した米空母キティホーク(手前)。海上自衛隊の護衛艦「あまぎり」(後方奥)が事実上の護衛をした=2001年9月21日、浦賀水道で、海自ヘリから 出典: 朝日新聞

実は「集団的自衛権」とは別扱い

 安保関連法というと「集団的自衛権の行使だ」と思うかもしれませんが、実は今回のような平時の米艦防護は別扱いになっています。その根拠は、自衛隊法95条の「武器等防護」。

 自衛官はもともと艦船を含む自衛隊の「武器等」を守るため、現場の判断で武器を使えます。安保関連法では「自衛隊と連携して我が国の防衛に資する活動」をする米軍などに対象範囲を広げ、先方の要請を受けて防衛相が必要だと判断すれば、現場に任務を与えられるようにしたのです。

 一方、法案審議で焦点となった「我が国と密接な関係にある他国」を守る集団的自衛権の行使は、憲法9条との関係で限定的に認められるという位置づけです。そのため、首相が議長の国家安全保障会議(NSC)で審議され、閣議決定や国会承認も必要になります。

 平時の米艦防護ではそうした手続きが不要で、海自は動きやすくなっています。防衛相の命令を得ておけば、「これまで自衛隊の艦船同士で守る訓練をしてきたが、相手が米艦に変わるだけ」(海自関係者)という感覚で対応できます。

国家安全保障会議・四大臣会合の様子(内閣広報室撮影)
国家安全保障会議・四大臣会合の様子(内閣広報室撮影) 出典: 2014年版防衛白書

いきなり交戦する危険は…

 政府は憲法9条をふまえ、武力の行使を自衛のための必要最小限に限っていますが、その方針に反するおそれはないのでしょうか。政府は米艦防護に関する法律に「戦闘行為の現場は除く」「武器等防護に必要な限度で武器を使用」とあるので、大丈夫だと主張しています。

 しかし、米艦がミサイルで急襲されたらどうでしょう。そんな力を持つ相手は国家の可能性が高く、海自による防護とほぼ同時に米軍が反撃するかもしれません。集団的自衛権の行使であれば内閣や国会で手続きを踏む必要がある第三国同士の交戦に、いきなり関わることになる恐れもあります。

記者会見で「基本的には(武器等防護の実施は)公表しない」と述べた菅義偉官房長官
記者会見で「基本的には(武器等防護の実施は)公表しない」と述べた菅義偉官房長官 出典: 朝日新聞

どこまで説明、揺れる安倍首相の答弁

 そんな米艦防護の実施状況を、政府はどこまで説明すべきなのか。国会でも議論になっています。

 2015年7月15日、安保関連法案を審議する衆院特別委員会で公明党議員が安倍首相に「国会から説明を求められた時は丁寧に説明していただけるか」と質問しました。首相は「国会と国民への説明責任を果たすため、可能な限り最大限の情報を開示し、丁寧に説明する」と答弁。このあと自民、公明両党は法案採決を強行しました。

 法案に反対した民進党議員は今月8日の衆院予算委員会で、首相のこの答弁を引いて、今回の米艦防護について質問しました。ところが首相は説明を拒みました。

 「警護するのは米軍等が脆弱な状況にある場合だ。実施の逐一を公にすれば米軍等の能力を明かし、活動に影響するおそれがある。相手方との関係もあり、差し控えさせていただきたい」

衆院予算委で答弁する安倍晋三首相=8日
衆院予算委で答弁する安倍晋三首相=8日 出典: 朝日新聞

国民への説明責任、果たせるのか

 米艦防護の実施は防衛相が毎年NSCにまとめて報告することになっており、首相は「その内容を適切に情報公開する」と語りました。ただ、政権中枢の関係者らは「詳しい説明は不要」と口をそろえます。これから当たり前の活動になる米艦防護について明かせば、日米同盟が丸裸になると考えるからです。

 現場の裁量が大きい米艦防護を政府がきちんと運用することは、自衛隊の最高指揮官でもある首相にとって重い課題です。それを国会や国民がチェックするすべはあるのでしょうか。「説明責任を果たす」と断言しておきながらいざとなると口をつぐむ首相の姿勢に、不安を感じます。

     ◇

 「米艦防護」の初実施については、15日発売の週刊誌「AERA」でも詳しくリポートします。

 

ミサイル防衛や最新鋭戦闘機など、自衛隊の訓練や兵器が報道陣に公開されることがあります。ふだん近づけない自衛隊の「現場」から見えてくるものとは――。時には自分で訓練を体験しながら、日本政治の焦点であり続ける自衛隊を追う記者が思いをつづります。

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