お金と仕事
日本と大商談したサウジ、豪勢さの裏で進む改革 「成長の鍵は日本」
この3月、世界最大級の産油国サウジアラビアのサルマン国王一行が来日しました。王子や閣僚たちを含めた随行者は1千人超。東京都内の高級ホテルが押さえられ、高級ハイヤーが首都圏などからかき集められました。国王は安倍晋三首相と会談したほか、経済界の著名人らとも面会。サウジがなぜ今、日本に注目するのか。アハマッド・アルバラック駐日大使を突撃取材しました。(朝日新聞政治部兼国際報道部・下司佳代子記者)
アルバラック大使は2015年7月から現職を務めています。駐ポルトガル代理大使や駐韓大使などを経て着任。読書や水泳、散歩、音楽などが趣味とのことです。今回、単独インタビューに書面で応じたうえで、写真撮影で人なつっこい笑顔を見せてくれました。
「メディアは来日前から高い関心を示していました。テレビ、新聞、ラジオでの報道は非常に大きく、この歴史的な出来事にふさわしいものでした」
大使は今回の国王訪問について、こう振り返りました。サウジ国王の来日は、実に46年ぶりのことでした。
国王一行は特別機などに分乗して1千人以上が来日。東京は「プチサウジ特需」に沸きました。高級ホテルの客室1200室が予約で埋まり、関東だけでなく東海や関西からもベンツやBMW、レクサスなど高級車約400台が確保されました。高齢の国王のために、事前にエスカレーター式の特製タラップが持ち込まれたことも話題となりました。
関係者によると、築地の仲卸には「クエ(高級魚)を200万円分」「タイを立派なものから100匹」といった注文もあったとか。
世界最大級の産油国であり、王族の豪勢な生活ぶりや振る舞いが目立つサウジですが、実は1932年の建国以来の大改革に取り組んでいます。
サウド家が権力を世襲するサウジでは、主権を預かる政府が国民を養うという暗黙の「契約」があります。ところが、政府歳入の大部分をまかなう原油の価格は、北米の「シェール革命」などにより急落。
一方で、人口は過去30年あまりで3倍超に急増し、政府が支出を減らすのは難しい状態になっています。歳出が歳入を上回り続け、このままでは政府が国民を養えなくなるという危機感があるのです。
そこで昨年、大改革を託されたムハンマド副皇太子が打ち出したのが、経済多角化への指針「ビジョン2030」です。このビジョンの「達成を具体化し、経済を再構築する王国の戦略をサポートするもの」とアルバラック大使が期待するのが、実は日本との経済協力なのです。
サルマン国王は日本滞在中、安倍首相と会談しました。両氏は医療やインフラ、食糧安全保障など多分野で協力していくことを決め、「日・サウジ・ビジョン2030」の実施に向けて合意しました。
ビジョンは、サウジ国内に経済特区を設けるなどし、日本企業の進出を促す内容です。先行事業として、ビザ発給手数料の減額や、製造業のサプライチェーン(部品供給網)の構築、海水淡水化など31件が盛り込まれました。
アルバラック大使は「国王の来日は、産業や投資の協力を強め、両国間の戦略的パートナーシップのため、より広い視野を開く新たなスタートとなりました」と話します。
「国交樹立から60年以上が経ち、両国関係は互いにとって最も重要な関係の一つになりました。大使としての私の課題は、両国の友好関係を高いレベルで維持・強化し、新たな協力分野を創出すること。そして何より、『日・サウジ・ビジョン2030』を実行に移すことです」
大使は、ビジョンの中で示した協力分野の中でも特に、(1)産業ロボットへの応用を含めたIT通信(2)太陽エネルギー(3)娯楽産業――の3分野をあげ、「サウジ経済成長の鍵になる」「日本の技術から利益を享受できる」などと指摘。日本の投資や技術供与に期待する考えを強調しました。
そんなサウジの秋波を、日本側はどうみているのでしょうか。
サルマン国王は都内のホテルで、ソフトバンクグループの孫正義社長と会談しました。サウジの政府系投資ファンドと組んで、最大10兆円規模のファンドを設立することについて意見を交換しました。東京証券取引所は、世界最大のサウジ国営石油会社サウジアラムコの上場誘致を目指しています。
石油によって潤ってきた経済を「卒業」する道を探るサウジと、経済協力をテコにオイルマネー獲得を狙う日本――。両国がウィンウィンの関係を築けるかは、これからです。
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