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サウジ旋風への違和感 豪華旅行に注目…財政赤字・人権問題は?
日本に「サウジアラビア旋風」を巻き起こした国王一族の来日。1千人を超える随行員がいたことから、高級ホテルやリムジン業界はちょっとした「バブル」になりました。一方で「下世話な話に矮小(わいしょう)化すべきではない」と、王族の豪華な生活を伝えることに偏りがちだった報道にツイッターで違和感を示した専門家もいます。あの熱気は一体、何だったのか。振り返ってみました。
3月12日夜。サウジアラビアの国王一族が乗った特別機が、東京の羽田空港に到着しました。諸外国の首脳が、空港に降り立つ。それだけなら、よくある風景です。
でも、話題を集めたのは到着後。テレビなどでは、国王が飛行機から降りる姿が盛んに映し出されました。
それもそのはず。飛行機から降りる時に使った道具は、エスカレーター式の特製タラップ。サウジ側が事前に持ち込んだものです。王族の「富」を象徴したかのようなタラップに、ネット上でも「金持ちのレベルが違う」などと話題を集めました。
1千人を超える一団が来日したことから、東京では高級ホテルの客室1200室が押さえられたほか、ベンツやBMW、レクサスなどの高級車のハイヤー約400台が確保済みだったとのこと。ハイヤー業界関係者は「都内だけでは確保できないので神奈川や埼玉、東海地方からも集めている」。
朝日新聞を含め、新聞やテレビは国王の来日を大きく報道。中には、随行員の買い物に密着している番組もありました。国王来日が46年ぶりだったことに加え、中東の「オイルマネー」が日本に流れ込んで「爆買い」につながるのでは、という期待感もあったことが背景にあります。
そんな日本での報道。違和感をもって見ていた識者もいました。過去に在オマーン大使館に勤め、中東情勢に詳しい中東調査会の村上拓哉研究員は15日、ツイッターにこう書き込みました。
「間違っても、王族一行の豪遊旅行という下世話な話に矮小(わいしょう)化すべきではないので、各メディアは反省してほしい(特にテレビ局)。ああいう報道は誤ったイメージを拡散させるだけで、理解の促進にはつながらない」
間違っても、王族一行の豪遊旅行という下世話な話に矮小化すべきではないので、各メディアは反省してほしい(特にテレビ局)。ああいう報道は誤ったイメージを拡散させるだけで、理解の促進にはつながらない。娯楽として消費したいという意図が明け透けで、うんざりする問い合わせばかりだった。
— 村上拓哉 (@takuyamurakami2) 2017年3月15日
村上さんに、話を聞いてみました。
「王族の動静が広く報じられ、中東に馴染みのない一般の日本人にとってサウジアラビアという国の存在についてよく知る機会となった」と村上さんは指摘します。
今回の訪問では、サウジの改革を日本の官民が支援する「日・サウジ・ビジョン2030」に合意したり、二国間関係を「戦略的パートナー」と位置づけたりするなど、両国の関係を強化しようとする姿勢が目立ちました。
村上さんは「政府が主導してサウジとの関係強化に乗り出したことは、日本企業のサウジ進出などを促進する効果がある」と分析しています。
一方で、村上さんはこうも述べます。
「サウジは巨額の財政赤字や人権問題を抱えている。その背景や両国の関係強化についての報道を差し置いて、サウジをもてはやしてばかりの姿勢には、多少違和感を感じた」
サウジと言えば多くの人が思い浮かべるイメージは「石油」。世界でも屈指の産油国であることは間違いありません。
しかし、村上さんが指摘するように、サウジは財政赤字に苦しんでいます。
歳入の7割を頼る原油の価格低迷で財政赤字が膨らみ、シェールガスの台頭などで、今後も原油需要の大幅な伸びは見込めそうもありません。そのため、改革指針「ビジョン2030」で脱石油を目指しています。
また、サウジには「人権問題」への批判が常につきまとっています。
サウジはイスラム教スンニ派の盟主を自任する、絶対君主制の国。イスラム教の中でも厳格なワッハーブ主義に基づく政教一致を国是としており、自由や人権が厳しく制限されています。女性は顔を「ニカブ」と呼ばれる黒いベールで覆う必要があり、車を運転することは許されていません。
英BBC放送によると、サウジは3月中旬に「女性協議会」を設立。責任者の王族は「女性に対してもっと機会を与えることが我々の責務だと感じている」と述べています。ところが、配信された写真に写っている人物は、全て男性……。記事によると、表舞台に立っていた13人は全員男性で、女性は裏の控室で協議会の様子を見ていたそうです。
昨年1月には、テロに関与した罪で47人の死刑を執行。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルはこれに対し「人権と人命をこれほど無視した行為はない」とする声名を出しています。執行された人の中には、イスラム教シーア派高位聖職者のニムル師も含まれていたため、シーア派大国のイランが反発し、両国は断交するに至りました。
サウジは2015年、イエメンで政権を握ったシーア派のフーシ政権に対して空爆を実施。国連によると民間人の死者数は1万人を超え、国際的に禁止の動きが広がるクラスター爆弾を使用した疑いもあります。国王が安倍晋三首相と会談していた13日夜には、首相官邸前で抗議活動もありました。
ツイッターで問題提起した村上さんはこう話します。
「サウジ側からしたら、王族の外遊はよくある行事の一環。なぜ日本ではこれほどまでに大きな騒ぎになったのか、彼らにとっても逆に不思議だったのではないか」
朝日新聞では国王来日前に「石油の先に 変わるサウジアラビア」というタイトルで3月7、8日にサウジの現状を連載記事で伝えました。一方で、朝日新聞の夕刊に掲載しているデジタル版の記事ランキング「読まれたファイブ」を見ると、3月13日の1位は「サウジ国王が羽田到着 タラップは特製、高級車もずらり」でした。
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