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編集者が解剖『東京タラレバ娘』 名ゼリフがあなたの心をえぐる理由

担当編集者に人気の秘密を聞きました

月刊誌「Kiss」で連載中の「東京タラレバ娘」=(C)東村アキコ/講談社
月刊誌「Kiss」で連載中の「東京タラレバ娘」=(C)東村アキコ/講談社

目次

 「えぐられる」「刺さる」とアラサー女性を中心に話題が広がる「東京タラレバ娘」。講談社の月刊誌「Kiss」で連載中の東村アキコ先生のマンガで、日本テレビでもドラマが放送されている人気作ですが、ヒットの理由は痛烈なセリフやプロットにあるといわれています。世のアラサー女性たちを阿鼻叫喚の渦に放り込む名セリフを担当編集者の助宗佑美さん(33)と一緒に振り返り、人気の秘密をひもときます。

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「東京タラレバ娘」。ドラマでは全員30歳の設定
「東京タラレバ娘」。ドラマでは全員30歳の設定 出典: 日本テレビ提供

こんな漫画です

 主人公の倫子、香、小雪は、東京で働く33歳の独身女性です。ドラマでも吉高百合子さん、榮倉奈々さん、大島優子さんが演じているように、

 おしゃれできれいな彼女たちは、女子会と称して夜な夜な居酒屋に集まっては「ああだっタラ」「こうしてレバ」と恋や仕事の愚痴に花を咲かせています。

 ところがある時、若い男性モデルのKEYから「行き遅れ女の井戸端会議。タラレバつまみに酒飲んでろ」と指摘され、「自分たちにはもう時間がない」ことに気付くのです。

 このシーンだけで、この少女漫画は夢のおとぎ話ではなく、身につまされる物語でしかないことをアラサー女性たちは予感します。

3人が行きつけの居酒屋「呑んべえ」に現れたモデルのKEY=(C)東村アキコ/講談社
3人が行きつけの居酒屋「呑んべえ」に現れたモデルのKEY=(C)東村アキコ/講談社

アラサー女性にぐっさり刺さるのは

 まさに私自身も三十路女。

 「タラレバばかり言ってたらこんな歳になってしまった」(倫子・1巻3P)
 「なんかもう、私たちって、いろんな意味でお呼びでない」(倫子・1巻120P)
 「恋も仕事もうまくいかないアラサー女の使えるモノは貯金だけ」(倫子・1巻128P)

こんなセリフが胸に刺さりました。
 
 ……つらい。自分に思い当たる節があるからなんでしょうか、助宗さん。
婚活パーティーで若い女性たちを目にし、いつもの居酒屋に退散=(C)東村アキコ/講談社
婚活パーティーで若い女性たちを目にし、いつもの居酒屋に退散=(C)東村アキコ/講談社

 

助宗さん

2014年に初めて単行本が出たとき、反響がすごかったんです。ツイッターで「まじ痛い―」とか。まさに阿鼻叫喚の反応でした。「これまでほにゃーっと生きてきたのに、不安に気づいてしまった」、「考えるべきことを抱えていた知ってしまった」などの声もありました

 

真田記者

いや、本当にその通りで……見ないようにしていた部分を突きつけられた感じがします

 

助宗さん

それから、ふだん漫画に寄せられる声の多くは感想なんです。おもしろかったとか。でも「タラレバ」に関しては、3人の生き方やKEYに対しての意見が多い。「こう思うんだけど」と。マンガの話をしているうちに自分自身の話になっていることも多いようです。「私の場合は……」とか、気づくと主語が一人称になっていたりして

 

真田記者

そう、そうなんですよ。タラレバの話をしているうちに「こないだ私もこういうことあってさー」とか

 

助宗さん

実は友人同士でも恋愛のグチって「面倒に思われるかな」とか、言いづらかったりするんです。でも、それを「こないだタラレバっぽいことあってさー」とか、「タラレバ女子会しようよ」みたいなノリで、みんなで消化できるということかもしれません

 

 

普段話しにくいテーマについて意見交換するひとつのツールにもなっている気がしますね。女性の生き方とか、結婚は幸せなことなのかとか……
担当編集者の助宗佑美さん
担当編集者の助宗佑美さん

「逃げ恥」で解いた呪いが再び?

 

真田記者

結婚にまつわるセリフもたくさんありますよね。
「出会いがないとボヤき続けて早10年」(香・2巻40P)
「~れば、私 多分 結婚してたのに」(香・2巻50P)
「世の中の女は妥協できる女と妥協できない女、2種類に分けられる」(倫子・4巻44P)
「自分の戦闘力がいくつなのかが分かれば、もう高望みしなくてすむのかもしれない」(倫子・5巻11P)

 

 

昨年ドラマで大ヒットした「逃げるは恥だが役に立つ」の原作漫画も、タラレバ同様に月刊誌「Kiss」で連載していました。今の女性は「結婚」というキーワードに敏感なのでしょうか?「女性は若い方が価値がある」といった「逃げ恥」で解いたといわれる「呪い」を再びかけているのでは、という声もあるようです。
昨年ドラマで大ヒットした「逃げるは恥だが役に立つ」=(C)海野つなみ/講談社
昨年ドラマで大ヒットした「逃げるは恥だが役に立つ」=(C)海野つなみ/講談社

 

助宗さん

うーん、結婚がいいとか、若いうちに結婚をするべきだといったメッセージはこの物語には全くないんですけれど

 

 

ただ、ひとつ思うのは、倫子たちは何の疑いもなく「結婚したい」と思っていて、年齢にも敏感になっているわけですが、それこそが「呪い的な考え」というか、慣習にとらわれたものではないかと思うんです。「自分はいずれ当たり前に結婚する」という前提が、今の日本女性のリアリティーになっているのかなと

 

 

でも倫子は「男とつきあうのって面倒だった」と思う場面もあって、そこに共感する人もいると思うんです。だから、自分たちが何となく考えている「幸せ」が、どういうことなのか。結婚なのか、仕事なのか、ほかにあるのか。「幸せ」に対してすごく自覚的になる話なのかもしれません
プロポーズされると予感していたデートで、別の若い女子と付き合いたいと相談されるというまさかの展開。直後に「呑べえ」で落ち込む倫子(C)東村アキコ/講談社
プロポーズされると予感していたデートで、別の若い女子と付き合いたいと相談されるというまさかの展開。直後に「呑べえ」で落ち込む倫子
(C)東村アキコ/講談社

アラサー以外にも広がる共感

 

真田記者

「幸せになれないってことは私たちにとって死ぬのと同じ」(3巻・50P)にも胸が締め付けられます。「タラレバ」は男性やアラサー以外の女性にも読まれているんですよね?

 

助宗さん

そうなんです。作品に出てくる言葉を「人生の格言」のようにとらえて、「わかる」という方も少なくないです。人生にはこういう苦しさがあるよねとか。たとえば……。
 「人生の主役はいつも自分だと思っていたけど、どうやらそうじゃないらしい」(倫子・1巻86P)
 「ピンチがチャンスなのは若いうちだけ。あんたらの歳だと、チャンスがピンチ」(KEY・3巻34P)
 「頑張ってないわけじゃない 幸せになるため色んなことをがまんして 頑張ってるんだよ これでも」(5巻63P) 
 「働こう。もう1回しがみつこう」(倫子・4巻111P)などでしょうか。

 

 

物語のテーマとして一貫しているのは『時間は巻き戻せない』(2巻77P)ということなんです

 

 

それは恋愛や結婚に限らず、仕事や自分の生き方にも当てはまります。いつの間にか時が過ぎて何もできなかった、と思う人生にはしないほうがいい、というメッセージですよね

 

 

倫子たちは「するべきこと」のひとつとして結婚をあげていますが、本当は何にでも当てはまることなんだと思います。「専業主婦になりたい」とか「仕事を一生懸命したい」とか

 

 

東村先生は「やりたいことがあるなら、愚痴っていても何にもならない」と感じていて、それをKEYに言わせているのだと思います。だから、特に理由もなく「結婚しなきゃ」と焦っていた人が、自分の「本当にやりたいこと」や「本当の幸せとは何か」を見つける物語が、「東京タラレバ娘」なのかもしれないと思います
難しい仕事の話が舞い込み、「ピンチをチャンスに変えてみせる!」と息巻く倫子。しかしKEYの厳しい一言が・・・(C)東村アキコ/講談社
難しい仕事の話が舞い込み、「ピンチをチャンスに変えてみせる!」と息巻く倫子。しかしKEYの厳しい一言が・・・
(C)東村アキコ/講談社

タラレバは「みんなの物語」

 

真田記者

自分の幸せとは何なのか……意外にきちんと考えてこなかった気が。こんな風に女性に共感される物語どのように生まれたのですか?

 

助宗さん

先生の周りに結婚したいアラサー女性がいて、その人たちの行動や悩みがおもしろかったそうです。「漫画になるかも」と先生が話しているのを編集部が聞いて、先生のアイデアと今のリアルな女性の姿がすごく合致しているから、きっと反響が出るだろうと、連載をお願いしました

 

 

女性の生き方って難しいですよね。東京は何でも手に入る。SNSを使えば自分の仕事や生活と関係なく承認を得られたりもする。欲張りに生きられる時代の中で、何かを選べば何かを切り捨てないといけない。こういう感覚が女性にあるのではないかと

 

真田記者

わかります。すごくわかります。リアルな悩みです

 

助宗さん

リアルですよね。単行本が出たとの反響がすごかった。そのとき初めて先生は「タラレバ」が世の女性に共感されていることを実感したんですね。「ただ私がおもしろいと感じた話ではなくて、みんなの物語だったんだ」とよく言っていましたから
著者の東村アキコさん=Tada(YUKAI)さん撮影
著者の東村アキコさん=Tada(YUKAI)さん撮影

 

真田記者

たくさんの取材しているんですか?

 

助宗さん

先生の周りにはアシスタントや編集者など、アラサー女性が多いんです。私も倫子と同じ33歳なのですが、私たちも日々悩んでいることや愚痴を先生にべらべら話しています

 

 

しかも先生は「タラレバ娘」を書くようになってから、道ばたや居酒屋でしょっちゅう女の子に声をかけられ、相談されるようになったらしくて。生の声を聞いているので、取材もほとんどしていないんですよ
KEYの出現で「時間がない」と自覚する=(C)東村アキコ/講談社
KEYの出現で「時間がない」と自覚する=(C)東村アキコ/講談社

道ばたや居酒屋で聞く「生の声」

 

真田記者

声をかけられるんですか。大変ですね(笑)

 

助宗さん

本当に(笑)。でも先生は「自分の漫画でみんなの気持ちが不安定になっているなら、話を聞く義務がある」とすごく優しく対応しているんです。女性の話を聞いて、「そういうことがあったんだね、なるほど。でも、コレはこうなんじゃない?じゃあ、また会うことがあればいつでも声かけてね」と

 

真田記者

おおー、アドバイスまで……

 

助宗さん

登場人物の中でも、東村先生はKEYに似ていると思います。単行本の巻末でも、読者のタラレバ悩みに鋭く切り込んでいます

 

 

私も「タラレバ」を担当してからな人生観を知り、なるほどと思うことがたくさんあります。この作品は言葉の力が強い。身に染みる言葉、痛い言葉、いい言葉。読んだことのない方も、まだピンと来ていない方も、セリフの主語を自分にすげ替えてみると、新たな発見があるかもしれません
「東京タラレバ娘」=(C)東村アキコ/講談社
「東京タラレバ娘」=(C)東村アキコ/講談社

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