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波瑠主演のドロドロ母娘 「今、同じ状況です」掲示板が異例の事態に
「母娘問題」に切り込んだNHKの連続ドラマ「お母さん、娘をやめていいですか?」(毎週金曜午後10時)。波瑠さん演じる娘と、斉藤由貴さん演じる母が火花の散るようなバトルを繰り広げる中、異例の盛り上がりを見せているのが番組掲示板です。自分の体験談を吐露したり、悩みを打ち明けたり……。出演者へのエールが多い番組掲示板とは異なる展開を見せています。
「幼い頃から母親から行動をコントロールされたり、気に入らないことがあると罵声を浴びせられてきました」
「『結婚するなら縁を切る』という言葉しか言われないまま4年交際し…いつ結婚に踏み込めばいいのか悩む日々です」
掲示板には、母との関係に悩む娘たちからの長行の投稿があふれています。
「ドラマ制作に25年以上関わってきましたが、こんな形の反響は異例」。演出を手がけたNHK名古屋放送局の笠浦友愛(ともちか)エグゼクティブ・ディレクター(55)は、そう言います。
一般的に、ドラマの掲示板は感想や出演者・登場人物へのエールが多いもの。でも、ここでは実体験を交えた切実な内容が多く、なかでも40、50代の投稿が目立ちます。
ドラマは、母(斉藤由貴)と恋人のように仲良しだった25歳の娘(波瑠)が、母の顔色をうかがって生きてきたことを自覚し、「呪縛」から逃れようとするも、母が暴走していく――というストーリー。
「14才の母」(2006年)や「昼顔~平日午後3時の恋人たち~」(14年)など、社会を映した作品を多く手がけてきた井上由美子さんのオリジナル脚本です。
母娘関係の悩みはここ数年、女性誌や情報番組でもたびたび特集が組まれ、当事者が発信する本も多数出版されてきました。子にとって害悪となる行動を繰り返す親を指す「毒親」という言葉も広まっています。
ただ、娘を苦しめるのは暴力や暴言のような行為ばかりでなく、過干渉や依存など「見えにくい」事象もあり、十分に認識されているわけではありません。
ドラマでは、当事者らへの取材や臨床心理士の信田さよ子さんの臨床心理考証などをもとに、「コーディネートを母に決めてもらう」「娘の日記をチェックする」――など、さりげない言動を積み重ね、見えにくい不健全な密着の姿を浮かびあがらせました。
番組には「私のことかと思った」という声も多く寄せられています。
笠浦さんは掲示板の反響について、「周りには『仲良し母娘』に映っていたり、家族のことを悪く言うことをタブー視する風潮があったりして、言えずに苦しんでいた方がそれだけ大勢おられるということではないか。ドラマが『私だけじゃない。苦しいと言ってもいいんだ』と応じてもらえるきっかけになったとしたら、それだけで制作した意義があった」と語ります。
直近の第7話は、開始以来、最高となる7.6%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)を記録しました。
ドラマは残り1話。娘に暴走をとがめられても「娘のため」「私が悪いの?」などと返す母の姿は「悪役」そのものです。でも、母もまた母(祖母)との関係に悩んできたことや、夫(父親)が家庭にあまり目を向けてこなかったいきさつなどを知ると、母の苦しみや必死さもわかります。
気になる結末について笠浦さんは「家族にまつわるドラマは最終的に家族の絆に答えを見いだすのが定番だと思うのですが、このドラマは、それでは終わりません」と断じます。
その愛や絆こそが、裏をかえせばお互いを苦しめているからです。笠浦さん自身も「母には私の苦しさは一生わからないと思う。夫が理解してくれていることで救われているが、それで母の重さが解消されるわけではない」などと語る当事者と会い、問題の根深さを痛感したそうです。
「母娘問題はそれぞれ個別で、万人に通じる正解は出せません。このドラマなりの母、父、そして娘の決断を見届けてもらえれば」と話します。
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