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北九州の新成人 「派手な衣装=式を妨害したい人」じゃなかった…!
北九州市の成人式に現れる、スーパー歌舞伎もビックリの豪華な衣装を着た新成人たち。今年いちばん派手になりそうなのは、金を基調にした羽織はかまに黒や金、銀、青といったバラ(!)を縫い付けた男性10人組だそうです。名付けて「バラ」。どんな人たちなんでしょうか? 内心ビビリながら、会いにいってみました。(朝日新聞西部報道センター・宮野拓也)
ど派手新成人の多くは、市内のレンタル衣装店「みやび」で衣装を借りています。店長の池田雅さん(45)にお願いして、「バラ」を紹介してもらいました。
取材予定日は、彼らがお店と打ち合わせをする日。店内の一室で待っていると、「こんちわー」といって次々と元気よく青年たちが入ってきました。
彼らは同じ中学校の出身で、部活やクラスは違うものの、当時からとても仲が良いそうです。この日来ていた8人のうち半分くらいは黒髪ですし、みんな笑顔が爽やかで、正直ヤンキーの香りは全くありません。
学生時代、派手なグループに属していなかった記者ですが、もし彼らとクラスメートになっても、仲良くなれそうな気がします。
彼らが成人式で着る羽織はかまは、金色を基調に赤や黒、白、紫、茶、銀など、それぞれが好きな色を足しています。それだけでも十分に派手ですが、羽織の襟が立ち上がり、そこにバラがびっしりと並ぶ予定だとか。しかも、袖口や襟には、ふっさふさのファーまで付いています。
「なんでこの衣装を着ようと思ったの?」。衣装を見て思わず、ストレートな疑問が口を突いて出てしまいました。
「理由かー」。口を開いたのは、薄い紫色のサングラスをかけた安高竜矢さん(20)。グループのリーダー的存在で、県外の車工場に勤めています。
彼が差し出したのが自分のスマホ。待ち受け画面を見ると、そこには同じようにバラの衣装を着た、新成人の写真がありました。昨年の成人式で、先輩にお酒を差し入れたときに撮った1枚だそうです。
「1個上の先輩なんですけど、この1年間ずっと待ち受けにしてました。やっぱりカッコイイです。自分たちもこういう風にしたいな、と眺めてました」
先輩は1人でバラをしていたそうですが、それを見た安高さんは「自分たちはもう一つ派手にしたい」と、10人でそろえることに。肩にはパッドを入れてより厚みを出し、えりも立ちやすく改良してもらいました。
鳳凰(ほうおう)と唐草の柄は、とび職の平川稜治さん(20)が「嫁の兄ちゃんが3年くらい前に成人式で着た柄がいい」と指定したそうです。
「スーツはいつでも着られるし、普通ではおもしろくない」。そう話してくれたのは、福岡市で体育系の専門学校に通う前田悠貴さん(20)です。黒い野球帽をかぶった前田さんは、あどけない笑顔が印象的です。
彼らの場合は、衣装代は1人40万円。学生の前田さんがどうやって工面したのか、聞いてみました。「節約には彼女とあんまり遊ばなかったぐらいかな」
え……。それだけでたまるの……? 「まぁ、居酒屋と婚活パーティーのバイトをして、2年かけてためたんで余裕っす」。そう言って、バイトで鍛えた婚活パーティーの司会の口上を、流暢(りゅうちょう)に披露してくれました。
多いときは月5万円を貯蓄していたそうですが、最後の方はさらに切り詰めて、「友達におごってもらったりして、1週間8円生活とかしてました」。「8円じゃ何も買えないでしょ!」とつっこむと、「高校時代のスポーツ大会の景品のクオカードがあったので、それを使いました」
リーダーの安高さんは、午前7時~午後7時と、午後7時~翌午前7時の二交代制の工場で働いています。車のサスペンションを溶接して組み立てる仕事だそうです。
「小、中学校の頃は怒られることもしたけど、その後は落ち着きましたよ。仕事場ではおとなしい方だと思います」。仕事中は水色の作業着で、私服も黒が基本。派手な服を着たいという思いもありますが、その機会はめったにないそう。
今回の衣装は、親から「お金がもったいないんじゃない」と小言を言われたそうですが、「一生で1回だから」と説得。自分でも「ちょっとバカらしいかな」と思う瞬間があったそうですが、「このメンバーでできる一生に一度のことだから」と、冬のボーナスを全額投入して衣装代を払いました。
安高さんは当日、髪の色を「はかまに合わせて黒と金に」するそうです。さっきまで「普段は絶対黒髪」と言っていたはずですが……。
「次の日には黒に染め戻しますけどね」。ポピュラーな茶髪には、絶対にしたくないそう。「中途半端に明るいのはチャラく見える。硬派にいきたいんで」。……独自の美意識があるようです。
「リーゼントにする」「五厘にしようかな」との声が上がる中、パンチパーマにしたいと言ったのは、平川さん。成人式の日には、プロポーズをしないまま結婚した奥さんに、プロポーズをしたいそうです。
「贈るバラは襟にいっぱい付いてるしな」。そう言って、いたずらっぽく笑います。
ところで、北九州市は昨年の成人式の前に、ホームページなどで初めて「きちんとした服装での出席」を呼びかけました。市青年課によると、式で目立ったトラブルはなかったものの、市民から「みっともない」という意見が寄せられ、市議会にも陳情があったそうです。
それを「バラ」のみんなに伝えると、「外見だけで悪く思われるならそれまでですよ」「大事なのは中身でしょう」、そんな答えが返ってきました。
確かに、「バラ」のみんなと実際に会ってみると、ごくごく普通の青年たちです。「人を外見で判断するな」、子どもの頃よく言われた言葉だな。取材中、ふとそんなことを思い出しました。
「バラ」は、成人式でどんなに派手で目立っても「けんかはしない」と決めているそうです。式の当日は外の芝生広場にいて、式典の妨害もしないとのこと。
仲間から、「お前が1番危ないやん」とからかわれていた平川さんは「けんかしても痛いし、おもしろくない。生まれたばっかの子どもを抱いて写真を撮りたいんで」と、父親の顔をのぞかせました。
最後に、「バラ」のみんなに聞いてみました。
理想の大人ってどんな人ですか――?
車工場に勤める安高さんは「金銭的にも時間的にも、余裕のある大人になりたい。今の仕事を頑張りたいですね」。
体育の専門学校に通う前田さんは、ジムのトレーナーを目指しているそうです。小さい頃に父親を亡くし、母子家庭で育ててくれた母親に、恩返しがしたいといいます。
じゃあいつか、みんなが思い描く通りの大人になって、成人式を写真で振り返ったら……?
「爆笑間違いないです」
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