地元
北九州の成人式がヤバイ 「ど派手衣装」レンタル店が語った「本音」
ど派手衣装の新成人で、各界に衝撃を与える北九州市の成人式。記者の出身は「ヤンキー県」こと千葉の千葉市ですが、十数年前の成人式とはいえ、あそこまで突き抜けた衣装を着た人は、いませんでした。北九州の新成人は一体どこで、あの衣装を手に入れているんでしょうか。気になったので、調べてみました。(朝日新聞西部報道センター・宮野拓也)
まず一応断っておきたいのは、あのやんちゃぶりは、北九州の日常では決してないということ。記者は転勤で北九州に住み始めてもうすぐ2年になりますが、あんなに派手な格好をしそうな若者に、ふだんの街中で出会ったことは、一度もありません。
なのに、成人式となると、カラフルな羽織はかま姿の一団が、どこからともなく現れるのです。「祝成人」とか、中学校名の派手な文字が入った大きな旗をたなびかせ、女性陣には肩を出した花魁(おいらん)姿の人も。
その突き抜け感は、「安土桃山時代の絢爛(けんらん)豪華な伝統を受け継いでいる」とする専門家もいるほどです。
ここぞとばかりにたばこを吸い、酒を飲む姿も散見されますが、それは何も北九州市に限ったことではありません。
地元の成人式に普通のスーツ姿で参加した記者は、大騒ぎする彼らに対して、勝手に「式を妨害したい痛い人たち」というイメージを抱いていましたが、昨年の取材で出会った新成人は、お祭り騒ぎで盛り上がってはいるものの、取材を妨害したり、記者に暴力を振ったりすることは一切ありませんでした。
彼らに、どうやって衣装を調達したのか聞いてみると、そろって「みやび」という市内のレンタル衣装店の名前が返ってきました。気になったので、実際に行ってみました。
入り口の赤い扉を恐る恐る押すと、店内には衣装の入った箱が所狭しと並んでいました。対応してくれたのは、店長の池田雅さん(45)。化粧も派手さはなく、全身を黒いシンプルな服装でまとめた、ごくごく普通の女性です。
正直、ちょっといかつい人がやっているかも……と思っていたのですが、取り越し苦労でした。
みやびはもともと、ブライダル中心の衣装店だったそうです。成人式用も貸し出していましたが、扱うのは全て既製品だったそうです。
転機は2003年、「金さん」と「銀さん」の来店でした。幼稚園からの幼なじみという社会人2人組は、「全身金、銀の衣装にしたい」とリクエストしたそうです。ところが、既製品を扱う店にそんな衣装があるわけもなく、雅さんはフルオーダーで用意することに。
上の着物は金襴(きんらん)、銀襴の織物生地でつくり、はかまは何度も試作織りを繰り返して、メタリックなオーロラ色に光る生地をつくりました。丸一年かけ、もうけも度外視だったそうです。
そのかいあって、金さん&銀さんは大絶賛。式後に店にやってきて、自分たちがどれだけ目立ったか、この衣装にしてよかったかを1時間以上、雅さんに語ったといいます。
雅さんは「あの時、まだちっちゃい携帯の液晶で成人式の写真を見せてくれたのをよく覚えています」
「次にムリだと思ったのは虹キングかな」
虹キング――!!! どんな衣装なんでしょう?
虹キングは2008年ごろ、成人式の1年前に早々と店を訪れたそうです。「全身を虹色の7色の羽織はかまにしてほしい」と絵コンテまで持参して。
「7色にするなんて、本当にできなくて、やり方も分からなかった。メーカーや布を織る会社にも全部断られた」と振り返る雅さん。
泣く思いで7色の布を縫いつないで、はかまを作ったそうです。虹キングは、赤、青、黄色といった単色の着物に身を包んだ7人と一緒に、「チーム虹キング」として大満足で成人式に臨んだといいます。
店には毎年、先輩たちの派手な衣装を見た後輩たちが「自分たちも」と訪れます。今では毎年の成人式に千着程度を貸し出すそうです。
「先輩のをそのまま着てくれると店としてはありがたいけど、ほぼない。みんなこだわりがあって先輩より派手にという人が多いから」と雅さん。
「派手な衣装を推奨しているわけではないし、もっと控えめにしてもいいかとは思いますが、一生に一度の成人式。本人の後悔が残らないようにと思っています」
ここで、一番気になっていたことを、聞いてみました。ど派手な衣装を好む人は、やっぱりヤンキーなんでしょうか……?
「うちに来る人は男女問わず、みんなびっくりするくらい礼儀正しくて、むしろ普段はおとなしいと思いますよ。衣装も翌日にちゃんと返してくれるし。計画を立てて、何度も店とやり取りしないといけないから、しっかりした人じゃないとできないですよ」
雅さんによると、レンタル衣装代は10万から40万円で、平均15万円ほど。決して安いとは言えない金額です。
お客さんは10代で働き始めた人の割合が多いそう。職業別に見ると、工場で働いている人が最も多いといいますが、公務員や自衛官、警察官も「毎年必ずいます」。
学生では、毎月1万円ずつ貯金したり、親に半額を出してもらったりする人もいるのだとか。「いわゆるヤンキーが店に来ることはありません。迷惑をかけられたことも、ほとんどありません」
え……。それなのになぜ、あんな格好を…。
「ハレの日に目立ちたいというのと、一生に一回のことだからでは」。確かに、結婚式を除けば、人生であんなに主役になれることなんて、なかなかありません。30、40代になってからじゃできないというのもうなずけます。
北九州のお祭り文化や、SNSの発達も影響していそうですが、雅さんは、成人式の規模が派手な衣装に結びついた、という分析も教えてくれました。
新成人が1万人ほどの北九州では、目立つためにグループで衣装をそろえる方向に進化し、より小規模の自治体では、1人でも派手に見える方向へと進化したのだといいます。
ど派手成人式から文化の進化論まで飛び出すとは……。
ところで、新成人たちに「雅先生」と慕われている雅さん。ご自身の成人式は?
「親から高い赤い振り袖を買ってもらいましたけどごく普通でした。もう一回するなら派手な友達と派手な衣装にしてみると思いますよ」
ふと、自分も成人式の朝、友達と待ち合わせて会場に向かったことを思い出しました。派手な衣装があったら、あいつらと着たかったかな……。不思議とそんな気もしてきました。
1/11枚