連載
#10 AV出演強要問題
AV強要って何法違反? 警察庁に聞いてみた 派遣法・労基法でも…
若い女性がアダルトビデオ(AV)に無理やり出演させられるなどの強要被害については、警察も対策に乗り出している。警視庁は6月、所属していた女性をAV制作会社に派遣したとして、労働者派遣法違反(有害業務就労目的派遣)の疑いで芸能プロダクションの元社長ら3人を逮捕した(後に罰金刑)。警察はAV強要がどんな罪にあたり、どう取り締まろうとしているのか。警察庁幹部に聞いてみた。(朝日新聞経済部・高野真吾)
警察庁は11月15日、政府の男女共同参画会議の専門調査会で、6月末までの2年半に全国の警察にAV出演強要被害の相談が22件あったことを報告した。被害の相談件数を取りまとめたのは初めてだ。年齢は、10代4件、20代12件、30代3件、不明3件で、女性21件に対し男性も1件あった。
今年3月、国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」(HRN)が、タレントやモデルとしてスカウトされた女性がAVへの出演を強要されているとする調査報告書を公表した。その後、マスコミで大きく報道され、国会でも取り上げられるなどしたことから、警察としても実態把握に乗り出したという。
22件の相談の時期は、2014年が9件、15年が7件、16年1~6月の上半期が6件だった。10代では、ファッションモデルの撮影だと思って応募したところ、実際にはAVだったというケースがあった。
警察庁は6月、警視庁生活安全部長と各道府県警察(方面)本部長に、「アダルトビデオへの強制的な出演等に係る相談等への適切な対応等について」と題する「通達」を出した。「各種法令の適用を視野に入れた取締りの推進」を求めるものだ。
警察庁幹部はAV出演強要を「女性の尊厳を踏みにじるものであり、あってはならない」と位置づけ、「違法行為があれば法と証拠に基づき厳正に取り締まって参りたい」と述べた。
通達の中では、「強姦罪等の性犯罪、強要罪、傷害罪、暴行罪、脅迫罪等の違法行為が介在する際の取締り」に加えて、「職業安定法」「労働者派遣法」「労働基準法」「児童福祉法」「その他関係法令」の「適用を視野に入れた取締りを推進すること」とある。
同幹部は、「(強姦罪などの)刑罰法令だけでなく、(労働者派遣法などの)労働関係法令も視野に入れた取り締まりを推進するよう各都道府県警察には指示している」と話した。
実際の検挙事例もあがっている。警視庁が6月に逮捕したケースでは、女性は「グラビアモデルの仕事ができる」と言われてプロダクションと契約を結んだとされる。また、10月には別のプロダクション6社と社長の男性ら12人を労働者派遣法違反(有害業務就労目的派遣)の疑いで書類送検している。
さらに幹部は、犯罪としての立件が難しい場合でも、被害者の相手方に指導、警告をしているケースがあることを明らかにした。
HRNは8月、AVメーカー200社などで構成するNPO法人「知的財産振興協会」(IPPA)に対し、本番の性交渉をしないことなどを盛り込んだ「要請書」を提出した。本番行為を「法律に抵触する虞(おそれ)。また性交渉を契約の拘束力によって義務づけることが許されるのか」と問題視している。
「本番行為をどう考えるか」との問いに対しては、幹部は「事実に即し、違法行為があれば取り締まる」と説明。直近の検挙事例として、キャンプ場でAVを撮影したとして警視庁が10月、公然わいせつや同ほう助の疑いで、AVメーカー社長、撮影監督、プロダクション元社長、女優、男優ら計52人を書類送検(後に全員不起訴)したケースを紹介した。
警察庁は6月の通達の中で、「AVへの出演に関する契約等の相談を受理した際は」「適切な助言を行った上で、法テラス、弁護士等専門機関の紹介を行うなど、適切に対応すること」とした。
全国の都道府県警察の警察本部、警察署では、専門の警察安全相談員などの職員が、相談者のプライバシーの保護や境遇などに配慮しながら、相談に応じている。特に被害者が女性の場合には、女性の相談員が話を聞く。契約に関する問題や、ネット上に出ている画像を削除したいという相談では、弁護士などの専門家を紹介しているという。幹部は「こうした連携は非常に大切だ」と強調した。
その上で、全国の警察本部、最寄りの警察署にある相談窓口や「警察相談専用電話 #9110」の利用を呼びかけた。幹部は「ためらわないで相談して頂ければ」と話した。
被害者支援にあたるNPO法人「人身取引被害者サポートセンター ライトハウス」広報担当の瀬川愛葵(あいき)さんは、摘発や相談に力を入れる警察の対応を「とても心強い」と歓迎する。14年に36人、昨年は62人だった相談者は、今年は11月末までに93人になった。
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【瀬川愛葵さんの話】
私たちの相談員から、被害者と同行した警察窓口では、以前に比べ前向きに話を聞いてもらえるようになったと報告を受けています。被害者にとっても、私たち支援団体にとっても、この問題に対する警察の真摯(しんし)な取り組みは、大変心強いです。
警察が、AVメーカーなどの摘発に積極的になっている影響も感じています。以前は、出演強要の被害相談をうけたライトハウスや協力団体のPAPS(ポルノ被害と性暴力を考える会)が、AVメーカーなどに対し、相談者が出演しているDVDの販売や動画配信の停止をAVメーカーなどに求めても、反応がなかったり、対応が非常に遅かったりすることが通常でした。
今年、警察が摘発に乗り出してからは、一時的にAVメーカーの対応が迅速になりましたが、業界大手のメーカーはじめ販売停止に応じない場合もあり、多くの相談者が不安な日々を送っています。
強要問題が広く報道され、世間に認知されるにつれ、被害者はようやく警察や私たちに相談していいと思うようになってきたのです。いまだ「自己責任論」や「被害者たたき」が一部にあるのは残念ですが、ぜひ、勇気を持って相談をして欲しい。悪いのはあなたではなく、強要を迫った相手方なのですから。
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