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「魅力度ビリ」茨城県が誇る日本一 ビール・住宅敷地…郷土検定も?
民間調査で、魅力度が全国のワースト、しかも4年連続という茨城県。そんな不名誉な称号に対して県の広報監・取出新吾さん(49)は、「何ともない」とニコニコ顔でいうのです。聞いても聞いても、ともかくポジティブシンキング。全国の自治体がふるさとPRにしのぎを削るなか、逆転への秘策はあるのでしょうか。(朝日新聞文化くらし報道部・佐藤剛志)
その調査は「都道府県魅力度ランキング」。民間調査会社のブランド総合研究所(東京都)が毎年発表しています。ちなみに今年の魅力度ベスト3は、1位から順に北海道、京都府、東京都でした。
――4年連続最下位という結果をどう受け止めていますか?
「あくまでもひとつの調査データなので、県として右往左往する必要はないと思うんです。ランキングを上げるためだけに、一時的な露出を高めるより、地に足のついたことをやりたい。最終的には県民みんなが『茨城が好きだ』と言って自然に自慢してくれることが大切ですからね」
「就職を機に茨城県に引っ越して、県民歴は24年。広報監には民間からの公募でなりました。外資系企業にいたのですが、海外の人って、さらっと自分の町のことを会話に入れてくる。日本人の奥ゆかしさは決して悪くないけど、よいと思うところは出していかなきゃ。県っていう大きなかたまりじゃなくても、市町村とか地区のレベルでも『ここはいいよ』って」
――とはいえ、毎年ほぼ同じ基準で集計しているランキングが一つも上がらないことについてはどうですか。
「全体では都道府県のブランド力の調査で、〝魅力度〟は103ある項目のひとつに過ぎないけれど、ビリなのは現実。県内には数字を本当にショックに思っている人がいて、それは本当に申し訳ないなと思います」
「例えば群馬県のみなさんならば(県の歴史や偉人、名所などを詠み込んだ)『上毛かるた』があって、子どもの頃から親しんで、大人になっても覚えている。いいですよね」
「茨城県には『いばらきっ子郷土検定』があって、県内の中学校2年生が受験、大会も開いています。ただし、これ、やたら問題が難しいんです(笑)。マニアック過ぎるって正直思うんですけど、好きになるって相手を知ることから始まりますから。知って、好きになって、いつしか誇りになって……という段階を進めていこうかと」
なんだか恋愛みたいです。
ところで、茨城県のスローガンは「のびしろ日本一。いばらき県」で、ランキング最下位を逆手にとって、うまいなと思わせます。
「偶然とはいいませんが、魅力度最下位のことだけを指しているわけではありませんよ」
「茨城県は『ビールの生産量日本一』、皆さん知らないですよね。アサヒビールの工場が守谷市にあって、それは同社の工場の中で日本最大なんです。キリンビールも取手市に工場があります。加えて木内酒造という地元企業は地ビールの生産ではものすごいところで、海外輸出では日本一なんです」
「1住宅当たりの敷地面積が全国で一番広いのも茨城県。1人当たり県民所得も全国8位で、物価が安くて収入がそれなりにあるから実収入もかなり高くなります。土地が平坦(へいたん)だから農業もしやすく、工場も作りやすい。温暖なことも加えて産業には適しています。もっと伝えていかないと」
茨城自慢が止まらない取出さんですが、一方で嫌うのが自慢を押しつけること。行政の職員と市民とのふれあいの足りなさを課題にあげます。
「県庁って実は県民と直接ふれあう機会があまりないんです。そこで、より現場に近い市町村に情報発信の研修に行っています。最新版の研修資料が『情報発信恋愛論』。『情報発信の壁ドンしてませんか?』と」
「壁ドンって一時ブームになったけど、実際にはまずしませんよね(笑)。好きでもない相手にいきなりされても困る。今まで僕たちのやってきた情報発信って、相手の事情を思いやらず、どんな人かもよく分からないまま、言いたいことを一方的に伝えていたんじゃないかと」
「『ほら見て、すごくいいんだぜ!』とか、『ふるさとを誇りに思ってください!』という一方通行。それが同じ目線に立つことで、頭のかたそうな行政マンだけど、意外に頑張っているな、この人たちと一緒に街づくりをしたいと思ってもらえるようにしたい。まずは市町村から、全体の広報のレベルアップができればいいと考えています」
地域情報の発信を担うものに、地元のテレビ番組がありますが、茨城県は民放の県域テレビ局がない唯一の県です。
――記者は普段、テレビ局の取材を担当していますが、テレビ局がないと、地元を知る手段が他県より減ってしまうのでは?
「それは正直、あるでしょう。ただ、茨城県って全域で関東のキー局が全て映るんです。今さら何十億円かけてテレビ局を作っても、みんなが見てくれるのかは疑問です」
「4年前の県のインターネットテレビ『いばキラTV』の開局は、テレビの代替として始まりました。ところが、毎日、朝昼夜と生放送をしても、全然見られない。テレビ番組とネットは全然違うって、気づくのに3年かかりました」
「そこでオンデマンド型に転換です。もともと30~40代の男性が利用者の主軸だったので、彼らを狙ってコンテンツで元ミス鎌倉で大食いタレントの桝渕祥与さんに、県内の大盛りのお店を紹介してもらったんです。ところが、ふたを開けたら20代女性が中心層。去年の大当たりはこの番組でしたね」
「今年はユーチューバーのHIKAKINさんを起用、7月10日の納豆の日に向けてJR水戸駅で巨大鉢で納豆を練って100人に配るイベントをやりました。整理券をもらう人だけで1500人も並びましたからね。行政発の情報って、なかなか10代、20代に届かない。たとえユーチューバー目当てでも高校生と大学生に届く媒体ができたのは大きいです」
「納豆のキャラクター・ねば~る君を使ってがん検診を呼びかける動画は、すでに8万回以上再生されています。動画なんかろくに見ていなかった職員が、担当して3カ月もするとカメラアングルに文句をつけるようになっています。『あ、すごい。伸びてる、育っているなあ』と思う瞬間です」
いまや、ユーチューブの動画本数も再生回数も都道府県でトップなのだとか。県外からの視察も増えているそうです。「あれがない」「これもだめだ」と悲観的にならないで、「今度はこんなことにも挑戦したい」と前向きに話す取出さんの笑顔はとてもすてきでした。自分自身の生き方のヒントにもなりそうです。
この記事は12月3日朝日新聞夕刊(一部地域4日朝刊)ココハツ面と連動して配信しました。
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