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その応援、見られています サッカー代表戦に、差別行為「監視」部隊
サッカーの2018年ワールドカップ(W杯)ロシア大会出場に向け、日本代表が絶対に落とせない15日のサウジアラビア戦。この一大決戦を、まったく別の目で監視する人々がいます。彼らが注目するのは、スタジアム内外での差別的言動です。いったいどんな人たちなのでしょうか。(朝日新聞編集委員・中小路徹)
中心になるのは、日本でヘイトスピーチ(差別的憎悪表現)をなくすことを目指す団体、反レイシズム情報センター(ARIC)です。
試合が行われる埼玉スタジアムにスタッフ2人が観客として入り、ピッチ上で繰り広げられるサッカーの試合ではなく、サポーターや観客の言動を見守ります。
横断幕、旗、顔のペインティング、服装などに目を光らせ、声援や応援歌の内容に耳を澄ませます。そして、いつ、どのような人が何をしたかを記録します。選手バスがスタジアムに入ってくる時から監視は始まります。
一方、スタジアムの外では、ボランティアを含めたスタッフが、パソコンを操り続けます。主な監視対象はツイッター。いくつかの単語の検索をかけ、差別ツイートが見つかれば、やはり記録します。サウジ戦の場合は「中東」「サウジ」「テロ」「アラブ」といった単語のほか、審判の国籍などが主な検索条件となります。
ARICは昨年、在日コリアンや日本人の若手研究者、学生たちで結成された団体でメンバーは40人。国内全国でヘイトスピーチが繰り返される中、被害の実態をつかむ調査が今の活動の軸となっています。
サッカー日本代表戦の試合監視を始めたのは、この秋からです。8月に国際サッカー連盟(FIFA)と協力して反人種差別の取り組みをする国際的な市民団体「FARE(欧州におけるサッカー反差別活動)」の試合監視プログラムの研修を受講。
9月1日のアラブ首長国連邦(UAE)戦から始め、実際にあった差別言動について、英国に本部があるFAREにリポートを送ってきました。
これまで、UAE戦とイラク戦のホーム2試合とアウェーの豪州戦の計3試合の監視を行い、約400の差別ツイートを発見しました。
UAE戦では、「UAEのくそったれの黒人野郎。思いっきりダイブじゃねーか。シミュレーションじゃねーか。レフェリーにいくら払ったの」「なんだあの露骨な遅延行為繰り返す黒人集団。だからてめーら発展途上のままなんだよ」といった黒人差別が横行していました。
イラク戦(10月6日)で目立ったのは、「心配なのは審判が全員韓国人だという事」「ちょんこ審判やからさすがに今回はきついね」「キムチばっか食ってると八百長する頭に走るから 韓国の主審は怖い」など、韓国審判団への差別ツイート。
また、豪州戦(10月11日)では、「いまだに人種差別意識が強いオーストラリア、オセアニアの韓国朝鮮! 犯罪者の祖先を持つコンプレックス丸出しだから嫌いなんだよこの国は」など、囚人の流刑地だった豪州の歴史と南北朝鮮をからめた差別ツイートが多々見つかりました。
この状況を、ARIC代表の一橋大学大学院生、梁英聖(リャン・ヨンソン)さん(34)は「かなり深刻」と見ます。
日本も批准する人種差別撤廃条約では、人種差別を「人種、皮膚の色、世系(血筋)又は民族的もしくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限又は優先」と定めており、これに照らせば、先の事例はいずれもはっきりアウト。
梁さんは「サッカーでどれくらい差別があるかを見えるようにすることで、まず国際的な反差別基準を日本に根付かせたい」と話します。
日本では、14年にJリーグ浦和の主催試合で「JAPANESE ONLY(ジャパニーズオンリー)」と書いた横断幕が掲げられたほか、外国人選手にバナナを振る行為や、黒人選手を差別するツイートなど、サッカーに関連して人種差別が続いています。
差別感情を扇動しようという意図的な言動はもちろん許されることではありません。さらに仮に悪意がなく、軽い気持ちで行った言動でも、差別された側からすれば、痛みを感じるのは同じことです。
自分が差別する側に立たないためにも、どんな言動が差別なのかをまず知ることが大事。こうした取り組みを気持ち悪いと感じる人がいるかもしれませんが、見られているという意識が差別的言動の歯止めになることも間違いありません。サウジ戦もしっかり監視されています。
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