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2016年09月06日

池波正太郎が愛した「築地のロースカツ」 大トロ並みの脂身 かつ平

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かつ平のロースカツ。味の秘密は脂身に

かつ平のロースカツ。味の秘密は脂身に


  「まず、真ん中の一切れは何もつけずそのままで。右側は大トロ、左側は中トロだから塩としょうゆで食べ比べてみてね」。ロースカツを注文すると店主は笑顔で言った。私は覚えられず、好きなようにソースをかけて食べた。それでも怒られなかった。これが私と「かつ平」の出会い。作家・池波正太郎も愛した築地のとんかつ店だ。

かつ平ののれん。3匹の豚が描かれている

かつ平ののれん。3匹の豚が描かれている

ロースは特注、ヒレより高い


 築地といえば海鮮。確かにそうだが、海鮮以外にもおいしい店はたくさんある。かつ平もその一つだ。

 かわいらしい豚が3匹並んだのれんをくぐると、5人座れるカウンター席とテーブル席が二つ。

 「まいど、お兄さん。いらっしゃい」

 白衣に身を包んだ店主・相野谷信之さん(50)が笑顔で迎えてくれる。

 壁のお品書きには、ロースカツライス(1150円)、ヒレカツライス(1050円)、海老フライライス(1050円)、ヒレ海老ライス(1500円)、カツカレー(850円)。迷わずロースを注文すると、こう話しかけられた。

 「ヒレよりロースの方が高いでしょ。普通のお店とは逆なんですよ」

 肉は脂身を多めにした特注品。その分、仕入れ値も上がるそうだ。この脂身こそが、かつ平の最大の特徴。しっかりした旨みがある。月(にくづき)に旨いと書いて脂とはよく言ったものだ。

皿を覆うほど大きなロースカツ

皿を覆うほど大きなロースカツ

亡き父の後を継いで


 かつ平の創業は1963年(昭和38年)。信之さんの父・益雄さんがはじめた店だ。今から25年ほど前、「ああ疲れた」と横になったきり、起き上がることはなかった。動脈瘤破裂だった。

 しばらくの間、益雄さんの妻である静枝さん(75)が店を切り盛りした。

 「池波正太郎の銀座日記(全)」(新潮文庫)にはこう記されている。

 未亡人の揚げたロース・カツレツは亡き主人のカツレツそのもので、息子も調理師の免状を取り、母をたすけて懸命にはたらく。いまも変わりなく繁昌しているらしい。何よりだ。

出典: 池波正太郎の銀座日記(全)

 大学と調理師学校の両方に通っていた信之さんが、まもなく2代目として店を継いだ。

店主の相野谷信之さん(左)と、母の静枝さん

店主の相野谷信之さん(左)と、母の静枝さん

軽妙なやりとりが彩り添える


 味もさることながら、信之さんの軽妙なやりとりが、とんかつに彩りを添える。

 冒頭の「大トロ」話のように、たとえ話が大好きだ。

 「今日は特別に塩辛があるんで、ちょっと食べてみて。こっちは漬けが浅いのでアメリカン(コーヒー)。こっちはしっかり熟成しているからブルーチーズだよ」

 そんなやりとりを静枝さんは、いつも隣でほほえんで見ているだけだ。

 ご近所さんが通りかかると、トンカツを揚げている寸胴の先にあるガラス戸をあけて「おう、○○ちゃん」と声をかける。築地の路地にあるこの店は、地元に根付いている。

夏の夕暮れの築地界隈は、私が東京の中で最も好む場所の一つだ。

出典: 池波正太郎の銀座日記(全)

 今秋の移転が先送りされた築地市場。市場がなくなったら、街とともに店も変わるのだろうか。

 「いま築地にある雰囲気、そして心意気が大好きなんです。それを残しながら、このまま続けていきたいですね」

 信之さんは、にこりと笑った。

池波正太郎も愛した築地「かつ平」のロースカツ
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