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“タトゥー温泉”実現する? 温浴施設が逆転の発想「議論深めたい」
「刺青禁止」が大半を占める温浴施設。しかし、外国人旅行者や若者の誘客を見すえ、条件付きで受け入れる動きも出てきています。
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「刺青禁止」が大半を占める温浴施設。しかし、外国人旅行者や若者の誘客を見すえ、条件付きで受け入れる動きも出てきています。
「刺青を入れた方はお断りします」。そんな注意書きを掲げる入浴施設は、数多く存在します。一方、逆転の発想で、タトゥーを入れた人を対象にした期間限定イベントを検討する施設も現れています。
昨年10月の観光庁の調査によると、全国のホテル・旅館のうち、刺青を入れている人の入浴を断っている施設が約56%、断っていない施設が約31%、シールで隠すなどの条件付きで許可している店が約13%ありました(アンケート対象3768施設、うち581施設が回答)。
断る経緯としては、「風紀衛生面で自主的に」が約59%、「業界・地元事業者で申し合わせ」が約13%、「警察・自治体などより要請または指導」が約9%を占めています。
昨年日本を訪れた旅行者は、過去最多の1973万7千人。政府は2020年までに4千万人へ倍増させることを目標に掲げています。
タトゥーをめぐる文化摩擦が観光政策上の懸念材料として浮上するなか、観光庁は今年3月、入浴施設側の外国人旅行者への対応について留意点と対応事例をまとめました。
(1)シールなどで刺青部分を覆うなど、一定の対応を求める。
(2)入浴する時間帯を工夫する。
(3)貸し切りの露天風呂などを案内する。
観光庁観光資源課の担当者は「海外にはファッションや風習で刺青を入れている人も多いが、日本ではヤクザや暴力団のイメージが強く乖離がある。温泉という日本の伝統文化を、外国人観光客にもできるだけストレスなく楽しんでもらえたら」と話しています。
では、実際の温浴施設の現場は、タトゥーとどのように向き合っているのでしょうか。
さいたま市の「おふろcafe utatane」では、タトゥーをシールで隠すことを条件に、昨夏から試験的に入浴を認めています。
統括支配人の宮本昌樹さん(30)と、おふろcafeをはじめ3つの温浴施設を経営する「温泉道場」のメディア事業部長、野村謙次さん(39)に話を聞きました。
――条件付きでタトゥーをした人を受け入れているのはなぜですか。
宮本)周りにタトゥーを入れている友達がいて、そういう人たちにもお風呂に入ってもらえたら、と考えたのが最初のきっかけです。僕らはタトゥー推進派ではありませんが、絶対NGとも思わないので、まずやれる範囲のことをやってみようと。
すべての入浴施設が僕らのようにやるべきだとは、まったく考えていません。実際、僕たちのグループで運営する3つの温浴施設のなかでも、この実験をしているのは「おふろcafe」だけですから。ここは宿泊サービスがあるので、海外からのインバウンドの集客を意識した面もあります。
――どれぐらいの人が、シールを貼って入浴しているのですか。
宮本)1カ月で10~20人程度です。
――全体で年間20万人以上の利用者がいることを考えると、少ない印象です。
宮本)まだそこまで認知されていないのと、サイズ的にシールで隠れない大きさの人も多いんですよね。シールの大きさは12.8センチ×18.2センチ。B6のコミック本と同サイズです。1枚を切って複数箇所に貼るのはOKですが、2枚以上使うことはできません。
まずフロントでタトゥーをしていることを自己申告していただいて、シール代として200円を頂戴します。その後、スタッフが脱衣所に随行してシールを貼る、という形です。
――入浴後にはがして帰るのですか?
宮本)いえ、貼ったままの状態で退館していただきます。そもそも、普通のシールのようにペリペリッとキレイにはがれるものではりません。こするとポロポロとアカのようにはがれる、塗料のようなイメージです。
――トラブルになったことはありますか。
宮本)「交通費を返せ」という方はいましたが、「返せません」と伝えてお引き取りいただきました。タトゥーがギリギリ隠れないサイズだと「わざわざ遠くから来たんだし、いいでしょ」となりがちですが、そこでOKするとブレてしまいますから。
野村)「楽しみにして来たんだよね」という方で、シールで隠れず、悲しい顔で帰られた方もいましたね。サービス提供者としては申し訳ない気持ちになりました。ほとんどの方は紳士的ですよ。来館したけれど入れなかったというケースは、10%以下ではないでしょうか。
――ほかにはどういった反応がありましたか。
野村)「外国の方が来るのに、シールの種類が1色しかないのは差別的では」という意見をいただいたこともあります。問い合わせをいただいたのは日本の方ですが、センシティブな問題でもあり、考えていかなければいけないと思っています。
――日本社会のタトゥー・刺青に対する嫌悪感は、根深いものがあると思います。
宮本)やはり、威圧感・嫌悪感を抱く人はいますよね。僕も子どもの頃、家族旅行に行った先のお風呂で全身刺青の人たちに遭遇したことがあって。静かに並んでしましたけど、結構引きましたね。
ファッションのタトゥーはOKで、暴力団やマフィアはNGというルールをつくるのはかなり難しい。「暴力団ですよね」と確認するわけにもいかないですし。
――そもそも論ですが、下に刺青があることがバレバレだとすると、シールで隠すこと自体あまり意味がないのでは。
野村)そのことに対して、配慮しているかどうかの違いではないでしょうか。「わかったうえで隠している人は安心だから、仲間に受け入れよう」というような。
宮本)壁の向こう側にいる人が、こちら側に来ようとしているかどうか、ということですね。
――今後、さらに実験を拡大していく考えはありますか。
宮本)たとえば、1日限定、数時間限定という形で、タトゥーをした人をシールなしで受け入れるというのは面白いかもしれません。タトゥーをしていないお客さんには「こういう日なんですけど、大丈夫ですか」と確認して。タトゥーをしている人たちの声を聞く機会はなかなかないので、あわせてアンケートやシンポジウムも実施して、議論を深められたらいいな、と思います。
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