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八嶋智人さんが語る脇役の“うまみ”「主役にはない『遊べる』自由」
「名脇役」と呼ばれる俳優がいる。多彩な役柄を演じ分け、時に主役以上の存在感を発揮する、なくてはならない存在だ。でも、腕に覚えがあればこそ、ホントは主役をやりたいんじゃないだろうか。NHK連続テレビ小説「マッサン」や「HERO」などに出演し、現在もドラマ「早子先生、結婚するって本当ですか?」で主人公の同僚を演じている八嶋智人さん(45)に、ぶっちゃけ聞いてみた。(朝日新聞大阪本社生活文化部記者・松本紗知)
――単刀直入に聞きます。数々の作品で助演されている八嶋さんですが、「やっぱり主役がいい」という気持ちはありますか。
ないです。主役は責任があるから。脇役は主役ほどの責任はないから楽しいです。
主役は物語を背負わなきゃいけないから、あんまりふざけられないですよね。脇役はちょっと演技で遊んだり、仕掛けたりして、話を膨らませたりもするけれど、主役はちゃんと物語の中心にいないといけない。
主役は「受けの芝居」なんだと思います。まわりの登場人物から刺激を与えられて、それを受けていって、気付いたら成長しているという。脇は刺激を与える方だから。「こう来るか」と思ったら「こっちからもいくぜ!」みたいな、いろんなことができる。
あと、物語の主役ってことは、その人のことに関しては台本に誰よりも詳しく書かれている。でも脇役は、物語が進んでいくなかで、都合良く扱われるというか、途中で「こいつキャラ変わってるぞ」みたいなことがあるんですよ(笑)。そういうことをひとつひとつ考えて、自分の中で埋めていくというのも楽しい。
――俳優を始めた頃から「脇役の方がいい」と?
主役とか脇役とか、分けて考えたことがなかった。1990年に「カムカムミニキーナ」という劇団の旗揚げに参加したんですけど、「人前に出て何かやりたい」っていうそれだけが熱量としてあった。とにかく芝居ができる現場がいいっていう。
映像作品に出るようになって、最初はちょっと小ずるいような役が続いたんです。テレビで共演した先輩の俳優さんに「また同じような役ですよ」ってぼやいたら、その方は「『小ずるくて、気の小さい男といえば八嶋だ』で、いいじゃないか」。「まずは、自分の得意なものをやればいい。いつか物語を引っ張って行かなきゃいけない役が来たときに、ちゃんと背負う覚悟をしているかどうかだ」と。
そうやって続けていると、だんだん「八嶋のパブリックイメージじゃない役をやらせたい」と声をかけてくださる方が現れてきて、ラッキーでした。いろいろやってみた結果、今はやっぱり脇役の方が楽しいです。
――ちなみに、スケジュールが丸かぶりする「主演」と「助演」の仕事があって、ストーリーは同じぐらい面白い……となったら、どちらを選びますか?
それは、基本的に事務所に任せています。僕という商品のことを考えた結果だから、四の五の言わずにやってみる。自分だけの判断だと、先細っていくと思うんです。
テレビドラマだと、リハーサルの一番最初に「ドライ」(カメラを回さないリハーサル)があって、ここでは、わざと変なこともしてみます。
やりすぎだったら監督が「やりすぎだよ」と言ってくれる。僕の感覚としては、足りないものを「もっと、もっと」と埋めていくより、やりすぎたものをそいでいく方が、監督もこちらも楽です。とにかく何かしらやってみて、「いやいや、八嶋さんふざけないで」とか、「八嶋くんやりすぎだよ」とか、そう言われます(笑)
――今までの俳優生活の一番の壁、試練は何でしたか。
定期的に訪れるというか。20代前半は、とにかく場数を踏まなきゃと思って、いろんな劇団を見に行って、面白い劇団を見つけたらその人たちと飲みに行く。で、そこの座長に「すごく面白かったです。でも、あいつとあいつは面白くなかったから、俺を出した方が絶対面白い」って。そんなことばっかり言ってました。
でも、20代後半になると「どこから来るんだその自信は」と思い始める。するととたんに「うわ、あの人すげーな。あの人もすげえ。あぁ、俺はダメだ」って。
でもそこから「もう俺は俺らしくやるか。だって芝居やりたいんだもんな」と思って、30代に入って「人のことは気にせずに」って開き直ったら、30代後半で、いろんなステージでいろんな人と関わって、街でも「ワーッ!」って言われるようになって。望んでいた形ですよね。
でも40代に入って、それがしんどくなってくるんですね。じゃあ、たくさんの人が見るものなら、それはいいものか、と。いろんなところに手を広げるより「ちょっと足元を」というか。自分の好きなことはなんなんだろう、って。今はそういう時期に差し掛かってます(笑)だからまぁ、振り子ですよね。
――「私の人生ずっと脇役だ……」と悩んでいる人がいるとしたら、どんなエールを送りますか?
人生において脇役は誰一人いないですよね。その人の人生はその人が主役だから。
自分で、自分の人生の登場人物のキャスティングを楽しめばいいんじゃないですか。ドラマでいうと、あの人が○○役で……みたいな。嫌な人がいても、自分の物語のキャスティングだと思えば、少しは許せるんじゃないでしょうか。
――それでは、「会社で私はいつも脇役だ」「クラスでいつも主役になれない」という人には?
これもまた、物語だと思えば。どういう編集をするかで、主役なんて変わる。だから、物語が進んでいるのを窓際で「なんだかなぁ……」って見てるかもしれないけど、カメラがずっとその人を撮ってて、その人を中心に物語を作れば、その人が主役になる。そんなふうに楽しめばいいんじゃないでしょうか。
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やしま・のりと 45歳。俳優。「マッサン」や「HERO」など、数々のドラマや舞台に出演。バラエティーでも活躍する。所属する劇団カムカムミニキーナの公演を7月に控える。
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