IT・科学
この乗り物は、人間としての対話力が試される 動力源は人生の教訓
力まかせに引っ張ると言うことを聞かない、操縦するには対話力が不可欠……。そんな電動モーター付きの乗り物が、このほどお台場でお目見えしました。
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力まかせに引っ張ると言うことを聞かない、操縦するには対話力が不可欠……。そんな電動モーター付きの乗り物が、このほどお台場でお目見えしました。
力まかせに引っ張ると言うことを聞かない、操縦するには対話力が不可欠……。そんな電動モーター付きの乗り物が、このほどお台場でお目見えしました。なんとも人間らしいこのマシーン。開発者が「人生の教訓」と呼ぶ秘密が隠されていました。
チューリップの芽やオオイヌノフグリが芝生の間から顔を出している。大人になってからこんなに地面の世界が大きく見えたのはいつ以来だろう――。
子供の時の視点、もしくは猫や犬だったらこう見えるのかもしれないという景色が高速で次々に目の中に飛び込んでくる。
この機械は「キャリオット」という新しい電動モーター付きの乗り物で、れっきとしたスポーツだ。操縦すると、いつもとは異なる景色を眺めながら腹筋などの体が鍛えられ、スピードを競いあうことができる。
この、見たこともない奇妙なスポーツ機械。試運転のため 東京・お台場の日本科学未来館近くに姿を現すと、観光客が写真を撮り、近くの学術研究者も思わず声をかけてしまう。
「これはモーターを使った犬ぞりです」。犬のように首輪から伸びた「手綱」を手に持ってキャリオットについて説明するのは、上林功さん(37)だ。
1時間に10アンペアで動くモーターが牽引し、後ろの滑車に乗った人を運ぶ。
制御はモーターから伸びたワイヤーに取り付けられたちくわぶ状のアクセラレーターでする。最高速度は30キロ。ただ、子供も乗れるようスピードを出し過ぎないように工夫されている。
電動モーターで動く「キャリオット」だが、思い通りに動かすには「人間力」が試されるという。
「コントロールのこつは制御しすぎないことなんです」と上林さん。「力任せにひっぱると動かない。ここがこのスポーツの妙技で、おもしろい」と上林さん。生きているものと「対話」するようなコントロール方法が求められるという。手綱でコントロールしつつもモーターにうまく引っ張らせるそうだ。
あえて手綱でモーターと物理的に離したことで「人機一体」の妙を楽しめるように設計した。モーターと体が一体だと制御しやすいが、手綱でモーターと体を離すことで、あえて「機械の気持ちにならないと前に進まない」(上林さん)構造にしたという。
このキャリオットは、昨年7月に開かれたハッカソンで生まれた。
ハッカソンの主催者はその1カ月前に誕生した「超人スポーツ協会」(中村伊知哉・慶應大メディアデザイン研究科教授らが共同代表)という人間の身体能力を拡張する工学に基づいて、年齢や身体差の格差を超えて競えるスポーツを作ろうという団体だ。
上林さんは、建築士で主にスポーツ施設を作る建築コンサルタント代表だ。今は早稲田大スポーツ科学研究科博士課程でスポーツビジネスを学ぶ。
上林さんのアイデアを形にするのが、筑波大学院でスポーツトレーニング支援のロボットを研究している佐藤綱祐さん(24)と慶応大メディアデザイン研究科1年の小野田圭祐さん(24)だ。
チームでは、音声認識を使って犬ぞりの呼びかけ声で制御できないか考えたり、清水建設が進めているという屋内に設置されたGPSを使って、キャリオットが屋内の道案内に応用できないか考えたりしている。
制作費用はバッテリーが3、4万円、動力源となるインホイールモーターが6万円ほどで計10万円かかる。6台製作して、国内大会をし、ゆくゆくは国際大会にしていきたいと夢を膨らませる。現在、朝日新聞のクラウドファンディングサイトA-portで製作資金を募集している。
「力でねじふせようとすると逆に前に進まない。人生の教訓であり、人間くさいでしょう」と上林さんは話し、今後もキャリオットの改善を進めていくという。
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