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今回も当てた!ピース又吉の芥川賞と直木賞を的中させた「紙」予想
本に使われている「紙」に着目し、芥川賞・直木賞の予想をする紙のプロがいます。これまでの戦績や、今回受賞しそうな「紙」について聞いてみました。
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本に使われている「紙」に着目し、芥川賞・直木賞の予想をする紙のプロがいます。これまでの戦績や、今回受賞しそうな「紙」について聞いてみました。
夏と冬、年に2回発表される芥川賞と直木賞。前回の芥川賞では、お笑い芸人の又吉直樹さんと、受賞連絡前にデーモン閣下のメイクでカラオケをしていた、羽田圭介さんの受賞が話題となりました。きょう発表の第154回芥川賞・直木賞では、どのような作品が受賞するのか。本好きの人たちが思い思いに予想する中、本に使われている「紙」に着目するという、ユニークな受賞作予想があります。前回の芥川賞・直木賞では、「紙」を手がかりにして又吉直樹さんの芥川賞と、東山彰良さんの直木賞受賞を的中。今回の直木賞でも、青山文平さんの『つまをめとらば』を見事言い当てました。
書籍化された作品に使われている「紙」から受賞作を予想する「本文用紙占い」をするのは、「デザインのひきだし」(グラフィック社)の編集長・津田淳子さん。デザインや印刷技術を紹介するだけでなく、実物見本がふんだんに盛り込まれた雑誌を作る、紙のプロです。今回の発表前に、津田さんに予想やこれまでの受賞作に使われた紙について伺いました。
やったー!! https://t.co/3kODGxpn86
— 津田淳子 (@tsudajunko) 2016, 1月 19
――「本文用紙占い」をしようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
実は紙業界では、直木賞や芥川賞の受賞作品にどんな本文用紙が使われているかということは、かなり注目を集めているんです。というのも受賞すればその本はかなりたくさん増刷される確率が高く、それだけ紙もたくさん売れるためです。候補作が発表された後に製紙会社の方などと話をするときは、けっこう話題にもでてきていたので、以前からなんとなく受賞作にどの本文用紙が使われているのかを意識していました。
加えて、元々、個人的にも仕事柄からも紙に興味があって、書籍をはじめとする印刷物を見ては、どんな紙が使われているのかなぁと考えたり調べたりすることが多くありました。そんな中、芥川賞・直木賞・本屋大賞の受賞作品の本文用紙に、全て王子製紙の紙が使われていた年がありました(2011年)。そのときに王子製紙の方と「三冠王ですね! でも来年はどうなるんでしょうね?」などと話をしていたのがきっかけで、2012年から予想するようになりました。
――どのようにして使われている紙を判別しているのでしょうか?
実際の書籍を見て触って、紙の見本帳と見比べて特定していきます。でも、本文用紙は似た紙がたくさんあってなかなか特定できないこともあり、そういうときは匂いをかいだりもします。けっこう紙ごとに匂いの差があったりもするので、これでわかることもあるんです。あとは、製紙会社とか紙の商社の親しい人に聞いたりもします。
――どのようにして受賞作の予想を立てているのでしょうか?
ズバリ、ただ単なる勘です。でもなんとなく受賞作の紙銘柄を何年分も見ていると、流れのような物がある気がして、それに従ってという感じでしょうか。
――これまでの予想の当たり具合(戦績)について教えてください。
前回、153回の直木賞・芥川賞は両方共当てました! とはいっても、芥川賞の『火花』(本文用紙:オペラクリームマックス/日本製紙)は下馬評も高く、それも無意識に働いていると思いますし、芥川賞はもう一作品受賞しました(『スクラップ・アンド・ビルド』芥川賞発表時には書籍化されてなかった)。でも直木賞の『流』(本文用紙:ソリストN/中越パルプ工業)を当てたのは本当にうれしかったです。絶対「ソリストN」がくるという予感がしていたので。といっても本当に勘なのですが。
その前も何度か当たっていて、この予想を最初から聞いていてくれたブックデザイナーの友人から「『うちの紙を押してください』って、製紙会社からお歳暮がくるんじゃない?(笑)」と言われたこともありました。
――印象に残っている受賞作(に使われている用紙)を教えてください。
第150回直木賞の『昭和の犬』(本文用紙:アルドーレ/京橋紙業PB品)です。製紙会社ではなく、紙の販売会社のプライベートブランド品が受賞したことは、それまで聞いたことがなかったので、甲子園で県立高校が優勝したようなそんな気持ちになったのが印象的でした。
――今回の受賞作(に使われている用紙)を、どう予想していますか?
今回の直木賞は、『つまをめとらば』(本文用紙:OKプリンセス/王子製紙)が受賞するような気がしています。ここ最近、王子製紙の紙が受賞作に使われてなかったんですが、そろそろ来そうだなと言う気がして。といっても本当に単なる勘でしかないのですが。(編集部注:今回の芥川賞は、書籍化されている作品が1作品のみなので、予想はしていません)
ズバリ、今回はOKプリンセスを使った『つまをめとらば』が受賞すると思います! 最近、王子製紙の紙が使われた受賞作がなかったのでそろそろくるんじゃないかしらと思ったので。……超いい加減な理由ですみません。当たるかどうかは今晩の発表で。ドキドキ。
— 津田淳子 (@tsudajunko) 2016, 1月 19
――津田さんにとって、本において紙や装丁が持つ意味とはなんでしょうか?
本を読むときに本文用紙のことや、文字の組み方、装丁などのことをすごく意識して読むということはほとんどないと思うんです。でも意識していなくても、そうしたことは無意識に読んでいる人に影響を与えていると思っていて、それがその物語をより深く味わえる助けになってくれていると思っています。一見、ただの白い紙と思われるかもしれませんが、そこには色や手触り、表面の質感、紙のしなり具合、めくり具合、そして匂いなど、本当に多くの情報が詰まっていて、人はそれを意識しないうちにしっかりと感じ取っているんだと思います。
◇
第154回芥川賞・直木賞の候補作は以下の通り(敬称略、50音順)。選考会は、19日午後5時から東京・築地の新喜楽で開かれます。
【芥川賞】
石田千「家へ」(群像7月号)
上田岳弘「異郷の友人」(新潮12月号)
加藤秀行「シェア」(文学界10月号)
滝口悠生「死んでいない者」(文学界12月号)
松波太郎「ホモサピエンスの瞬間」(文学界10月号)
本谷有希子「異類婚姻譚」(群像11月号)
【直木賞】
青山文平「つまをめとらば」(文芸春秋)
梶よう子「ヨイ豊」(講談社)
深緑野分「戦場のコックたち」(東京創元社)
宮下奈都「羊と鋼の森」(文芸春秋)
柚月裕子「孤狼の血」(KADOKAWA)
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