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2015年10月24日

障害者プロレス、走り続け25年 健常者とも試合「こんな世界が…」

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障害者プロレス「ドッグレッグス」の試合。緊張感で包まれた、二分脊椎症の鶴園誠選手と関口洋一郎選手の熱戦=遠藤啓生撮影

障害者プロレス「ドッグレッグス」の試合。緊張感で包まれた、二分脊椎症の鶴園誠選手と関口洋一郎選手の熱戦=遠藤啓生撮影

 今年、障害者プロレス団体「ドッグレッグス」が立ち上げから25年を迎えました。脳性まひや知的障害、聴覚障害など、これまで100人を超えるレスラーがリングに立ち観客を魅了してきました。10月に開かれた興行も会場はほぼ満席。外国人監督による映画がアメリカやカナダの映画祭で上映され、海を越えて注目されています。きれいごとだけではないリングの魅力とは?

どんな気持ちが残るか不安…でも、ゲラゲラ笑った

 10月4日、東京都世田谷区の北沢タウンホールで開かれた障害者プロレス団体「ドッグレッグス」(DL)の89回目の興行「『超害者』~毒にも薬にもならないならいっそ害になれ~」。18人のレスラーが登場し、約300人の観客がときに手に汗握り、ときに笑い声を上げて試合を観戦しました。

 なかでも、二分脊椎症の鶴園誠選手(38)と聴覚障害の陽ノ道選手(32)の最終試合は緊張感に包まれ、身を乗り出し応援する観客もいました。障害者が殴り合う「非日常の空間」を訪れる観客は、ほとんどが健常者です。

 陽ノ道選手のツイッターを見て初めて観戦したというつくば市の大学3年生寺町六花さん(21)は、「どんな気持ちが残るか不安だった」と言います。

 しかし、試合前に流れる選手の紹介映像やテンポのよいリングアナウンスも相まって「とにかくゲラゲラ笑った。障害があるから配慮しなければいけないというのはなくて、そのままの痛快さみたいなのがよかった」と笑みをこぼしました。

 

【動画】鶴園誠選手と陽ノ道選手の熱演=遠藤啓生撮影

「お金をかけて来たい、熱さがある」

 4回目の観戦という大学4年の男子学生(27)は、試合後選手に握手を求めていました。「社会的に庇護しなければならないというイメージの障害者が、プロレスで戦っている。大丈夫か?と思うけど、お金をかけて毎回観に来たいくらいの熱さがある」と興奮冷めやらぬ様子でした。

 選手数人が知り合いという大学職員奥山俊博さん(50)は自身もリウマチのため足が不自由で、電動車いすで来場しました。「(DLは)障害観を変える一つの切り口だと思います。普段穏やかな人でも勝ちたいと思うから殴り合う。戦いたいと思っている障害を持った人もいるんだと知ってもらう意味でおもしろい」。

 新聞記事がきっかけて20年ほど前に初めて観戦し、「こんな世界があるんだなとセンセーショナルだった。障害がある人というと、悲しい・つらい部分が全面に出ていた。今もそうだが、新鮮ですよね」と話してくれました。

【動画】二分脊椎症のレスラー鶴園誠選手=遠藤啓生撮影

きっかけは女子大生の取り合い

 DLの旗揚げ興行は、1991年4月。都内のボランティアセンターで、鍋をゴング代わりに始まりました。

 きっかけは、脳性まひの障害者2人がボランティアの女子大生を奪い合った喧嘩でした。プロレス技を使った取っ組み合いをする2人を見て、代表の北島行徳さん(50)が思いついたそうです。

 北島さん自身は健常者です。2011年に引退するまでリングに立ち、障害者を相手に手加減なしで戦ってきました。スキンヘッドに黒のパンツ姿で障害者を殴り蹴る姿は悪役そのもの。「障害者がプロレスをしたり、障害者と健常者が戦うところを人に見せることで世の中が変わるんじゃないかと思っていた」と話します。

 「当時はお客さんに対する嫌がらせだ、みたいに思っていましたね。障害者が裸で苦しんでいる。あるいは健常者である僕が障害者を痛めつける。障害者が苦しんでいるようすを目の当たりにして、それを批判する権利がお前たちにあるのか、くらいにねじれていました」

障害者も健常者も闘うドッグレッグスのリング=遠藤啓生撮影

障害者も健常者も闘うドッグレッグスのリング=遠藤啓生撮影

脳性まひ、ほぼ動かずやられるばかり

 重度の脳性まひの障害者でさえもリングに上がります。リングではほぼ動かず、やられるばかりという選手も。うつ病や統合失調症の精神障害者も参戦し、数々のパフォーマンスをしてきました。

 「障害者が見せ物にされている」「一方的に痛めつけることになる」。

 障害者プロレスを続ける上で、批判は避けて通れませんでした。

 しかし、北島さんは「『見せ物』と批判する人は、障害者は『障害を隠したいはず』という思い込みがあると思います。うちの選手だけかもしれないが、障害者でも体を激しく動かしたい、人から見られたい、称賛を受けたいという思いがすごく強い。これこそ人間らしい。誰しもその気持ちはある。見ないのに勝手なことを言っているのなら、生で見てもらえませんか」と言います。

障害者と健常者を闘わせる理由

  顔がはれたり、出血したり、脳振とうを起こすこともあります。それでもなおリングに立ち続けるのはどうしてでしょうか。

 「障害者の人たちをアピールしたいと思うし、みんなが喜んでくれるのがうれしい」。女子大生を取り合い、立ち上げのきっかけにもなった一人、脳性まひのサンボ慎太郎選手(46)はゆっくりこう話します。

 25年、ずっと戦ってきました。年齢による衰えや新しいことにチャレンジしたいという気持ちから、2010年ごろ引退を考えました。しかし、今は「まだ続けたいと思った。障害者と健常者に見えない橋をかけたい」と話します。

 大腸がんにおかされうつ病患者でもある精神障害の中嶋有木選手(41)は、初期のころからレフェリーとして参加し、今では主要選手の一人です。中嶋選手は精神障害者を「目に見えない障害に苦しんでいる」人たちだと訴え、リングに立っています。感情の起伏が激しく、腕などには自傷行為の痕も残ります。がんやうつ病をカミングアウトしたことで、同じ悩みを持つ人たちとの接点もできたそうです。

 「『自分みたいな、下には下の人間がいる。でも自分は好きなことやってるぞ』と知ってもらいたい。こんなやつもいるなら生きててもいいかなと思ってほしい」

リング上で寝技を仕掛ける脳性まひのサンボ慎太郎選手(左)=遠藤啓生撮影

リング上で寝技を仕掛ける脳性まひのサンボ慎太郎選手(左)=遠藤啓生撮影

「手加減している余裕はないですよ」

 健常者レスラーの一人、虫けらゴロー選手(33)は、人間関係がうまくいかず中学2年から引きこもり生活をしていました。カウンセラーの紹介でDLを知り、練習やミーティングに顔を出すうちに「ひきこもりレスラー」としてデビューが決まったそうです。
 興行後のアンケートでは、「虫けら選手がよかった」という声も多くあります。しかし、本人は「ほかの人はいろいろなことを表現する場だけど、自分はやれと言われたからやるだけ」と控えめです。

 健常者が障害者を殴ることに抵抗はなかったのかと尋ねると、「緊張とか思いやりよりも、殴らなければ殴られる。障害があっても結婚していたり、女子人気が高かったり、安定した生活ができたり、いいよなって思う。手加減している余裕はないですよ」。

【動画】健常者レスラーの虫けらゴロー選手=遠藤啓生撮影

海外でも衝撃「自分の偏見を鏡で見ている感じ」

 今年、ニュージーランド出身のヒース・カズンズ監督(42)が撮ったドキュメンタリー映画「Doglegs」が完成しました。

 映画は9月にアメリカ・テキサス州で開かれた映画祭に出品し、ドキュメンタリー部門で最優秀監督賞(Best Director in the documentary section)を受賞。海外でも注目されています。

 フリーの映像作家として日本にいたヒース監督は、友人の紹介で2010年5月に初めてDLを観戦したそうです。

 「重度障害者で自分の力でリングに入れず、転がされてリングインする選手がいた。最初はみなさん自分の意志でそこに上がっているのかもわからなくて、笑いものにされたり、健常者のエンタテメントの為に使われているのかとか、そういう心配を抱えていました。でも、やっぱり違うなって見ていてわかる」


Doglegs (2015) - Official Trailer from Heath Cozens on Vimeo.

【動画】ドキュメンタリー映画「Doglegs」のトレーラームービー

 同時に、気持ちの整理がつかなくなることもありました。

「それでまた複雑になる。いろんな気持ちをどう受け止めればいいのか、どう見ればいいのか。本当に自分に問いかけなきゃいけないことがたくさんありました。興奮、混乱、喜び、励ましたい気持ち、批判。見てていろんな感情がある。健常者が障害者とやりあって、障害者がぼこぼこにされている。それは良くない、でもいいんじゃないとか」

 やがて、心が動かされている自分を発見します。

 「永遠と続く思考迷路みたいなものができちゃって、脳が働くし、心が動かされる。自分の偏見を鏡で見ている感じですね。自分でそれまでに知らなかった偏見に出会う機会を与えてもらいました」

ガッツポーズをする知的障害の天才まるボン選手=遠藤啓生撮影

ガッツポーズをする知的障害の天才まるボン選手=遠藤啓生撮影

「笑って泣ける。ショックも」

 それから約5年かけ、選手の内面に迫る作品が完成しました。リングで輝いている選手たちの日常やリング裏を描いています。

 日本では、来年1月から東京都中野区の「ポレポレ東中野」と世田谷区の「トリウッド」で上映予定です。

 ヒース監督は言います。

 「僕が経験した体験を再現したいんです。感情のジェットコースター。変に混じり合った複雑な気持ち。本当におもしろい。笑って泣ける。ショックという刺激も受けられる」
 
 「映画なので楽しく見てもらないとダメだと思っています。でも、エンタテイメントの中にいろんな思いがこもっている。何を見たのか。それをどういう風に受け取ればいいのか。映画が終わったときも考えてもらいたいんです」

障害者プロレス きれいごとだけじゃないリングの魅力
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愛人選手(ラマン)=遠藤啓生撮影
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