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補助犬「入店拒否」問題 実は「日常茶飯事」…2020年への悩みも

大阪の百貨店に入る二つの飲食店で、聴導犬同伴の女性が「入店拒否」された問題。「身体障害者補助犬法」の〝生みの親〟に取材しました。

補助犬法「生みの親」の高柳友子さん(右)と、横浜市の介助犬ユーザー・佐藤美樹さん。中央に介助犬「いろは」=長谷川健撮影
補助犬法「生みの親」の高柳友子さん(右)と、横浜市の介助犬ユーザー・佐藤美樹さん。中央に介助犬「いろは」=長谷川健撮影

目次

 大阪の百貨店に入る二つの飲食店で、聴導犬同伴の女性が「入店拒否」された問題。ネット上では大きな反響がありました。「いまだに拒否されるんだ」と驚きの受け止めもある一方で、「実際のところ補助犬って清潔なの?」「飲食店だって拒否できる場合があるのでは」などの声も。補助犬の受け入れなどを取り決めた「身体障害者補助犬法」の〝生みの親〟で医師の高柳友子さんによると、入店拒否は「日常茶飯事」で、2020年パラリンピックへの危惧も浮上するなど、様々な悩みがありました。

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入店拒否、あってはならないが「日常茶飯事」

取材には介助犬ユーザー歴8年の佐藤美樹さん=横浜市=も協力して下さいました。

――まず始めに「入店拒否」に注目が集まったケースとして今回の百貨店のことを聞きたいと思います。この百貨店は、補助犬同伴を先進的に進めてきた店でもありました。そんな店舗でも入店拒否が起きてしまったというところに衝撃がありました。

高柳「正直なところ、同伴拒否はけっこうあるんですよね。私たちとしてはよくある話なので、もちろんあってはいけないことなんですが、なんでここまで大きな事態になるのかなという気持ちも半分ではあるんですよね」

佐藤「日常茶飯事ではあるんですが、2店立て続けに断られたというのはショックですね。私は2店断られたらそこでチーンですよ。私もよく断られることはあります。どう見ても店がすいているのに『ただいま、お席がありません』とか、『犬は毛が散るので困ります』とか。『衛生面にはとても気をつけています』と言っても『それでも困ります』と。そこでは厚労省の冊子を手渡し、『これを読んで理解して頂けるなら入店可のシールを貼って下さい』とシールも渡しましたね。常に冊子はいくつも持っているんです」

ひもをくわえてドアを開ける介助犬=社会福祉法人日本介助犬協会提供
ひもをくわえてドアを開ける介助犬=社会福祉法人日本介助犬協会提供

――大きな店でも入店拒否はまだありますか。

佐藤「大きな商業施設の中に入っている飲食店では多々ありますね。これだけ介助犬や盲導犬、聴導犬が有名になってきているのに、そういう知識がないというのはとても残念ですよね」

高柳「補助犬を断るというのはお客さんも断っているのと一緒だということも分かってほしいですよね。店としては犬だけを断っているつもりだったのかもしれないですが、実際はそうじゃないんです。ただ、アルバイトなど入れ替わりの激しい人たちに向けてこうしたことを指導するのは大変ですね。また、大きな組織ならではの指示の伝わりにくさというのもあると思いますね」

――補助犬法の成立目的として、高柳さんは(1)障害者の自立、社会参加と社会復帰の推進、(2)障害者の生活の質の向上、(3)介護者の負担軽減の三つを挙げておられましたね。

高柳「障害者差別解消法が来年4月に施行となりますが、私はこの三つはこの法律に包括されるべきものだと思っていましたね。補助犬法はなくてもいい、とゆくゆくはなればと。『犬を自立手段としている人も、犬を理由に差別されてはならない』とほんの一文入れればいいんですよ。『補助犬法は最初の障害者差別禁止法』という学者もいて、それは確かにそうだと思いました」

――今回の入店拒否を受けての反応ですが、「いや、飲食店の受け入れ義務は絶対ではないんだ。やむを得ない場合は拒否できるんだ」というようなネット上の意見もありました。改めて確認すると、そこのところはどうでしょうか。

高柳「受け入れなければならないです。商業施設、飲食店、病院、ホテルなど不特定多数の人が利用する民間の施設にはすべて受け入れ義務があります。ただ特定多数となる場合はまた違ってきます。特定多数とは旅行ツアーとか介護施設とか、一定の契約関係がある場合ですね」

補助犬は清潔?

――さて、「補助犬は清潔に保たれているのか」といった声もあるんですが、この点はどうでしょうか。

高柳「ユーザーが衛生管理、行動管理、健康管理に全責任を持って人に迷惑をかけないという国が定めた基準の試験に合格してきている、こんなに厳しい基準を作っているのは日本だけだと知ってほしいんですよね」

――ユーザーとしてどのようなことに気をつけていますか。

佐藤「ブラッシングをかけたり、家族に手伝ってもらって爪を切ったり、お風呂に入れたりということはもちろん、私自身は外出時に服を着させています。毛が飛び散らないようにですね」

佐藤「正直なところ、介助犬を連れて歩くのは大変なんですよ。面倒くさいことの方が多いんですが、ただ使命感あるのみです。この犬と一緒に訓練を頑張り、認定試験に合格したんで、自分がしっかりしないと誰が面倒を見てあげるの?と思います。私にとってはいろは娘のような存在ですし、いろはも私を頼ってくれているはずですし、それに応えてあげないといけないという使命感はありますね」

落とした携帯電話を拾う介助犬=同協会提供
落とした携帯電話を拾う介助犬=同協会提供

「うっかりが許されない」

佐藤「私が何か粗相をすると、次のユーザーさんに迷惑をかけてしまうというのが一番怖いので、それは本当に気をつけるようにしています。『うっかり』というのが許されないので、ちゃんといろはの顔をよく見極めて外に連れて行くようにしています。介助犬と外に出ることはいいことも確かにありますが、大変なことの方が数倍もありますね。けれどもそれを自分で管理できるようになるというのが、私にとっては自分自身の目標でもあったので、自分自身を変えるには、この子を管理できないのなら自分は何も変われないなと思い、試験にトライして無事合格しました」

高柳「そのハードルの高さについてはいろいろ批判を受けるんです。『だから介助犬、聴導犬が増えないんじゃないか』と。ただ、ハードルを下げて増えたところで『あんなにしつけができてないなら、もう補助犬は来てほしくない』ということになりかねないですよね。そうなるとちゃんとしている人まで社会参加ができなくなってしまいますよね」

佐藤「私にとってハードルが高い試験でも、それを越えられるというのは、私自身がちゃんと管理ができるということの証明でもあるんです」

高柳「認定を受けて外に出るということの意味は合同訓練の中で、相当重たく教育させていただいています。だから、看板を背負っているという意識は補助犬ユーザーにありますし、それを社会はもっと理解してほしいです」

パラリンピックに向けた備え

――そして2020年にパラリンピックがやってきます。高柳さんご自身、危惧していることがあるそうですね。

高柳「そうですね。例えば日本では補助犬というと盲導犬、介助犬、聴導犬の三つだけですが、これがアメリカになるとその定義が一気に広がります。犬に限っていなくて『サービス・アニマル』というような言い方がされて、現実問題としてイグアナやヘビとかまで『私にとっての介助動物なんだ』と主張することが過去に起きちゃってます。そうした人が、パラリンピックの時に選手として来日することは可能性として低いでしょうが、観客として来る人がいないとは言い切れない。たくさんの障害を持った人が来られますからね。で、配慮されなかったということで大きな問題に発展することになりかねない。そうした事態を防ぐために、『日本では身体障害者補助犬法に定める3種のみが補助犬として社会的アクセスが認められている』と海外に向けてはっきり示さないといけないですよね」

――ありがとうございました。

     ◇

 <たかやなぎ・ともこ>リハビリテーション科医、医学博士。2002年の補助犬法の法制化では、超党派の国会議員連盟の事務局スタッフとして貢献。2014年度に東京弁護士会人権賞を受賞した。社会福祉法人「日本介助犬協会」事務局長。
 <さとう・みき>2002年に交通事故で脊髄を損傷、車いす生活に。07年からラブラドール・レトリバーの介助犬「いろは」(メス、10歳)のユーザー。

 <身体障害者補助犬法>身体障害者の自立と社会参加の促進を目的に2002年5月に成立した。同年10月から、公共施設や公共交通機関などに「補助犬」(盲導犬、介助犬、聴導犬)の同伴受け入れを義務づけた。03年10月からは完全施行となり、不特定多数が利用する飲食店や病院などの民間施設にも対象が広がったが、拒否した場合の罰則はない。一方、同法は使用者に対しても認定を受けていることを示す表示や衛生管理などを義務づけた。

 10月31日と翌11月1日、羽田空港の国際線ターミナル4階で日本身体障害者補助犬学会の市民公開講座があります。「介助犬サポート大使」を務めているプロフィギュアスケーターの安藤美姫さんが参加。盲導犬、聴導犬、介助犬によるデモンストレーションが行われます。市民公開講座は入場無料。学術大会は参加費要。

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