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「イスラム国」とアルカイダ、実は絶縁状態 なんで対立?違いは?

日本人の人質事件、フランスの週刊新聞襲撃など、テロが相次いでいます。人質事件は「イスラム国」、新聞襲撃はアルカイダで、それぞれ別の組織です。反欧米を掲げる2つの組織は、何が違うのでしょうか?

米連邦捜査局(FBI)が情報提供を求めている、過激派組織「イスラム国」のビデオに登場した男性
米連邦捜査局(FBI)が情報提供を求めている、過激派組織「イスラム国」のビデオに登場した男性 出典: FBI提供

 日本人の人質事件、フランスの週刊新聞襲撃など、テロが相次いでいます。人質事件は「イスラム国」、新聞襲撃はアルカイダで、それぞれ別の組織です。反欧米を掲げる2つの組織は、何が違うのでしょうか?

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【動画】「命を救ってください」後藤さん母、自ら希望して会見
出典: 後藤さん母「命を救ってください」 自ら希望して会見:朝日新聞デジタル

アルカイダ、ビンラディン容疑者が結成

 アルカイダは、元々、2001年9月の米同時多発テロの首謀者とされるサウジアラビア人のビンラディン容疑者が結成した国際テロ組織です。旧ソ連のアフガニスタン侵攻と戦うイスラム戦士を支援するために1988年ごろ結成されました。
 1991年の湾岸戦争で米軍がサウジアラビアに駐留すると、米同時多発テロにつながる対米聖戦に転換します。2011年5月にパキスタンで米軍特殊部隊の攻撃でビンラディン容疑者は死亡し、ナンバー2だったエジプト人のザワヒリ容疑者が最高指導者になりました。
 ザワヒリ容疑者はインターネットなどを通じて声明を発表、世界中のアルカイダ系組織やシンパに対し、依然影響力があるとされています。

カタールの衛星テレビ・アルジャジーラで放映されたビンラディン氏の近影(右)=2001年10月5日、同テレビのホームページより
カタールの衛星テレビ・アルジャジーラで放映されたビンラディン氏の近影(右)=2001年10月5日、同テレビのホームページより
2001年9月の米同時多発テロの首謀者とされるサウジアラビア人のビンラディン容疑者が結成した国際テロ組織。旧ソ連のアフガニスタン侵攻と戦うイスラム戦士を支援するために1988年ごろ結成された。91年の湾岸戦争で米軍がサウジアラビアに駐留すると、対米聖戦に転換し、98年のタンザニア・ケニア米大使館同時爆破事件など複数の大規模テロを行った。11年5月にパキスタンで米軍特殊部隊の攻撃でビンラディン容疑者は死亡し、ナンバー2だったエジプト人のザワヒリ容疑者が最高指導者になった。
2013年1月29日:アルカイダ脅威いまも ビンラディン容疑者死後も「理念」拡散 :朝日新聞紙面から
アルカイダ創設者のビンラディン容疑者はパキスタンの首都イスラマバード近郊に潜伏中、2011年5月に米軍の作戦で殺害された。後継はエジプト出身の医師のザワヒリ容疑者。現在潜伏しているとされるのが、アフガニスタン国境に近いパキスタン北西部の部族地域周辺だ。米国はこの地域で無人機による爆撃を繰り返しており、アルカイダの外国人戦闘員の多くはすでに周辺地域を離れているという。ただ、ザワヒリ容疑者はインターネットなどを通じて声明を発表、世界中のアルカイダ系組織やシンパに対し、依然影響力があるとされる。
2013年1月29日:アルカイダ脅威いまも ビンラディン容疑者死後も「理念」拡散 :朝日新聞紙面から

アルカイダ系組織、新聞社襲撃への関与主張

 スンニ派の国際テロ組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」は、フランスの週刊新聞「シャルリー・エブド」襲撃への関与を主張しています。事件への関与を認める声明をユーチューブで発表。AFP通信によると、預言者を風刺したことへの報復として襲撃したとし、ザワヒリ容疑者の指示だとしています。

襲撃された週刊新聞「シャルリ-・エブド」の編集部の現場近くで、献花した後に周囲を歩く岸田外相(中央)=2015年1月18日、パリ、松尾一郎撮影
襲撃された週刊新聞「シャルリ-・エブド」の編集部の現場近くで、献花した後に周囲を歩く岸田外相(中央)=2015年1月18日、パリ、松尾一郎撮影
一方、イエメンを拠点とする「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」は14日、シャルリー・エブド襲撃事件への関与を認める声明をユーチューブで発表した。AFP通信によると、預言者を風刺したことへの報復として襲撃したとし、国際テロ組織アルカイダの指導者ザワヒリ容疑者の指示だとしている。
風刺画再び、仏紙発売 売り切れ続出、500万部に増刷へ 「侮辱」イスラム反発:朝日新聞デジタル

「イスラム国」、元々はアルカイダ系勢力から生まれたけど・・・

 「イスラム国」は、アルカイダ系などのスンニ派過激派勢力が2006年に合流した旧イラク・イスラム国(ISI)が前身です。米軍の掃討作戦でいったん弱体化しましたが、シリア内戦の間に組織として勢いを取り戻します。指導者アブバクル・バグダディ容疑者は昨年6月、預言者ムハンマドの後継者とされる「カリフ」を名乗り、イスラム国家の樹立を一方的に宣言しました。

「イスラム国」は、アルカイダ系などのスンニ派過激派勢力が2006年に合流した旧イラク・イスラム国(ISI)を前身とする。米軍の掃討作戦でいったん弱体化したが、シリア内戦の間に組織として勢いを取り戻した。指導者アブバクル・バグダディ容疑者は昨年6月、預言者ムハンマドの後継者たるカリフを名乗り、イスラム国家の樹立を一方的に宣言した。
 シリア北部ラッカを「首都」とし、統治は極端なイスラム法の解釈に基づく。
拘束、渦巻く恐怖 「イスラム国」、抑圧し支配:朝日新聞デジタル

「イスラム国」とアルカイダ、絶縁状態

 「イスラム国」と「シャルリー・エブド」襲撃で浮上した「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」は、アルカイダの流れをくむ点では同じですが、実は絶縁状態にあります。

 2011年に始まったシリア内戦では、当初、アルカイダ系組織と協力してアサド政権と戦いました。しかし、残虐行為を繰り返す「イスラム国」にアルカイダ指導部が反発。バグダディ容疑者がカリフを名乗り、世界のイスラム教徒に対して自らに「忠誠」を誓うよう求めたことで関係悪化が決定的となりました。

 「イスラム国」がアルカイダに先んじてカリフ擁立を宣言した背景には、資金集めや戦闘員の勧誘をアルカイダより有利に進める意図があったとみられています。

人質にされた日本人とみられる映像=動画サイト「ユーチューブ」から
人質にされた日本人とみられる映像=動画サイト「ユーチューブ」から
「イスラム国」とAQAPは国際テロ組織アルカイダの流れをくむ点で一致するが、実は絶縁状態だ。「イスラム国」は2006年にイラク国内の過激派組織が合流。名称を変えながら活動を続けてきた。11年に始まったシリア内戦にも介入。当初はアルカイダ系組織と手を携えてアサド政権と戦った。しかし、残虐行為を繰り返す「イスラム国」にアルカイダ指導部が反発。バグダディ容疑者がカリフを名乗り、世界のイスラム教徒に対して自らに「忠誠」を誓うよう求めたことで関係悪化が決定的となった。「イスラム国」がアルカイダに先んじてカリフ擁立を宣言した背景には、資金集めや戦闘員の勧誘をアルカイダより有利に進める意図があったとみられる。
「イスラム国」とは― どんな組織?人々の暮らしは?他の過激派との関係は?:朝日新聞デジタル

若い「イスラム国」

 アルカイダに比べると「イスラム国」は若い集団です。「イスラム国」の指導者アブバクル・バグダディ容疑者は40代、一方のアルカイダの最高指導者のザワヒリ容疑者は60代で20歳の開きがあります。
 「イスラム国」がユーチューブに投稿する動画で目立つのは若者です。戦士である普通の若者が、「イスラム国」の正義を訴える作りになっています。

「イスラム国」の公正を強調する動画だけでなく、「イスラム国」からユーチューブにアップされた画像に出てくるのは、若者たちである。政教一致の指導者「カリフ」を名乗るバグダディの演説や宗教見解はあまり目立たない。宗教者として年配者も出てくるが、ほとんどの登場人物は若者たちであり、普通の戦士の若者が、イスラムの教えをとうとうと唱え、イスラム国の正義を訴える。中東マガジンに掲載したイスラム法学者中田考氏の「イスラム国訪問記」の中で、シリア北部になる「イスラム国」の支配地イドリブ県の知事が「30歳そこそこ」という下りがある。カリフを宣言したバグダディですら43歳である。「ビンラディンの後でアルカイダを率いるザワヒリは63歳であり、バグダディとは20歳の開きがある。「イスラム国」というのは、丸ごと若者集団と考えたほうがいいだろう。
朝日新聞 - 「イスラム国」と「アラブの春」の関係は - Asahi中東マガジン

理念で結束するアルカイダ、理想郷めざす「イスラム国」

 アルカイダは各地にグループがありますが、それを統合する司令部があるわけではありません。対する「イスラム国」は、行政的な組織を持ち、経済的な活動もしていると言われています。理想郷としてのイスラム国家を掲げ、宣伝戦略を駆使しアラブ諸国や欧米のイスラム教徒の若者を引きつけてきました。

アルカイダは各地にグループがあるが、それを統合する司令部があるわけではなく、それぞれが独立して動く。過激派に詳しいエジプトのアハラム戦略研究所のディーア・ラシュワン所長はかつて「アルカイダとは、理念と手法を模倣するブランド名のようなものだ」と語った。
2013年1月29日:アルカイダ脅威いまも ビンラディン容疑者死後も「理念」拡散 :朝日新聞紙面から
「イスラム国」は「国家」ではないものの、まるで国家のような論理に基づいて動いています。「国民」を養い、行政的な組織を持ち、経済的な活動もしています。「国」として機能するには常に戦士が必要で、「国民」を支えるのとあわせて資金が必要になります。戦士をひきつけ、交渉をして資金を引き出そうとする。そこがアルカイダとの違いです。
(オピニオン)「イスラム国」邦人人質の衝撃 臼杵陽、小川和久、野中章弘、ピエール・ラズー:朝日新聞デジタル
一方、「イスラム国」は昨年6月にカリフ(預言者ムハンマドの後継者)制国家を宣言し、欧米人人質や敵対者を斬首するなどして恐怖支配を敷いた。その半面、行政も運営し、理想郷としてのイスラム国家をうたい、巧みな宣伝戦略でアラブ諸国や欧米のイスラム教徒の若者を引きつけてきた。
過激派、活発化の恐れ 仏襲撃事件に“称賛”続々 イスラムへの攻撃に「警告」:朝日新聞デジタル

 実態がなく理念を共有するアルカイダ。一方の「イスラム国」は、アルカイダよりも残虐な事件を起こして若者を集め、国として存在しようとする。両者にはそんな違いがあるようです。

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