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くまモンほっぺ紛失事件の真相 仕掛け人が明かす

くまモンが「赤いほっぺ」を無くした事件。昨秋に話題をさらいましたが、このキャンペーンには周到な計画がありました。ブームを作る仕掛けとは?

ほっぺのないくまモンはただのくま!?
ほっぺのないくまモンはただのくま!? 出典: 熊本県広報課

目次

 くまモンが赤いほっぺを無くしたのって覚えていますか? 昨年秋にネットで話題となった熊本県庁のキャンペーン。実はこれ、20年以上前にあった奇抜な宣伝にルーツがあります。最近、海外でも評価された「ほっぺ紛失事件」を改めて取材しました。仕掛け人たちが今だからこそ明かす事件の真相とは!?

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海老様も探した赤いほっぺ

 「ボク、なんか変じゃないかモン?」
 事件は2013年10月30日朝、くまモンのつぶやきから始まりました。
 チャームポイントの赤いほっぺを無くしたくまモンは、東京・銀座にある熊本県のアンテナショップ前で急きょ捜索を開始!


 その後、東京ドームシティで観覧車の上から探したり、警視庁の「ピーポーくん」を訪ねて遺失物届けを出したり。

捜索活動3日目、警視庁の「ピーポくん」を訪問して遺失物届を提出した=2013年11月1日
捜索活動3日目、警視庁の「ピーポくん」を訪問して遺失物届を提出した=2013年11月1日
出典:熊本県広報課

 4日目、熊本県庁が「赤い特産品を食べて、ほっぺが落ちた」と種明かしをしました。

くまモンのほっぺがなくなった!? THE MOVIE 出典: 熊本県

 
 ちなみに、市川海老蔵さんも「ほっぺ探し」をしていたのってご存じですか?

 くまモンは12月11日夜、東京・銀座の歌舞伎座を訪れ、歌舞伎俳優の市川海老蔵さんに「ありがとまと」と銘打った熊本県産トマトを手渡した。
 くまモンが赤いほっぺをなくした際、長女の麗禾(れいか)ちゃん(当時2)がくまモンファンという海老蔵さんが、同県庁に電話して状況を尋ねるなど「協力してくれたことへのお礼」という。
朝日新聞デジタル
市川海老蔵さんに「ほっぺ探し」のお礼=2013年12月11日
市川海老蔵さんに「ほっぺ探し」のお礼=2013年12月11日 出典:朝日新聞デジタル

 これがご縁で舞台共演もしてます。

 くまモンが3月6日、歌舞伎デビューを果たした。初舞台は熊本県山鹿市の国指定重要文化財の芝居小屋・八千代座で始まった市川海老蔵さん(36)の公演。
 海老蔵さんが昨年秋、「共演してくれないか」とオファーし、実現したという。この日のくまモンは、特注した衣装と獅子頭、足袋姿で現れた。
朝日新聞デジタル
市川海老蔵さんと共演するくまモン=3月6日、熊本県山鹿市
市川海老蔵さんと共演するくまモン=3月6日、熊本県山鹿市 出典:朝日新聞デジタル

ルーツは「消えた 〇〇〇〇」

 くまモンが赤いほっぺを落とすーー。この奇抜なアイデアを考えたクリエイティブディレクター、和久田昌裕さんにインタビューをしました。

クリエイティブディレクターの和久田昌裕さん(電通九州)
クリエイティブディレクターの和久田昌裕さん(電通九州)


 「キャンペーンをつくるのではなく事件をつくろう! という企画書を作りました。浅草の雷門や東大の赤門、赤坂サカス(探す)などボツにした場面もあります。くまモンのスケジュールがパンパンで、4日間が限度だったからです。ただ、ほっぺを無くすのは、早い段階で決めていました。そんなことが許されるのか。熊本県庁内でも賛否があったようです」

 「企画を提案しようと思った時に、すごく似た昔の事例が頭にありました。『消えた かに道楽』というキャンペーンです。大阪の『かに道楽』の看板がある日、突然無くなるのです。ネットもSNSも無い時代なので、くまモンのつぶやきから始まるという起点の作り方は違います。ただ、すでにあるモノを無くすという手法は一緒で、昔からあったと言えますね」

動くカニとして有名な大阪・ミナミのシンボル「かに道楽」の看板=1987年5月
動くカニとして有名な大阪・ミナミのシンボル「かに道楽」の看板=1987年5月
出典: 朝日新聞

 「消えた かに道楽」を朝日新聞のデータベースで検索してみると、過去の記事がヒットしました。

おらんカニでも使いまっせ 「かに道楽」の“これぞ大阪商法”

 大阪・ミナミの道頓堀にあるカニ専門店「かに道楽」の巨大なカニの看板が消えた。縦7メートル、横2.3メートルの、このカニ(写真)、待ち合わせの目印としても知られているが、先月末から「JR東海CM出演中」の横断幕にとって代わられている。
 
 このCMはカニが「大阪から出よう」と呼びかけるもので、「モデルに使わせて」というJR東海の要請に応じた。現在、関西地区で放映中。この間を利用して、本物は実はCM開始後の先月31日から、点検中。
朝日新聞、1992年2月5日朝刊社会面

 10日後には、こんな記事も。思いっきり、かぶせてきてますね。

今度は「くいだおれ人形」消えた! カニ食べに丹後へ旅行?

 ミナミのシンボル、かに道楽の巨大なカニが消えた道頓堀で、今度はかに道楽の向かいにある「くいだおれ」のくいだおれ人形(高さ2.3メートル)が消え、奇妙な“看板はずし”合戦となっている。
 
 カニはJR東海のコマーシャル「出演」の名目で一時撤去されたが、こちらも負けじ、と「くいだおれ」側は「カニを食べに日本海側に行った」との触れ込みで連れ出した。今、人形は丹後・久美浜温泉につかり、宴会にも出て「ごきげん」だという。
朝日新聞、1992年2月15日朝刊大阪面
丹波行きの2年半後、「くいだおれ太郎」はオーストラリアへ消えた=1994年9月4日、関西空港
丹波行きの2年半後、「くいだおれ太郎」はオーストラリアへ消えた=1994年9月4日、関西空港 出典: 朝日新聞

キャンペーン自粛もシナリオに

 ほっぺ探しは1週間で計3万6164件ものツイートが投稿されました。

大勢の人たちが「ほっぺ探し」を楽しんだ
大勢の人たちが「ほっぺ探し」を楽しんだ 出典:【ツイッターの反応】くまモン 赤いホッペ紛失し捜索ビラ「みんなで探してほしいモン」


 話題化のカラクリをチーフPRプランナーの井口理さんに聞きました。

チーフPRプランナーの井口理さん(電通PR)
チーフPRプランナーの井口理さん(電通PR)


 「イベントって、そこに参加した人だけで本来は話題が完結します。そこで今回は、ネットを通じて、自分もその場にいるような疑似体験をいかに作り出していけるかを考えました。くまモンの登場の場所や出方を工夫したことで、追いかけたくなる、見守りたいな、という生活者の人が結構いたと思います」

 「マスメディアとソーシャルメディア、SNSなど情報が流れる構造は複雑です。マスメディアが最初に取り上げると、『結論を見ちゃった』と関心が薄れてしまう可能性があります。ソーシャルで話題を継続させながら、終わりを見せないことが、情報の拡散につながったのでしょう」

The Huffington Post

 「だますような演出」……熊本県庁の広報活動に、ネガティブな反応をする人もいました。税金も使われていますしね。PRプランナーの根本陽平さんによると、4日間のキャンペーンの舞台裏で、そのことにとても気をつかっていたそうです。

PRプランナーの根本陽平さん(電通PR)
PRプランナーの根本陽平さん(電通PR)


 「毎日、ソーシャル上でつぶやかれた声を拾っていました。いまネガティブな声がこれだけある、ポジティブな声はこれだけある、と。もしネガティブな割合が大きくなりすぎたら、その時点でのキャンペーンの自粛もシミュレーションしていました」

 「ただ、実際は『ほっぺ、ここで見つけた』といったツイートの大喜利合戦になりました。突っ込みどころのあるネタで、県のPRで冗談だとわかりながら、割合として圧倒的にポジティブな反応が多かったです。私たちの想像以上でした」

<根本さんのインタビューは、8月21日の朝日新聞・朝刊2面「ひと」に掲載予定です。ぜひあわせてお読み下さい>

 
 このチームが企画した「くまモンほっぺ紛失事件のキャンペーン」は今年6月、アジア太平洋地域のPR業界のコンテスト「PR WEEK アワード・アジア2014」で、イベントを中心に展開した部門の「プロモーショナル・アクティビティ・オブ・ザ・イヤー」を受賞しました。525件のエントリーから、日本で唯一の受賞でした。チームは今後も熊本県の応援キャンペーンを続けたいそうです。

「クリエイティビティに感銘。アイコンに変化を加え、売上にもポジティブなインパクトを与えた」とコメントを寄せる審査員 出典: PR WEEK AWARDS ASIA 2014 審査員グレン・オーサキ氏のコメント
 朝日新聞の「ひと」欄でも、根本さんの記事を掲載しています。 (ひと)根本陽平さん くまモン「赤いほっぺ紛失事件」の仕掛け人

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