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無痛分娩「楽をしている」と思われる… 東京都の助成を取材すると
無痛分娩の費用について、東京都が最大10万円を助成する制度をスタートさせました。無痛分娩での出産を控える女性を取材すると、「特別な出産方法ではない、と後押ししてくれたような気がしてうれしかった」と語ってくれました。(朝日新聞記者・石川瀬里)
10月から始まった東京都の無痛分娩(ぶんべん)に対する助成制度を取材しました。
そのときに出会った、出産を控えている女性の言葉がいまも心に残っています。
「無痛分娩は特別な出産方法ではない、と後押ししてくれたような気がしてうれしかった」
麻酔を使って、痛みをやわらげながら赤ちゃんを産む無痛分娩。欧米と比べて、日本ではまだ少ないのが現状です。
記者自身は子ども3人を自然分娩で出産しました。
里帰り出産した第1子のときは、実家の近くに無痛分娩に対応している病院がありませんでした。
第2子は都内で出産。近くに無痛分娩を取り扱う病院はありましたが、1.5倍近く値段が高いことや、麻酔科医などの状況により「必ずしも無痛で出産できるわけではない」と聞き、あきらめました。
第3子は妊娠に気がつくのが遅く、無痛分娩対応の病院はすでに予約でいっぱいでした。
自然分娩にこだわっていたわけではありませんが、結果的にそれしか方法がありませんでした。
「まず、痛みはゼロではないので、無痛という呼び方を変えた方がいい」
経験者のそんな声は興味深く思いました。
麻酔は、子宮口がある程度開くまで使わないので陣痛もありますし、いきむ感覚がわかる程度に調整されるそうです。
先日、無痛分娩で出産した後輩記者は「痛くないお産で、ほかの方法と違って楽をしている、と思われるのはつらい」と明かしてくれました。
そんな後輩はこうも言っていました。
「出産の痛みに対する恐怖はあった。次があれば、やはり無痛で産みたい」
医療の専門家によると、自然分娩よりも無痛分娩で出産した方が次の妊娠までの期間が短い、という調査結果もあるといいます。
妊娠、そして出産は長い道のりです。
つわりや陣痛、産後の痛み、寝不足が続く新生児のお世話――。そのなかで出産方法は過程の一つでしかありません。
都の助成制度は、ありがたいと思う一方、対応できる病院の少なさや高額料金などの課題が残ります。
都民かどうかで補助が出るか否かが決まるのにも、モヤモヤがあります。
「無事に産まれてきてほしい」という願いはみんな一緒のはずです。
いろんな産み方があっていいし、それぞれが希望する産み方を選べる社会であってほしい――。今回の取材をきっかけに、そう強く感じました。