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IT・科学

「生理、みんな痛いんだから」で片付けないで 宋美玄さんの直言

原因があってもなくても「治療の対象」

「痛い」と言えない理由(アンケートから抜粋)
「痛い」と言えない理由(アンケートから抜粋) 出典: 朝日新聞社

目次

検診や生理痛、頭痛、治療の痛み――。日々、身近に「痛み」を感じながら、我慢をしている人は多いようです。病気や検診などの「痛み」についてアンケートをとったところ、800以上の回答が集まりました。
悩ましい痛みとの向き合い方について、産婦人科医の宋美玄さんに聞きました。

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宋美玄さん(プエルタ・デル・ソル提供)
宋美玄さん(プエルタ・デル・ソル提供)

「子宮体がん」無症状の検査しなくていい

――「子宮体がん検診が痛すぎて絶叫した」と訴えた投稿がツイッターで拡散されました。痛みは我慢するしかないのでしょうか。

まず、子宮体がんの検診について言うと、「痛い」とか「痛くない」という前に、そもそも症状がない人が受けて有効だというエビデンスがないんです。

生理が不順な人や、子宮の中に腫瘍が疑われる人など、医師が「検査が必要」だとした人に対して、「ちょっと痛い検査ですけど、がんかどうか調べてみましょう」と検査を勧めることはあります。

でも、無症状の人に、意味がないのに子宮の中に棒を入れるような検査をすることは、無痛であったとしてもありえない。「無駄に患者さんを傷つけるようなことをしてはいけない」という医療の大原則にもとる行為です。

子宮がんの種類
子宮がんの種類 出典: 朝日新聞

「痛いから受けない」よりは自己採取

胃カメラは麻酔が効きづらくて大変な思いをし、マンモグラフィーも乳腺症のため痛くて脇汗をだらだらたらしながらキツかったし、子宮がん検診も恐怖でしかない。どうして痛い検査ばかりなのか。検査が痛くないならもっと早く病院に行くのに。(宮城県 40代女性)
朝日新聞フォーラム「体の痛み、どこまで我慢しますか?」

――実際に子宮体がんの検診を受けた人が「麻酔もしてもらえなかった」「もう検査を受けたくない」と痛みに対しての訴えがありました。

医療側にすると、もちろん効率的よく効いて、副作用も少なくて、コストも安くて、簡便な麻酔があれば、やります。
でも子宮体部に、簡単に効く麻酔はないんです。
手術の手続きをして入院し、眠らせるような麻酔までして、検査をするかというと、そこまでしてほしいと言う方は少ないのではないでしょうか。


――子宮頸がんの検査でも痛みがありました。痛み止めはないですか。

子宮頸がんの検診には、「痛い」と言う方には、私は膣の入り口に麻酔のゼリーはします。入り口に対して効くものはあります。

でも、痛み止めは即効性がなく、子宮内に避妊具を入れるときなども痛みでうずくまってしまう人はいます。

それに、子宮頸がんの検診の場合、もし麻酔を打ったら病変が見えなくなってしまいます。
検査を何のためにするかというと、病気かどうかを診断するためですが、もし、がんを見逃してしまったら、元も子もありません。

健康診断のオプションで子宮がん検診を受けた時、とても痛くて検査後も一日中辛かった。
検査時は痛くても我慢しなければ終わらないと思って耐えたが、できればもう受けたくない(大阪府 30代女性)
朝日新聞フォーラム「体の痛み、どこまで我慢しますか?」

――痛みがトラウマになって、検査を受けたくないという人もいました。

痛い検査を強制することはもちろんしませんが、不特定多数の人に「痛いなら、検査しなくていいですよ」というのも責任ある応答とは思えません。

まだ、性交経験がないのに子宮頸がんの検査を受けていたら「それは不要ですよ」とは言えます。
でも、性交経験がある方には、子宮頸がん検診は、最低でも2年に1度は受けてほしい。

ひとつの提案としては、子宮がんなどの原因になるウイルスの自己採取HPV検査があります。精度は落ちます。
でも「痛いから検査は受けない」というぐらいなら、自己採取でも検査を受けてほしいと思います。

相談で、ちょっとは「マシ」に

――患者の立場としては、「痛い」となかなかお医者さん言い出せない悩みもあります。

私は、患者さんから「もし検査の痛みや、負担が、簡便な方法でとれるんだったら、お願いしたいのですが」と相談されたことがあります。

「とにかく痛いのが嫌」というわけではないとの気持ちを伝えてもらうことで、こちらとしても、それなら麻酔ゼリーや痛み止めなど、ちょっとは痛みが「マシ」になる方法があることを、相談しやすくなります。

ただ、検査によっては効率的に痛みを取ることができないときもあります。胸をつぶすマンモグラフィーもなかなか痛みを取るのは難しいです。

病気を的確に発見することを犠牲にしてまで、検査の方法を変える、というのは医者としては薦められません。

「痛いのが普通」と言われてきた

――今回、痛みについての意見で、800以上のアンケート回答がありましたが、そのほとんどは女性からでした。

たしかに、がん検診でいうと、乳がん検診のマンモグラフィーがあったり、子宮ガン検診も内診で器具を挿入したりして痛みを感じる人も多く、女性の方が、痛い目に遭うことが多いですね。

そしてやっぱり、生理痛や出産で、痛みを感じる機会が、女性は多いかもしれません。


――寄せられた声を見ると、「生理痛はみんな痛いもの」と言われたり、「これぐらいたいしたことない」と言われて、「痛み」を周りに言いづらくなっている人たちが目立ちました。「痛みって我慢するものだ」という風潮があるのでしょうか?

たとえば、腹痛なら病気があるかもしれないので、「それぐらいで病院行くな」とは言われないでしょう。

でもこれが、生理痛や陣痛だと「痛いのが普通」。
病気が隠れているようには思えないから、「我慢しろ」とか、「痛み止めで我慢しよう」「みんな痛いんだから」となってしまう。


――女性は生理痛や陣痛など、「病気」が原因ではないとされる痛みを抱え、「我慢するしかない」状況にさらされやすいのかもしれないですね。

でも、先端の女性ヘルスケアの考え方では、生理などの痛みは「痛かったら治療の対象」になるんです。
ただ、時代が追いつく前は「みんな痛いから」「あなたは病気じゃないから」と、我慢するように言われがちだった。

子どもの頃から偏頭痛など痛みが強く出る体質でしたが、人に伝えるものだという認識がありませんでした。生理痛がはじまっても黙って痛み止めを飲んで耐えることを続け、30代半ばに受けた検診からやっと医療につながることができました。 痛みによるQOLの低下は今思うとひどいものがあり、もっと早く病院に行くことを考えていれば、辞めずに済んだ仕事もありました。 現在は薬による痛みのコントロールをしており、だいぶ過ごしやすくなっています。 痛みは耐えるものではないということを、若い世代に伝えて行きたいと思っています。(神奈川県 50代女性)
朝日新聞フォーラム「体の痛み、どこまで我慢しますか?」

――例えば、生理痛の裏に病気が隠れていることもありますよね?

何か原因となる病気があって痛い場合と、何もないけど子宮が毎月妊娠の準備をするだけで生理痛が起こる人もいます。
どちらの痛みも治療の対象です。どちらも「我慢しろ」ということにはなりません。

――「生理痛は治療の対象」というのは、まだ認知が十分ではない気がします。

そう思います。医師でも、生理痛の患者には痛み止め、生理の量が多い人には鉄分の薬を出すだけ、という方はまだいます。

「生理痛なんかで」思わなくていい

出典:朝日新聞フォーラム「体の痛み、どこまで我慢しますか?」

――「痛みがどのくらいになったら医者に診てもらう?」という質問には、「一番強い痛み」と答えた人が大半でした。

本当は、痛みがなくても、年に1回はかかりつけの産婦人科医に行って、問題がないか診てもらった方がいいです。痛みがないとしても、かかりつけ医を作ってほしいです。


――痛みを我慢する理由に、「受診のタイミングが分からない」というのもありました。

「生理痛なんかで病院に行ったら悪い」という感じなんでしょうか。でも、症状があるのだったらそんなに心配しないで来て頂ければ良いです。


――もし、かかりつけがあったら、より相談しやすくなりますよね。

かかりつけても良いなと思えるクリニックがあるって大きいですよね。
地域にもよりますが、基本的に、ホームページを見て、丁寧に診療するという病院かどうか、ある程度の姿勢はホームページでも分かるので、探してみると良いと思います。

痛み止めは早めに飲んでいい

出典:朝日新聞フォーラム「体の痛み、どこまで我慢しますか?」

――痛み止めについても、痛みが中ぐらい以上になってから飲む人が多かったです。

痛み止めも市販されてますが、皆さん「我慢できなくなってから飲みます」と言いますね。

私も親に「痛み止めとか飲んでいると、薬の『悪い物』が身体にたまって、将来産む子に悪い影響がある」とかすり込まれてきました。極限まで我慢している人が多いけど、そんな風に我慢していると、効くまでも遅くなっちゃう。飲む頻度にもよりますけど、早めに飲んだ方がいいです。

――痛み止めが将来よくないというのは迷信でいいのですか?

薬の成分は代謝されて身体からなくなっていきます。子どもに影響するというのありません。ただ痛み止めには副作用もあるので、頻繁に飲んだら胃も荒れ、肝臓や腎臓に負担がかかることもあります。
「痛いなら、じゃんじゃん飲んで」とは言えませんが、それほど罪悪感なく、痛い時は飲んでも大丈夫ですよ、と受け止めてもらえるといい。

痛みに意味づけ、必要ない

――痛みをどう訴えていけばいいのでしょうか。「我慢強いことが良い」とされてきた考え方は、ある一定の世代には残っているように思います。

私が患者さんによく無痛分娩のこと聞かれて答えるのは、「痛みそのものには全く意味はない」ということです。

例えば、ある世代だと、帝王切開する人に「我慢強い子にならない」など、いまだに言う人がいる。
「避けられない痛み」に関して、意味づけをして、合理化してきた。でも、そういう人には、「痛いのを我慢したから偉いというわけではない」し、とりあえず「痛みに意味付けをする必要はない」と伝えていかないといけないですよね。

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ただ、ほかの人の痛みを軽視する人って、だいたい共感力が少ないと思うんです。
「痛いんですよ」と訴えても、今さら分からないんじゃないかと思ってしまう……。

だから、痛みに何か意味付けをしている人には「意味はない」と伝えつつ、痛みを軽視したり共感したりしない人には、一定のコミュニケーションの努力はしつつ、「絶対に分かってもらえる」訳ではないのかなとも思います。


――「女性の痛みを軽視している」という声もありました

そういう医師もいるかもしれません。

ただ「女性の痛みが軽視されている」と言い続けても、麻酔分娩は普及しません。

無痛分娩が広がらない背景が、みんなが「出産はおなかを痛めてこそ」と思っているから、というわけではないからです。

無痛分娩のメリット・デメリット、施設数、麻酔科医の養成、コストなどの背景があります。

普段から多少の痛み(生理痛、頭痛、婦人科検診等)は無意識に我慢して生活している。よほど痛くて仕事や生活にに支障がでるようであれば受診する。というのが当たり前になっているが、改めて考えると苦しいのなら我慢しなくていい、というのが当たり前の社会の方がみんな生きやすいですよね。と思いながら、今日も我慢して少し無理して生きている。(北海道 40代女性)
朝日新聞フォーラム「体の痛み、どこまで我慢しますか?」

――「痛みを我慢しない社会」にするために、身近にできることってありますか? 子どもに安易に「我慢して偉い!」と言わないようにする、とか。


残念ながら、即効性のある鎮痛法がなくて、結果的に痛みを我慢するしかない場合もありますよね。
子どもが足をぶつけて「痛い!!」と言っているとき、もし骨折のように長い時間続く痛みだったら薬で抑えていく方法が選択されるかもしれないけど、今ぶつけて痛いという場面なら、なでなでして「痛いの飛んでいけ」と言うしかない、とか。


でも、生理痛に限って言うと、ある程度痛みを根本的に減らす方法もあるし、痛み止めもある。


――我慢するしかない痛みと、我慢しなくてもいい痛みを切り分けて、医療の進歩とともに、一般の理解もアップデートしていくということでしょうか。

「痛み」全般をひとくくりにして語ることは難しいですが、根本的な原因を解決すると我慢しなくてよくなる痛みもけっこうあるんじゃないかと思います。

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